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2024.4.20 J1第9節 北海道コンサドーレ札幌 vs サンフレッチェ広島

札幌のホームゲームです。
札幌は前節退場している大森が出場停止。鈴木も怪我で離脱中で、トップには駒井が入りました。2列目左にスパチョークが入ります。
広島は荒木、ドウグラス・ヴィエイラ、ピエロス・ソリティウらが離脱中。CB中央には中野、トップには大橋を、それぞれ右WBと2列目からコンバートしています。右WBには新井、2列目には満田が入りました。


札幌の出口が開くとき

札幌、広島の両チームとも、札幌陣地でプレーする時間を中心にプランしていたようです。
広島は、高い位置からのプレスで札幌のビルドアップを閉塞させようとします。大橋、満田、加藤の3人を前線に残しながら、東、川村、松本が中間地点にいる札幌のプレイヤーをマークし、ショートパスの経路を遮断します。このとき、最後方の塩谷、中野、佐々木もボールサイドへスライドし、中盤のディフェンスをカバーするポジションをとります。左サイドでは佐々木がタッチライン近くに立って、東の背後のスペースを管理していました。広島はこの体勢からショートカウンターへ移行することを狙います。

札幌は、広島のプレスを自陣で受けることは前提としていて、広島陣地に入ることを急ぎたい、とは考えていなかったように見えます。どちらかといえば広いスペースを晒すことは不利とみて、自陣で狭く守り、広島の攻撃をやりすごそうとします。
とはいえ、前進経路が開いた場合には持ち上がって、広島陣内でプレーする時間も作りたいと考えていたでしょう。札幌の出口になり得る経路は、2つの可能性があります。広島はボールサイドを閉塞しようと寄せているので、逆サイドに開いたWBとSBはマーカーから離れています。ここへ到達させることがひとつ。もうひとつは、中盤の狭いエリアに、広島の監視を逃れる隙間をみつけることです。
後者について、スパチョーク、駒井がポジションを変えながら、CHの川村・松本と、最終ラインの塩谷・中野・佐々木のどちらの管理ともいえない曖昧なエリアで活動して、わずかなスペースを見つけようとしていました。広島がそのスペースを埋めるか、札幌が活用して前進のきっかけをつかむか、プレースピードの勝負になります。

広島は、ボール保持へ移行すると大橋へのロングフィードを使って、札幌陣地でプレーを開始しようとします。札幌陣地に両チームがいる状態から、塩谷、佐々木を底にした左右のユニットを使って札幌の守備を動揺させることを狙います。
札幌もこの構図からゲームが展開することについては抵抗せず、5-2-3の3ラインで向き合います。

広島の3バックよりも前のプレイヤーは、移動によってディフェンスの監視から逃れながらパスコースを作り、最終的にディフェンスラインの裏へ抜け出すことを狙います。特に、札幌ゴール側に立つプレイヤーへ縦パスを預け、そこから前向きのプレイヤーへ落としてスルーパスの拠点にするパターンが、プレーイメージとしてあるようです。初期ポジションではディフェンスにつかまっていても、横の移動を駆使することで、パスレシーブの瞬間にフリーになります。

札幌陣地の最深部まで進入できた場合は、ゴールポスト脇のエリアを基点に、もう一度前向きのプレイヤーを探し、そこへ戻すことでシュートを狙います。前後方向にショートパスを連続させながら、ゴールを目指します。

アタッカーを仕事場まで押し上げる機動力

ゲームは、札幌が広島のプレスに抵抗できず、自陣から出ることのできない状況で始まりました。
札幌は主に右サイドから前進しようとしますが、手前のパスコースを塞がれて長いボールのフィードを頼りがちになります。フィードの落下地点には佐々木が待ち構えており、札幌はここで広島にボールを明け渡すことが多くなります。

広島のスライドが速く、逆サイドも突破口にはなりません。

広島は、札幌を押し込んだ状況からボールを奪うと、ショートカウンターへ転じます。札幌の縦パスや、サイドの狭いエリアから脱出を試みるパスをカットすると、札幌の体勢が不十分なうちに裏抜けを試み、そこへボールを供給します。
このとき、ピッチ中央でプレスを行う大橋、加藤、満田は、札幌のプレイヤーの移動に関わらず中央にとどまっていて、そのまま攻撃に転じることができます。これは札幌にとって重荷になります。さらに、松本が中盤から飛び出して、4人目として札幌に圧力をかけます。

