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タコの驚異のカモフラージュ~環世界とか多様体仮説とか~

カメラが岩肌に近づいていく。ある一定距離を閾値として、岩の灰色は純白に変色し、僕たちは気づかされる。そこにタコが潜んでいたのだと。

タコの周囲に溶け込むカモフラージュ能力には圧倒される。なぜこのようなことができるのかについては、固い外骨格などの防御手段を持たないタコが捕食者から逃れるためにこの擬態システムを進化させた、ということで間違いないだろう。不思議なのはどのようにタコがカモフラージュできるかである。タコは光感受性細胞を一種類しか持たず、色のないモノクロの世界に生きているからだ。

環世界とはユクスキュルによって提唱された概念で、それぞれの生物が環境との相互作用で形成する知覚世界のことである。我々には想像が難しいが、タコは色を知覚できない一方で、光の偏光方向を感知できる。タコの環世界は光の波長ではなく方向で彩られているのだ。しかし、タコは色を知覚できないのにどうやってヒトにも判別が難しいほどよく似た色に背景と擬態できるのだろうか?

多様体仮説とは、自然界に存在する高次元のデータの分布が、低次元多様体の中に埋め込まれているとする仮説である。本来光の振動方向と色は独立に変化できるはずなので偏光の情報から色を推定する問題は不良設定問題である。しかし、私たちが2次元の網膜像から3次元の世界をそこそこ推定できるように、自然界の光の振動方向と色やテクスチャーが相関を持っているために、タコも光の振動方向から物体の色を推定することができているのだろう。

タコは自身の環世界と他の生物の環世界を低次元多様体の表現学習でつなぐ。

参考文献