【ボキャ貧映画レビュー】マイ・エレメントは呪いがいっぱい!

【あらすじ】

水、風、土、火の4つのエレメントが暮らす街、エレメントシティ。
エレメントシティには属性の異なるエレメントとは関わってはいけないというルールが存在する。
火のエレメントであるエンバーという少女は大好きな両親の店を継ぐことが夢だったが、水のエレメントであるウェイドと出会うことで、彼女は本当の望みと向き合うことになる…

【総評】
なんだかんだで今年見た映画の中で一番好きかもしれない。
最初はポリコレ感の強い映画だなぁ…くらいにしか思わなかったのだけれど、
さすがはPixar!ある意味正しい形式でのポリコレをしつつのメインストーリーはラブロマンスっていう。Pixar作品でここまで男女間のラブロマンスを描いてるのって初めてじゃないかな?

【背景】

Pixarと言えばオモチャや車、モンスターやスーパーヒーロー、空飛ぶ家や死後の世界など、男の子がわくわくするようなものをピックアップする作品がかつては多かったのですが、近年はインサイドヘッド(感情)やソウルフルワールド(生まれる前の世界)などといった実態のないものを題材に取り扱うことも増えつつあります。
マイ・エレメントも実態のない抽象的なものを題材に取り上げています。
また韓国系アメリカ人であるピーター・ソーン監督の実体験を基に作られた本作品は、ラブロマンスのストーリーでありつつ、人種差別などといったテーマもマイルドな表現でありながらもリアルに表現しています。

※以下、ネタバレを交えつつの評価となりますのでご覧いただく際はご注意ください。

【オープニング】

トーマス・ニューマンの奏でるエキゾチックな音楽と共に火の国から海を越えてエレメントシティへとやってきたエンバーの両親の姿から物語はスタートします。俗にいう彼らは移民です。
移民である彼らに他のエレメントたちは友好的とは言えず、火のエレメントというだけで嫌な顔をされたり、住む場所も満足に見つけることが出来ません。何件も探し回ってなんとか一件のボロ家を見つけ出します。
これはピーター・ソーン監督が受けてきた人種差別を表現していますね。
彼らの移動の際のBGMがオリエンタルなBGMであることからも火のエレメントがアジア人を指しています。幼い頃から両親と共に店に立つことが多かった主人公のエンバーは両親の店を継ぐのが自分の夢でした。

ピーター・ソーン監督も長男であり、お父さんの経営する画材屋を継がなければいけないという呪いにかかっていたそうです。

そんなエンバーは癇癪持ちでお客が理不尽な要求をしてくるたびに、いけないと分かっていても癇癪を抑えることができません。

これは親がかけた呪いと言ってもいいでしょう。
親からの期待。「お前は私たちの希望だ」という呪い。
「雑貨店を継ぐのはお前しかいない」という呪い。
大好きな両親の大切な店を守るのが夢であり、自分の使命であると信じているエンバー。
「男の子だから泣いちゃいけない」とか「女の子だからおしとやかにしなきゃいけない」みたいな呪いと同じ。
エンバーには「こうあるべき」「こうしなければいけない」という呪いを大量に背負っています。

【水のエレメントウェイド】

ある日、エンバーは店の跡継ぎとなるためのテストの日を迎えるのですが、やはりその日も癇癪を起してしまい、店の水道管を破裂させてしまいます。
破裂した水道管から水のエレメントで役所の検査官であるウェイドが漏れ出てきたことで相反するエレメントの二人が出会うこととなります。
国の基準を満たさない水道管を使用しているということでエンバーが継承するはずの店は営業停止処分を言い渡されてしまいます。
営業停止処分の撤回を求めてエンバーはウェイドの上司であるゲイルへと会いに行きます。ゲイルはスポーツ観戦に熱狂中。しかしゲイルの応援するチームは劣勢なことから営業停止処分の交渉についても芳しくありません。

(お母さんが病気になってから不調続きの選手ラッツくんめっかわ)

