産後のブルーをちょっと救ってくれたエッセイ『きみは赤ちゃん(川上未映子)』

ここ数日、作家川上未映子さんの書いた妊娠出産に関するエッセイ『きみは赤ちゃん』を読んですごく心が癒されたのでその話を。

我が家に赤ちゃんが来てからというもの、あまりに全てが新しくてめまぐるしすぎる毎日。自分が感じているぐちゃぐちゃとした感情をうまく言葉にして消化することができていなくて苦しかったけど、この本を読んだらまさに自分が感じていたことがうまく代弁されていて、心に沁みた。同じ事を感じている人がいたんだと思って安心した。

どう言う訳か、育児は(あるいは産後だけなのかもしれないけど)すごく孤独で、だからこそこのエッセイの筆者に共感できたことがすごく助けになった。人って共感することでこんなに癒されたり安心したりするのだな。

例えば、産後クライシスについて。我が家も産後1ヶ月の間はちょっとした産後クライシス的な夫婦間の気持ちのすれ違いがあったのだけど、、

「ああ、わたしたちふたりの生活、ふたりの子育て」っていう、ふたりが共有できる当事者性

『きみは赤ちゃん』川上未映子

そうそう、この「ふたりが共有できる当事者性」っていうのが夫から感じられないような気がして、あの時期すごく苦しかったんだなあってことに気づいた。


川上さんが赤ちゃんをおにぎりからとって「オニ」と読んでいるのもとても可愛い。川上さんがある日の朝、「オニ」を抱っこしながらその目を覗き込んだ時の気持ちが書かれているのを読むと、すごく心がぎゅっとなって涙が出てくる。

まだ言葉をもたないオニ、しゃべることができないオニは、まるでみたものと感じていることがそのままかたちになったみたいにして、わたしの目のまえに存在している。オニはそのまま、空であり、心地よさであり、空腹であり、ぐずぐずする気持ちであり、そして、よろこびだった。オニは、自分がこんなふうにして空をみていたこと、なにかを感じていたこと、泣いたこと、笑ったこと、おっぱいを飲んでいたこと、わたしに抱かれていたこと、あべちゃんに抱かれていたこと、こんな毎日があったこと、瞬間があったことを、なにひとつ覚えてはいないだろう。なんにも、思いだせないだろう。でも、それでぜんぜんかまわないと思った。なぜならば、この毎日を、時間を、瞬間を、オニが空をみつめてこのような顔をしていたことを、わたしがぜんぶ覚えているからだった。

『きみは赤ちゃん』川上未映子

わたしの腕の中で不思議そうにきょろきょろした目をしているわたしの赤ちゃん。こんな気持ちになれると、夜泣きの抱っこもすごく幸せに感じるなーと思えた(眠いけど、しんどいけど)。

それにしても、小説家って羨ましいな。自分が感じたことをこんなに解像度高くかつ詩的に表現できるのが。川上さんの素敵なエッセイのおかげで、自分の中でもやもやしている部分が癒されたし、逆に自分が気づいてなかった今のこの暮らしの素晴らしい部分も見つけることができた。

今もどこかで赤ちゃんと向き合ってるママさんたちにおすすめの一冊。

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