あやかさん表紙

自然が詰まった和紙づくりを大切にする紙漉きアーチスト。

社会福祉法人地蔵会が運営する障害福祉サービス事業所「空と海」では、現在、様々なものづくりを行っていますが、開設当初からずっと続いているのが紙漉きです。
※「空と海」に関しては「INTAVEW NO.1 機織りArtist せいかさん」記事もご参考に。

ギャラリーやレストラン「らんどね」で、自然素材をふんだんに使った印象的な和紙の作品を見かけました。工房で行われている紙漉きから生まれた作品です。敷地に自生する木々を原材料に加工していく作業からはじまり、かなりの手間をかけて作り上げられる和紙は、上質で天然の温かみがあると評判も上々。今では個人だけでなく企業からも注文がくる「空と海」の看板商品です。工房にはそんな和紙づくりを長年続けている、紙漉きのベテランがいるそうです。とてもやさいい風合いの和紙を作る、あやかさんという女性です。

紙漉きは、他の作品づくりとは異なり、きちんと決まった工程を一つずつこなしていかなければなりません。そのため、作業の時間配分や天気、原料の確保など、様々なことを配慮し、計画して行わなければならないレベルの高い制作作業になります。
障害のある方がそうした作業を習得し、ベテランレベルに達するには、たくさんの努力が必要だったことが想像できます。希望を持ってチャレンジすることで前に進むことができるし、無心で努力したことは無駄にはならない。ただ、それがわかっていても実際に根気よく、長い時間をかけて一つのことをやり続けるのは、簡単なことではないはずです。
努力家のあやかさん、どんな方なのでしょう。会ってお話しがしたいという思いが一層、強くなりました。

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ギャラリーのある場所から、少し離れた別棟にある紙漉き工房は、「空と海」がこの地に移り、最初に開設した工房です。ここで冷たい水を使って紙漉き作業を行っていたあやかさんは、しゃきしゃきと動き、よく笑い、よくしゃべります。明るくサバサバしてて話しやすく、おおらかな人柄。ふと、丈夫で風通しがよく、素朴でやさしい和紙のことが頭に浮かび、彼女と重なり合うものを感じました。

紙漉きは外での作業が多く、冷たい水を使うので、冬は辛い作業です。あやかさん、紙漉きのどんなところに魅力を感じているの?

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「作り方を覚えるのも楽しかったし、自分で作ったものがきれいな和紙になるとうれしいです。いろんなものを混ぜると、違った雰囲気の和紙ができるのもすごく面白いんですよ!」

彼女は中学卒業後から「空と海」に通い、ほどなくして和紙作りを始めたので、20年以上も経験のあるベテランの紙漉き職人です。なんと現在、弟子(?)の育成中!後輩に紙漉き作業を教えている最中でした。

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いくつもの工程を経て完成!ひとつ先に進むごとに楽しみがある。

紙漉きは、まず材料の調達から始まります。材料は敷地内にある木々から採取しているそうで、そこから驚くほど手間をかけて和紙が出来上がります。完成するまでの工程は、なんと10以上も!そんな重労働の末にできた和紙に、高い価値があるのは当たり前という気がします。

■和紙作りについて

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※ 敷地に育つ木々、「楮」(こうぞ) 、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)が和紙の原料となる。

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※原料に使えるのは木の皮だけ。皮をはぐ作業も重労働。

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※皮を水に浸し、煮て、再度水にさらしてあくを抜き、チリや傷などを取り除く。その後、やわらかくなった皮を打解機を使い繊維をほぐす。やっと材料らしい形状に。


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※これが紙漉き前の原材料。原材料づくりの道のりが長い。

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この日、紙漉き工房ではバタバタとあわただしく人が動いていました。ホテルからの依頼が入り、名刺に使うための和紙を作るそうです。職員の皆さんは対応に追われて忙しそうでが、そんな中でも、あやかさんはマイペース。動じる様子もなく、紙漉きの知識も体験もない私に一生懸命、説明をしてくれます。

話をしていて、大丈夫ですか?

はい、大丈夫よ。

焦り気味の私。にこにこ笑顔で話し続けるあやかさん。どんな場面でも余裕のマイペースが変わることはないようです。力を入れ過ぎず、頑張り過ぎないことも自分らしさを失わない秘訣かもしれません。私も肩の力を抜いて、もっと心に余裕をもたないとダメなんじゃない。と自分を見直すいいきっかけになりました(笑)

あやかさんが制作した和紙はどんな感じ?

完成手前の和紙を見せてもらいました。やさしい天然色に植物の葉や草が混じった素朴な作品。触れてみると、薄いのにしっかりした質感。手作りならではの丁寧さが感じられます。これなら、外国の要人が手にしたら気を惹くこと間違いなしです。注文先は、きっとおもてなしの意識が高いホテルなのでしょう。

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夢は天然の植物が凝縮された作品をつくること。

和紙は世界一長持ちする紙と言われているそうで、優れた保存性があります。1000年以上も昔の和紙が今も残っていると聞き、世界に誇れる日本人のものづくりを実感しました。

全国各地で行われていた紙漉きによる和紙作りですが、生活様式の変化などで需要が減り、伝統的な手漉き和紙の職人の数は減少しています。そうした状況の中、あやかさんのような若い職人さんが育つ「空と海」は貴重な存在です。日本の伝統技術を残すだけでなく、障害のある方に寄り添い、成長をサポートし、見守り続ける。これからもっとこうした場が増えていくことを願わずにはいられません。


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あやかさんが、和紙に混ぜ合わせるという材料を見せてくれました。

これは藁?なんでしょう?

ハーブの葉を乾燥させたものだそうです。他にも、木くずや雑草を乾燥させて混ぜるなど、天然のものは何でも材料となり、その都度、違う雰囲気の和紙が出来上がるので、そこに面白さがあるそうです。

「最近、玉ねぎの皮を入れた和紙を作ったら、面白い感じに仕上がったんです。もっといろいろ試してみたい」

玉ねぎの皮! なかなか斬新な発想ですね。あやかさん、和紙作りでチャレンジしたいことがたくさんあるようで、これからどんな作品が生まれるか、とても気になります。

作り手の心の声が聞こえるかのような印象的な作品。作者は?

レストランや施設内に、和紙のアート作品がいくつも飾られています。大胆で強い思いが込められているような印象深い作品です。作者について尋ねてみました。

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作者はあやかさんの紙漉きの師匠でもある、施設長の奥野満さんでした。若い頃、高野山の寺に修行に入り、僧侶となったご経験の持ち主で、その後、障害のある方のための作業所をスタートさせたそうです。「空と海」という名前の由来は、弘法大師空海を意味するということも納得です。

社会にうまく適応できない人たちの居心地の良い場所でありたい。

施設長の思いは「空と海」の源です。通所する障害のある方、サポートする職員の皆さん、支援する方々、たくさんの人の心を動かす原動力になっているように思えました。

あやかさんに、これからやりたいことを聞くと、施設長が手掛けた作品のように、自然の素材をたくさん使った大作に挑戦したいと教えてくれました。弟子が師匠を越える日は、そう遠くないのかもしれません。

ギャラリーを訪れる際は、営業日、時間などを事前連絡でご確認ください。

あおいさん裏

Writing:Rie Maeda





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