タッチストーン

カーリングをプレーしていると、意図せず石に触ってしまうことがある。その場合どうするかは、シチュエーションごとルールで決められている。触った人が、ゲーム後チームメイトに何をおごらなければならないかはチームそれぞれで決めている。
シチュエーションの場合分けで重要なのは以下の3要素である。 1)触った時、石は動いていたか止まっていたか 2)自分の石に触れたか相手の石に触れたか 3)触った場所は(プレー側の)フォグラインを超える前か後か
現行のルールだと、 1)動いている石に 2)そのチームの選手が 3)フォグラインの内側 で触ってしまったときは、まず、全ての石が静止するまで待つ。(チェコの選手がそうしたのはルールがそうなっているからです。)
そして触らなかったチームには以下3つの選択肢が与えられる。 1)接触があった石を取り除き、動いた石を元の位置に戻す 2)そのままにしておく 3)接触がなかったらこうなっただろうという配置に置きなおす
『選手同士の話し合いで決める。話し合いがつかなかったらエンドをやり直す。』などと説明する人をたまに見かけるが、それは誤りで、選択権があるチームが規定されている場合には、その決定が優先される。選手ではない人や物が石に接触した場合などを除き、エンドやり直しになることはルール上はない。
以上のことは競技規則に明文化されているから、誤解をおそれず言うならば、いわゆる「カーリング精神」はあまり関係ない。
同じシチュエーションで、静止まで待たず、接触した石をすぐに除去する人がたまにいる。これはルールには明らかにのっとっていないのだが、状況により認められている。例えば複雑な配置にウェイトのある石を接触させてしまった場合、再現が困難(事実上不可能)になってしまうおそれがある。
それを回避するため、接触した石を即止める、という判断をすることが合理的(と瞬間的に判断する)場合があるのだ。これはルールに書いていないが、「何やってんじゃコラ!」とはならない(むしろ、よくぞ止めた!と褒められたりする)
ここで、接触された側のチームが「ルール違反だ!」と審判にアピールしたり、「もし当たってたらどうなっていたか?」を慎重に検討しはじめたら相当ひんしゅくをかうだろう。これは明文化されてないので、いわゆる「カーリング精神」の介入する部分だと思われる。
実は一昔前までは上記のケース、すなわち「動いている石にそのチームの選手がフォグラインの内側で触ってしまったとき」は「接触した石を取り除き/動いた石を元に戻す」一択だった。
それが、2000年前後に「基本的には取り除き/元に戻すが、それだと反則をした側のチームに有利だと反則しなかった側のスキップが考えた場合、そのままにしておく又は接触がなかったらこうなっただろう配置に置き直すこともできる」というように改正された。
その後、さらに改正があって「反則しなかった側のチームに3つの選択肢を与える」と文言整理された。(文理上は優先順位をなくしたともいえる) 「反則した側のチームに有利かどうか」は主観的要素で、規定に明文化するのは好ましくない、というのが、整理の理由と当時説明された旨記憶している。
このような経緯から、例示のシチュエーションにおいては「接触した石を取り除き/動いた石を元に戻す」という措置がいちおう原則なのだが、それ以外も選択できますよ、という方向にルールは改正されてきたといえる。これを忘れている(知らない)カーラーが増えているのではないか。(20年経ったから)
プレーとその後の措置には疑問を挟む余地はない。日本(Abe)としては、3つの選択肢のうち「接触がなかったらこうなったろう」という位置に配置しなおす事を選び、接触がなかったら、赤石も黄石も、ロールアウトしていただろう、と判断したのだろう。
国際映像を見る限り、石がハウスに残った可能性もあるように感じるが、それは、アイス外から「神の目線」で見ている我々の持ち得る感想であって、プレーしている選手はそう思わなかったのだろう。(プレーしている選手はリプレイ動画を見ているわけではない)
どうするのが有利か?(不利か?)という要素はそもそもルール上問題にならないのは述べたとおりで、再配置する場合には、多角的に検討するため、双方(日本とチェコ)の意見を参考にするのが合理的だから、おかしな要素は無い。ただ、決定するのはあくまで日本である。それ以上でも以下でもない。
ひとつだけ言いたいとすれば、こういった改正履歴や改正の主旨をつかんでいなければ、条文だけ読んで解釈を誤る可能性が否定できない事で、類似の例は本業(私は地方公務員)でよく見かける。改正履歴/理由書や実例集、判例などを読むということをしなければならない。
昔のWCFのウェブサイトはダサい見た目だったが、そういった規則の改正履歴をほぼほぼ全部アーカイブしてくれていた。だから10年前だろうが20年前だろうが、基本的には経緯が追えた。今は難しい、直近の改正以外はアップロードされない運用にしているのではないか。
2000年代にウェブサイトを突然FLASH全開のモッダーンなものにリニューアルしたときに、管理者が過去のデータの大半を整理してしまった。だからもう見られない。
事前に告知しててくれれば保存したのに、いきなりやられたから、しそびれてしまった。残念でならない。(サプライズのつもりだったかもしれないが、うれしくはなかった) 誰かアーカイブしている人がいればコピらせてもらいたいと思っている。
そのあたりから、通称「マニュアル」も公開されなくなってしまった。これは、競技規則の想定するところや、事例、解釈の基準を蓄積したテキストであり、運営の細かな慣例を含むノートだった。実務上は大変重宝した。 これも、誰かアーカイブしている人がいればコピらせてもらいたいと思っている。
2024 Apr02 13:13:26GMT

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?