広島のCHとCBの5人は、その機動力で札幌の前線を無力化し、さらに攻撃参加を行ってゲームを優位に進める原動力になりました。広島のアタッカーは前線に留まることができ、札幌の最終ラインの背後へ動き出すことにエネルギーを注ぐことができます。また、ショートカウンターでシュートまで持ち込むと、札幌ボールでリスタートになるため、プレスによって裏返す機会を再生産することができます。ゲーム冒頭の広島は、大橋、加藤が攻撃機会の度にシュートを放つ好循環で札幌を圧倒しました。

しかし、先制したのは札幌でした。
9分、自陣に構えた札幌に対して広島が攻撃を始めようかという場面で、右サイドに流れていた満田から大橋へのパスがミスになります。浮いた状態でボールを得た荒野が前線のスパチョークへ送ると、広島の3CBと新井に対して、札幌の前線3人が向き合うカウンターの状況が生まれました。
浅野を経由して再びボールを得たスパチョークのシュートが、中野に当たってコースが変わり、大迫の守備範囲を越えてゴールに入りました。

広島のミスからアクシデントを引き起こした札幌ですが、得点が動いた後もゲームは同じ構図のまま、広島がシュートを重ねて行きます。札幌は引き込むというよりも前に出る術がありません。時折広島のパスミスやファウルをきっかけに前進しますが、帰陣した広島を崩すような攻撃はほとんどできません。

42分、広島は川村に痛みが出て交代を強いられます。小原を2列目に入れ、満田を1列下げて川村のいたCHのポジションを埋めます。

札幌は1点リードしたものの、広島に圧倒されたままハーフタイムを迎えます。

力関係の変化

広島は後半から新井に代えて、越道が入ります。
前半は主に左サイドで満田を使った前進を試みていましたが、後半からは右サイドで越道と加藤がその役割を担うように変化します。右から組み立てて左サイドにスペースを残しておくことで、小原のドリブルを活用できるという考えがあったのかも知れません。

札幌は後半から、近藤に代えて小林。小林は2列目に入り、浅野が1列下がって右WBを担います。
この交代は、右サイドの攻防の力関係を変化させることになりました。浅野が高い位置で佐々木の警戒を引きつけ、その手前に小林の活動する空間を作ります。ここで札幌の前進を食い止める役割を川村が担っていましたが、負傷によって満田が担うことになります。札幌はこのエリアで優位に立ち、小林のプレーをきっかけに広島を押し返す出口を確保するようになりました。

札幌のボール保持が増えつつある流れの中、次の得点は広島でした。
48分、札幌のカウンターが不発に終わった場面から、大迫が越道を走らせて逆方向のカウンターに転じ、コーナーキックを獲得します。満田の蹴ったボールを馬場、青木が続けてクリアしきれず、岡村の突いたルーズボールが大橋に流れます。大橋が落としたボールを最後は中野が蹴り込みました。広島が1−1とします。

広島は後半に入ってプレスの強度が落ち、札幌を押し込むことができなくなります。攻撃の開始地点も下がり、札幌の圧力を受けるようになりました。前半のようにシュートまで持ち込むことができず、奪われないまでも、途中で途絶えてスローインやコーナーキックになることが増えていきます。
一方の札幌は、広島のCBとCHの間の空間で小林、駒井が基点を作り、ボール保持の時間を増やします。

64分と70分に、札幌は交代を実施。青木、スパチョーク、馬場が下がり、髙尾、中村、長谷川が入ります。右CB髙尾、左CB中村、2列目の左に長谷川、菅を1列上げて左WBとします。

ゲーム終盤にかけて広島は運動量が下がり、札幌優位の構図に変化します。広島のボール保持に対して札幌がプレスをかけて裏返す場面も出て、札幌がいくつかチャンスの場面を作りました。
しかし札幌も体力を消耗しており、大きなサイドチェンジの場面でミスが出たり、シュートチャンスに一歩間に合わないなど、広島ゴールに迫りきれません。

