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濃い酒が飲みたい③

彼はいつも遅い時間に来店される。
仕事が終わらず終電に間に合わないのは普通らしい。
そんな状態で家に帰って直ぐには寝れない。
リセットするための時間が必要。
その為に酒を飲んで気分転換する、と
来店理由を教えてくれた。

今日もいつも通り「濃い」ウィスキーを楽しんでいる。

今夜の一杯目はラガヴーリン12年カスクストレングス。
カスクストレングスなので当然アルコール度数60度近くある。

これが最初の一杯目なのだ。

通常なら最後の〆の一杯に位置付けてもおかしくない濃さだ。

この濃さに慣れてきたのか最近は一杯飲み終えるペースが速く
なってきていると僕は感じている。

決して急いでいる様子は見受けられない。

むしろウィスキーが美味しくて身体が欲しているのかなと?

と考える方が自然かも知れない。
そんな飲みっぷりだ。

二杯目はラフロイグトリプルウッドを注文された。

度数は先のラガヴーリン12年より弱いが
ピート感は圧倒的にこちらが勝っている。

つまんでいるミックスのナッツの塩気を考慮すると
このタイミングでラフロイグトリプルウッドは
「いいチョイスだ」
と僕は心の中で呟いた。

これも当然ストレート。

初回来店からはかなり足を運んでいただいて当店のそれなりの数の
ウィスキーは制覇している。
しかし首を横に振るようなウィスキーは今まで一度もない。
かといって絶賛するような銘柄は今のところキルホーマン
マネージャーズチョイスだけだ。
それ以外見つかっていない。

まだトライしていない銘柄はいくらかある。
その中に彼を喜ばせるものがあるだろうか?
そんな不安が杯数が進むにつれて大きくなっていくのを僕は実感していた。

お腹が空いているのかナッツを食べる手は忙しい。
止まったと思うとグラスを傾ける。
それの繰り返しだ。

「最後は何にしようかな?」

と言いながら棚に並ぶボトルを眺め品定めをしている。

グラスに注いで静かに彼の前に置いた。
選んだのはダンカンテイラーのビッグスモーク60。
ボトラーズウィスキーだがアイラ島の蒸留所の原酒を
使っているのだが実際は謎である。
ボトラーズウィスキーにはそんな楽しみ方がある。
味覚や経験を頼りに原酒は何だろうとイメージを膨らませながら
酒を楽しむ。

これは度数60度。

以前ビッグスモーク40を買ってみたが物足りなさを感じたので
60を買ったという経緯である。

これは僕の好みに合い40よりこちらが好きだ。
上品な甘さにスッキリした優しさがある。
ビッグスモークとはいうもののスモーキーさはさほど強くないが、
好きなテイストだ。

そんなことを思いながら彼の反応を待つ。
「これって60度でしたっけ?」

  「そうですよ」
  「以前40を買ったんだけど、物足りなかったので60を
   買ってみたんですよ」

「60度感じないですね」
「色は薄いけどすいすいいけちゃう」
笑みがこぼれる。

気に入った様子だ。

今日の三杯では一番ペースが速かったかも知れない。
あっという間にグラスは空になっていた。
満足そうな彼の表情に僕も少し嬉しかった。

アイラ島には蒸留所は八か所しかない。
その八か所のウィスキーを合わせてもアイラモルトというものは
そんなに数は多くない。
残り僅かなウィスキー数に彼のお気に入りが見つかるといいな
などと思いながら見送った。








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