「クローゼットの制服に端を発して……」【愛の◯◯@note】
日曜日で、仕事休み!
ということで、オシャレしようと思って、クローゼットを開けた。
そしたら気付いてしまった。
なにに?
『高校生時代の制服が、クローゼットにまだ残っている』
ということに……。
あたしはその制服に手を伸ばしていた。
手を伸ばした理由は、あたし自身でも分からない。
手を伸ばしただけでなく、クローゼットから取り出して、広げてしまった。
noteに登場するのも久しぶりなので、自己紹介をする。
あたしの名前は茅野(かやの)ルミナ。
現在は児童文化センターの職員をしている。
特技は絵本の読み聞かせ。それから、最近になってだけど、ピアノも弾けるようになったので、いちおう特技としておく。
年齢を包み隠すつもりも無いので言うが、25歳である。
『どこのだれかさんの幼馴染みの男子』と違って、ストレートで大学は卒業した。新卒3年目だ。
で、25歳ということは……である。
あなたは、高校生時代の制服が着られる年齢の「上限」は、何歳だとお思いですか?
あたしは27歳ぐらいが限度じゃないのかなあ……と思う。
根拠はない。
もしかしたら『27歳にもなって制服コスプレ!?』とドン引きしちゃう方々も少なからずいらっしゃるのかもしれない。
「――不毛なことをアレコレ考えるのは、やめておこうか」
25歳のあたしが両手で制服を掴みながら発したヒトリゴト。
クローゼットから持ち出してみたものの、着替える勇気が出てこない。
× × ×
ベッドの上に制服を乗せて、その横に腰掛けて、青春時代を思い出し始めた。
× × ×
あたしは幼稚園から大学までエスカレーター式の学校に幼稚園から通っていた。
山田(やまだ)ギンもそうだった。ギンは、あたしのそばでエスカレーターを約20年のぼり続けていた男子だった。
学校でひたすら距離が近かっただけでなく、互いの家の距離も近かった。
どんな角度から見ても幼馴染みであり、約20年間に渡りひっきりなしに冷やかされたりからかわれたりしたものだ。
物心ついたときから、あたしはギンのツッコミ役だった。
ツッコミ役だったけど(ゆえに?)仲は良く、中学卒業までなんと約10年以上に渡って互いの「お誕生日会」を続けていた。
もっとも、中学に上がったらもう思春期だったから、女子と男子としてよそよそしい雰囲気も醸し出されてきて、あたしのほうはソフトテニス部の活動とかで忙しくもあり、「お誕生日会」も高校進学とともに中断してしまった。
高校時代から、ギンが急激に「音楽」に凝りだした。
何種類ものロック雑誌を通学のバッグに入れて肌身離さず、授業中以外は(いやひょっとして授業中も!?)ずーっとイヤホンを耳に突っ込んでいた。
あたしは戸惑った。
ギンのお家(うち)のギンの部屋にせっかく来たのに、あたしじゃなくて音楽のほうにずーっと耳を傾けていたから、イライラが募って思わずあいつに向かってパンチしちゃったことがあった。
パンチしちゃったとき、あたしは少しだけ涙もこぼしていて、不協和音に拍車がかかった。
学校の放課後の教室でも、ロック雑誌に読み耽りのギンにすごくイライラしてしまって、教科書で頭部をぶっ叩いてしまったこともあった。
テニスラケット片手に教室に突っ込んでいき、
『あんたいい加減にしなさいよ!!』
と襲いかかったことさえあったけど、さすがに周りにいた数人の生徒に止められて、『未遂』に終わった。
× × ×
そんなこんなで大学まで上がり切って。あたしは児童文学サークル、あいつは音楽鑑賞サークルに入会して。
次第に、あいつの音楽への熱の入れように、理解も示すことのできるようになって。
あいつの『情熱』への理解が深まるごとに、距離も縮まって。その距離の縮まりかたは……幼馴染み、という枠を、超えていって……それから、それから……。
× × ×
結局制服はクローゼットに戻した。
戻したんだけど。
「ギン。あたしのスカートを、よーく見てよ」
日曜午前11時。ギンの実家のギンの部屋に突撃していたあたしは、最初ギンのベッドに座っていたのだが、弾みをつけて立ち上がってみることにした。
立ち上がって、「あたしのスカートを見て」と言うことで、なにがしたかったかというと。
「なんか母校の制服スカートっぽい色合いだと思わない?」
訊きたいことをあたしは訊く。
ギンがどんな反応を示し、どんなコメントを言うか。期待が不安を凌駕していた。
それなのに、
「何年前だよー、おれとおまえの高校時代とかさぁ」
と、期待を大きく外す、平凡な表情とコトバ。
「……ばかっ」
児童文化センター職員らしくない不真面目なコトバを投げつけるのを止めることができなくなる。
「ばかっ。ばかばか。肩透かし。ギンの肩透かし」
そう言って、一気にギンのところに詰め寄っていく。
「あたし、『制服スカートっぽいとか、気色悪いこと言うなよな』って引かれるほうが、よっぽどマシだった。肩透かし過ぎる。ギンのアホ。アホのギンッ。高校時代から薄情ぶりが全然変わってないっ。こんなアホな態度見せられるのなら、高校時代にテニスラケットで殴打しとくんだった……」
一気に言った。一気に罵倒した。
だから疲れた。
疲れたから、カーペットにあぐらをかいているギンにのしかかるようにして、ギンのカラダのぜんぶをキツく抱きしめた。
「あたし……あたし……」
「ルミナ。おまえなにが言いたい、なにがしたい」
「羽交い締め」
「おいおいコラコラ」
「痛みをちょっとは知りなさいよ。あんたに対しては、サドになる」
「理由は?」
「キライのハンタイだからに、決まってんでしょ!?」
「オーッ」
「……」
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