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超短編恋愛小説

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2016年5月の記事一覧

恋愛の秋

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

その夜は年に数日しかないような、心地よい風を感じる夜で、僕はお店の入り口は開け放し、ブロッサム・ディアリーの1984年のライブ盤を小さな音でかけ、お客さまが来店するのを静かに待っていた。

そこに常連の有里さんが入ってきた。彼女は華やかな花柄のワンピースを着ていて、僕は夏が入ってきたのかと思っていたら、彼女も「いつの間にか夏ですね」と言った。

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木村さんと吉田さんの恋

木村さんがbar bossaに来店して、こんな話を始めた。

「林さん、僕、会社にすごく好きな女の子がいて。『おはよう』とかは前から言ってるし、2回くらいみんなで飲みに行ったこともあるんです。

林さんがよく『こんど食事にでも行きませんか、って言えば良いんですよ。よっぽど嫌いなタイプの男性じゃなけりゃ女性は食事くらいは行くみたいですよ。それで断られたら、貴方のことが生理的に嫌いなタイプなのか、今付

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雪の中で

正美さんが来店してこんな話を始めた。

「林さん、この前の冬、新潟の方で、大雪で足止めされた車が2台あったニュースご存知ですか?

あの1台、私が運転してたんです。

もう突然の大雪で、あれよあれよという間に雪が積もってしまって、私の車、もう完全に動けなくなってしまいました。

とりあえず携帯電話で110番か119番に連絡しなきゃと思ったら、山奥だから圏外だったんです。時間は夜の10時でした。

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中学生の恋

#小説 #超短編小説

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

先日、湿った小雨が降る夜、近くの本屋で働いている竹内さんが来店した。

竹内さんは「なんだかもう梅雨なんですかね」と言いながら、カウンターに座り、「季節のカクテルを軽めで」と注文した。

僕は「もうリンゴはこれで最後ですね」と言いながら、青森の王林を絞り、竹内さんの前に出すと、一口飲み、こんな話を始めた。

「中学2年

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