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父記録 2023/6/23

6/23
天気は忘れた。
福太(犬)が前夜から下痢と嘔吐を繰り返していた。
数日前から胃腸の調子が悪そうだったのだ。
いや、たぶん2週間くらい前から具合が悪かったのだ。でも食欲はあるので夏バテかな?くらいに思っていた。余裕がなかった。ごめん福太…。
週末、病院が休みだったのでおかゆを炊いて小分けに食べさせてみたりしたが、嘔吐も下痢も酷くなるばかりで、朝イチでかかりつけの動物病院へ向かう。
おそらくウイルス性胃腸炎だろう、とのことで薬をもらった。

昼に帰宅してすぐに首都圏子ども劇場のオンライン企画会議。
「子ども劇場」というのは全国にあって、子どもたちに生の音楽や演劇の体験を届ける活動をしている。
私たち「創造団体」=創る側は毎年この時期になると全国で開催される企画会議に参加して各地の「子ども劇場」さんに自分の作品をプレゼンしたり質問に答えたり、子どもたちの置かれている状況について意見を交わしたりする。
ここ三年間の企画会議はコロナの関係でオンライン開催となっていたが、今年からは通常のリアル開催に戻す地域も増えてきた。
久しぶりにリアル参加したい気持ちはあったが、万が一を考えると遠征を避けたい気持ちもあり、今年はオンライン開催の会議のみに参加希望を出した。
自分の番が来て、「月と踊り子」という作品の説明を始める。
「月と踊り子」はひとりぼっちの踊り子とひとりぼっちのお月さまが恋をして、新しい命が生まれ、育ち、やがてその子も踊り子になり、咲き、枯れ、散ってゆく…というただそれだけのお話。
小さな小さな名もなき命の営みを、その煌めきと強さと儚さをただただ描きたいと思って作った作品で、それが今枯れゆく父と重なって、話しながら泣きそうになってしまった。
水分と弾力を失って枯れてゆく体。
枯れながら重くなってゆく、命。

私の作品は祈りのようなものかな、と考えたりした。

母と二人で病室に入る。
大部屋の面会時間は30分。
母は父の頭や顔を蒸しタオルでぐいぐい拭いた。
私は足を蒸しタオルで包んで揉んだ。
父はちょっと顔を顰めていた。

帰りの車の中で母と軽く口論になった。
親子は難しい。そしてみんな疲れている。
母を駅で下ろした後、大きな声で今の気持ちを叫びながら青梅街道を走った。

仕事場で留守番していた犬たちを拾って帰宅。
今日が、やっと終わった…
台所に座り込んでしばし放心していた。

放心しながらふと床を見ると茶色い足跡がついていた。

朝、片付け損ねた福太の下痢ピーをさぬきが踏んで歩き回っていたのだ、と気がつくのに30秒くらいかかった。
足跡は犬のトイレから点々と広がって、ラグ、ヨガマット、ソファ、階段を通って寝室へと続いていた。
今日はまだ終わっていなかった。

さぬきの足を洗い、床を拭き、帰宅した夫に床を任せて階段を拭き、ヨガマットを洗い、ソファカバーとベッドカバーをひっぺがして洗濯機に突っ込むべく階段を駆け降りるとさぬきが慌ててソファの下に潜り込んだ。
覗き込むと申し訳なさそうな目をして大きな体を丸めてこちらを見ていた。
「あたしが悪いことしたからみんな大変なんだ…」
さぬきは悪くない、悪くないよ、ごめんね下痢ピーさっさと片付けなかった私が悪いよ…
さぬきをひっぱり出して抱きしめる。福太が不思議そうにこちらを見ている。
夫は床を拭き疲れて床に寝落ちていた。

怯えるイヌと下痢ピーのイヌと、疲れたニンゲン。
みんなかわいそう。みんなおつかれ。
明日はいい日になりますように。

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