しかし、水のエレメントであるウェイドが必死に応援を始めたことで会場の空気は一変。ラッツも調子を取り戻しはじめ形勢逆転。

交渉の結果、週末までに街の水漏れの原因を特定できれば営業停止処分も取り消しという条件で交渉はひと段落つきます。

水のエレメントウェイドは水の特徴を生かして汗を書いたり涙をながしたり、他のエレメントたちよりも視覚的感情表現が豊か。それでいてとても柔軟で自由な発想の持ち主でとっても可愛い。
マイ・エレメントは映画館に見に行きたいという想いはあったものの、そこまでプッシュしなかったのはキャラデザにそこまで惹かれなかった、というのがとても大きいのですが、見終わるころにはウェイドが本当にかわいいくて大好きになっています。優しくて自由な発想で周りを元気づけてくれるウェイド本当好き。

【火と水の協力関係】

二人は街の水漏れの原因を特定するため、気球にのって空から原因を探します。
その道中、エンバーの夢や幼い頃に受けた人種差別の話をウェイドに打ち明けます。

この差別のシーンがとてもリアルなんですよね。
どんな過酷な環境でも咲くことの出来る花を一目見たいと願った幼いエンバーとその父親は一緒にガーデンセントラル駅というところへ向かったのですが、
火は危ないので入場禁止という理不尽な差別があったそうです。
(火にも水にも強い花なので燃えてしまうということはなさそうなんですけどね)

警備員からも入場禁止ということだけでなく、「とっととファイアタウンへ帰れ」と暴言を浴びせてきます。
周囲のエレメントたちからも「ここは火のエレメントがくるところではない」「あっちへいけ」などといった暴言をたくさん浴びせられます。

これはピーター・ソーン監督が実際に韓国系アメリカ人ということで同じような暴言を浴びせられた経験を基に作られているそうです。
実在はしないエレメントの世界だからこそ表現自体はマイルドに見えますが、起きている出来事としては心無い悲しい現実です。
暴言を吐いたほうは何の気なしに、そこまで深く考えずに言っているのでしょうが、言われた方は深く傷つくことを上手に表現できていると感じるシーンです。その後、ガーデンセントラル駅は浸水してしまったため、火のエレメントであるエンバーはその花を見ることが出来ぬまま大人になったのでした。
その話を聞いたウェイドの一言がまたとってもいいんです。

「すごく怖い目に遭ったんだね…」と涙を浮かべながらエンバーに伝えるんです。
これはきっとピーター・ソーン監督が誰かにかけてほしかった言葉だったんでしょうね。同じ人間なのに、人種の違いで受けた差別が怖かったということを理解してほしかったんでしょうね。
きっとピーター・ソーン監督が思う理想の友人像を反映させているのがウェイドなんじゃないかなと感じます。

そうこうしているうちにウェイドとエンバーは水漏れの原因を特定します。
しかし、そのさなか水漏れの原因ともいえる水流が二人を襲います。
ファイアタウンへと流れる水流は留まることを知りません。
ファイアタウンにはエンバーの愛する両親やその両親が必死に守ってきた店があるのでエンバーは土嚢を使うことで水流を防ごうとします。

ここでね、ウェイドがまたとっても頑張るんですよ。水を根本からせき止めるために自分の中に水流をため込んで(表現が難しい)土嚢を積み上げる姿のウェイドとってもかっこいい。勇ましいのにこのシーン毎回泣きそうになるんですよね。
ファイアタウンを守らなくちゃというエンバーの気持ちの応えようと必死にがんばるウェイド、泣き虫な子が一生懸命頑張る姿にウルウル…!
無事土嚢を使って止めたことで一時的に水流を止めることに成功。
その後ウェイドはエンバーをデートに誘います。

【相反する二人のデート】

デートのシーンではこの映画のMain themeでもあるラウヴの楽曲が流れます。
またこの曲がとってもいいんだ~

このデートシーンもとっても大切でウェイドがエンバーをあらゆる場面で寄り添い、守ってあげているのが見て取れます。
同じエレメント同士なら害のないスキンシップも、水と火である二人は触れ合うことができません。
お互い大切に想うからこそ触れられないんですね。もしかしたら火が消えてしまうかもしれない、もしかしたら水が蒸発してしまうかもしれない。
お互い好き同士であるにも関わらず、それゆえ絶対に触れることのできない二人なんですね。そんな二人のデートは歩くときも少し距離が空いています。
お互いの特徴を生かして、お互いの個性を尊重し合える姿は本当に素敵です。
金子みすゞの「みんな違ってみんないい」はこの映画の全体にあるわけではありませんが、この二人においては確かにお互いの個性を認め合い、尊重し合う姿が見て取れます。

