八百屋よ永遠なれ

野菜陣営と果物陣営の戦争が始まった。

キャベツがイチゴを撃ち、リンゴがキュウリを刺した。

スイカが砂浜で、目隠しをした野菜たちに殴り殺される前に自爆テロをし、タマネギは切り刻まれ、みんなは涙を流した。

そして辺りには屍の山が出来た。

               ※

このまま両陣営とも一歩も譲らず戦局は冷戦状態になるかと思われていた時、彗星のごとく現れたのがトマトだった。

トマトはもちろん野菜陣営の一員だったが、最近は糖度も増し、かなり果物的性格を見せ始めていた。

さらにある時にはソースにもなるしジュースにもなれる自由な立場から、まず果物陣営のパイナップルに声をかけた。

「パイナップルよ。君は果物なのにたまに給食の酢豚の中に入れられて、子供たちがパイナップルだけをより分けて残すことがあるだろう。

いったい果物って何だろう? 野菜って何だろう? どうして僕たちはこんなにいつまでも『違いを区別すること』にこだわっているんだろう。

想像してごらんよ。野菜と果物の間に境界線なんてないことを」

するとパイナップルは立ち上がった。

そして、「生ハムとメロン」に使われているメロンや「タイのサラダのソムタム」に使われている青いパパイヤにこう声をかけた。

「想像してごらんよ。野菜と果物の間に境界線なんてないことを」

もちろん野菜陣営もそれに答えた。

デザートのムースに使われるアボカドが立ち上がり、一見果物的なギンナンも立ち上がった。

栗や枝豆やコンニャク芋といった、穀物なのか果物なのか野菜なのかわからない者たちも立ち上がった。

そう、立ち上がり、この世界の架け橋になったのは、境界線上に立ち常に差別されていたマイノリティ達だったのだ。

差別されていたマイノリティ達は「本当は自分達は古い制度である境界線から一番自由な立場だったんだ」と気がついた。

そしてみんなが歌った。

「想像してごらんよ。八百屋の中に境界線なんてない世界を♪」

そしてその輪は八百屋中に広がり、みんなは立ち上がり、口々に「八百屋に平和を♪」と歌い始めた。

八百屋よ永遠なれ!

#食欲の秋 #超短編小説

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林伸次

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