広島は消耗した満田に代えて井上をトップに入れ、大橋を2列目、東をCH、小谷を左WBへ移動する対応をしますが、交代は3人にとどまります。札幌も痛んだ岡村に代えて田中が入りますが、ゲームの大きな構図は変わらず。札幌の追い上げも広島ゴールを脅かすには至らず、1−1のままドロー決着となりました。

感想

札幌の得点の場面は満田選手のパスミスから始まっていますが、そのエラーの影響を広島ゴール前まで持ち運ぶ札幌のプレーがふたつありました。
まず、荒野選手がボールを持ったときの、スパチョーク選手のバックステップです。松本選手の背後にいたスパチョーク選手は、札幌にボールが渡ったのを見ると、松本選手から離れる動きで荒野選手のパスを引き出しました。塩谷選手の届かない、絶妙な位置です。

その次の場面では、浅野選手が中野選手の背後へ動いています。新井選手がタックルのタイミングを伺い、塩谷選手がドリブルの加速を防ぐためにスパチョーク選手と距離を保って後退している状況に中野選手は目を奪われていて、背後に気づいていません。佐々木選手がついていきますが、元々は中野選手の守備範囲なので遅れています。

このふたつの死角への移動によって、広島のディフェンダーがアプローチしきれない空間が生まれました。最後は2連続のリフレクションのラッキーも加わってゴールになっています。

何の話かというと、札幌自陣から広島ゴールまで、ひとつのミス、ふたつの裏をとるプレー、ふたつのリフレクションがあって初めて到達できるような、大きな距離があるということです。ほとんどの場合、どこかで広島のディフェンダーが前向きに襲いかかってきて、経路が途絶えてしまいますが、この場面はラッキーにも助けられて繋がりました。

このゲームに限らず、今シーズンの札幌は、相手チームの攻撃を自陣で受け止める時間をもつ覚悟をしているようです。守備力を狭いエリアに凝縮することで、相手チームの攻撃力から自由を奪おうという話で、それ自体には疑問の余地がありません。しかしそのスタイルから利益だけを得られるかといえばそうではなく、自陣に重心がある状況から一歩ずつ前進するコストも引き受けなければなりません。相手チームに背後を晒して、一気にスペースを襲われて失点、というパターンは今シーズン減っていると思いますが、得点も減るのはそういう事情でしょう。

前半、川村選手と佐々木選手が立ち塞がって、広島を押し返す一歩目が踏み出せませんでした。自陣に閉じこもってばかりではさすがに困るので、浅野選手を右WBに変更して突破の経路を開いたのだと思いますが、やはり重心が後ろにあれば前進そのものに労力がかかりますし、優れたプレイヤーをそのために使わなければいけなくなります。
結果として、前に出ることはできてもゴール前では迫力を欠いて得点には至らず、という後半だったように思います。

その点広島は、強力なディフェンダーを後ろ側で動かして、アタッカーのスタート地点を押し上げていました。後半に入って札幌ゴール前に入る場面が減ったのは、川村選手を失ったり、小林選手と浅野選手の脅威があって押し上げが少なくなった影響のように見えます。
ミシャ監督はゲーム後に札幌のコンディションが万全でないと訴えていましたが、広島にも事情はあり、ドウグラス・ヴィエイラ選手やエゼキエウ選手がいたら、強引な中央突破や、ロングフィードからのポストプレーがオプションに加わってきます。一歩ずつプレーエリアを持ち上げなくても、一気に経路を開く飛び道具のようなものです。このゲームでは地上戦の広島をなんとか押し返すところまで頑張った札幌ですが、そういった選手達にも対応するとなると、より難しくなっていたでしょう。

今シーズンの札幌のゲームを見る上で、こういった押し合いに消費されるリソースを考慮することは、以前よりも重要になっていると思います。大崩れしないように時間を進め、先制点を獲得したゲームが3ゲーム続きました。クローズしきれなかったり、終盤に畳みかけるパワーが足りなかったり、といった状況はあるものの、相手チームの創意を徒労に終わらせ、機をみて押し込んで得点を奪う、という戦略は、ようやくチームの立ち位置に見合ったものになってきていると感じます。貴重なアタッカー (浅野選手とか) がゴール前でいいプレーを出せるよう、無駄走りを減らして、効率的に守って攻められるように、チームとして向上することを期待したいです。と、同時にセットプレーですかね…すでに数ゲーム落としていて、もったいないです。おわり。

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