【事件再び】

土嚢で防いでいた水流が再び流れ出したことを伝えにエンバーのもとへと訪れたウェイドは水のエレメントを毛嫌いする父親にみつかってしまいます。
そこでも自由な発想で水と火が共存できることを暗に示すのですが、エンバーの店から出禁の烙印をおされてしまいます。

その後、ダメ押しで再び土嚢を作るために砂浜で二人は落ち合いますが、うまくいかないことにたいして再びエンバーは癇癪をおこしてしまいます。
そこで初めて店を継ぐということが本当は重荷に感じてしまっていること、
自分のせいで両親の大切な店がつぶれてしまうかもしれないというプレッシャーなど心のうちをウェイドに打ち明けます。
ここでね、ウェイドくんがまたキラーワードを吐き出すんですよ。

「そんなことないよ。君はよくやってる。いや、そんな君もきれいだ」
すごいよね。しかもただ甘やかしてるわけじゃないんよ。
これもやっぱりピーター・ソーン監督が言ってほしかったことばなんだろうなって。だからグッと響くものがあるのよ。同じような状況下にあった時に自分が欲した言葉を伝えているから多くの人に届くんだろうね。

そんなやりとりの最中、エンバーの炎で足元の砂が熱を帯び、ガラスへと変化していきます。手元にあるガラスを手に取ってエンバーはガラス細工で、幼い頃に見ることの出来なかったビビステリアの花のガラス細工を作り上げます。そこでエンバーは水漏れを防ぐ方法を思いつきます。現在積み上げている土嚢をすべて炎で溶かして強化ガラスを作成。無事に水の流れをせき止めることに成功します。

役所の連絡を待つためにウェイドの元を訪ね、そのままウェイドの家族と過ごします。
食事の最中、ガラス製のウォータージャグが割れてしまうのですが、炎で再びガラスを溶かしてまったくべつのウォータージャグへと作り変えてしまいます。その後、みんなで楽しむための泣きゲームというゲームをしようと、いう提案をします。炎であるエンバーは生まれてから一度も泣いたことがなかったのに、ウェイドの素直な想いと決して触れ合うことのできないという事実に人生で初めて涙を流します。
別れ際に、ウェイドのお母さんがエンバーのガラス細工作りの才能を見込んで一流の会社でインターンのオファーをと動いてくれたのですが…

【初めて気づく自分の気持ち】


ガラス細工のインターンのオファーを受けて、はじめて自分が店を継ぎたくないという自分の想いと向き合います。
幼い頃から店の跡継ぎにふさわしい娘になりたい、と願っていたエンバー。
父親の夢を守るために、自分がどうしたいか、何をしたいか、など考えたことがなかったエンバー。
父の捧げた犠牲に報いるために自分の人生を丸ごとささげるしかないと考えていたエンバー。
癇癪はすべてそういった自分の心に蓋をしていた本当の感情の叫びだったことにようやく気付くことができたのです。

【交じり合うことのない火と水】

しかし、エンバーは再びすべてを理解したうえで自分の感情に蓋をします。
インターンのことも、ウェイドのこともすべて諦めて別れを告げにエンバーはウェイドの元を訪れます。すべてを察したウェイドは見せたいものがあるとガーデンセントラル駅へとエンバーを連れ出します。
そこでゲイルと協力をして気泡を作り、エンバーをその中へと閉じ込め、浸水した駅の中にあるビビステリアの花を見せるためにウェイドが気泡を運びます。

もう単純にここは映像美が綺麗。仄暗い水の中で浮かび上がる炎がとても綺麗なシーンですね。
ビビステリアの花を無事に見ることが出来た後、気泡から空気を抜け始め慌てて外へと脱出することとなります。
その後、ウェイドはエンバーへと手を差し出しますが、それをエンバーは拒否します。
「もし取り返しのつかないことになったら?ウェイドが蒸発しちゃったり、私が消えちゃったりするかもしれないし」というエンバーに対して、それなら少しだけとおそるおそる掌を重ね合わせます。

結果、火は消えないし、蒸発して消えることもない。湯気を出しながらチークダンスを踊る二人がもう最高なんよ。
もうここも泣きそうになるのよ。

ここでウェイドの発した「僕はしあわせものだ」という言葉でお父さんの幸せがエンバーにはフラッシュバックします。
店を継ぐために再びウェイドを拒絶します。

自分の望みをかなえてほしい、すべてを話せばお父さんも分かってくれると主張するウェイド、
そんなことはできない、すべてを投げうって移住してきた父親を裏切ることはできないと主張するエンバー。
とっても悲しいシーンです。自由に生きたい気持ちを理解したうえで、
父の期待に応えなければいけないという呪いを抱えるエンバー。
結局、エンバーは店の跡継ぎのセレモニーに参加をします。

しかし、ウェイドはあきらめません。
火と水だから交わることのできない理由はいくつもあれど、ひとつだけ、火と水だけれども触れ合うことが出来たという事実を提唱します。

でもやっぱりエンバーは父親の期待を裏切ることはできず、ウェイドなんて好きじゃない!と大勢の前で啖呵を切ります。
しかし、父親は水と恋仲になっていたことが許すことが出来ず、店の跡継ぎの話も帳消しとなり、結局エンバーはすべてを失うこととなりました。

【物語はクライマックスへ】

自己嫌悪に陥るエンバー。そんなとき、強化ガラスが割れはじめふたたびファイアタウンを大洪水が襲います。
ここでまたもやウェイドが登場。
押し寄せる水にも倒産の夢だからという理由で必死に守ろうと努力します。
が、抵抗もむなしく押し寄せる水にウェイドとエンバーはとじこめられてしまいます。
密室のなかで二人きりになったエンバーとウェイドは部屋の温度が上昇することでウェイドが少しずつ蒸発し始めます。
天井からウェイドを逃がそうとしますが屋根が崩れ落ち、結果完全なる密室となります。
蒸発し始めるウェイドにエンバーはようやく本音を伝えます。
「ウェイドのいない世界なんて生きていけない。もっと早く言えばよかった。私ウェイドが好き」

消えゆくウェイドの最後の言葉は「この君の輝く炎が大好きなんだ」

そう言い残してウェイドはエンバーを抱き寄せ、蒸発していきます。

もう無理~wwここ無理なんですけど。
もうね、何回見てもね、ここで鼻がもげるんじゃないかってくらいに泣いちゃう。辛すぎるの。

ウェイドのいなくなった世界でエンバーは父親へと店を継ぎたくないこと、でもそんな親不孝な娘であることを申し訳なく思うこと、ウェイドが本当は好きだったことを父親へと打ち明けます。

そんななか誰もいないはずの焼け跡からウェイドの泣き声が一瞬だけ聞こえます。
「もしかして…」とエンバーは泣きゲームでウェイドが自分に話してくれた悲しいお話を笑顔で語り掛けます。
雫となった1滴の水からウェイドが復活します。
この出来事からかつてはファイアプレイスには日のエレメントしかお客さんはいませんでしたが、風と土のエレメントもやってくるようになりましたし、
違うエレメント同士が手を取り合って暮らす未来がやってくるようになったのでした。

すべてをうちあけることのできたエンバーはウェイドと共に遠くの街でインターンとして新たな一歩を踏み出すのでした。

【あとがき】

私がウェイド推しなだけあって完全にウェイドに寄りまくりな、もうウェイドのことしか書いてないんじゃないかくらいの評価になったんですが、
ちゃんと親子の物語も描かれてるんですよ~。だいぶ省略したけど。
省略っていうか、紹介すらしてないけど。

ソウルフルワールドとかもそうなんですけど、何度も見たくなる作品ですね。
心があったかくなるそんな作品で、もちろん子供も楽しめる作りですがテーマ的には大人向けのテーマなのでぜひ大人に見てもらいたい。
特に長男や長女、誰かの期待を背負ってる人に見てもらいたい作品ですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?