【野球U-18W杯】 敗因は永田裕治監督ではない。

韓国で行われている「第29回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」のスーパーラウンドの第3戦は9月7日(土)に行われた。崖っぷちの日本代表はオーストラリアと対戦したが1対4で敗れた。日本が勝利して、韓国がアメリカに勝利して、カナダが台湾に勝利した場合、決勝進出の可能性があったがオーストラリアに敗れて敗退が確定。3位決定戦に進むこともできなかった。

星稜高の奥川恭伸、 創志学園高の西純矢、大船渡高の佐々木朗希の3人は文句なしの逸材である。「今秋のドラフト会議で1位指名は確実」と言えるが対して野手陣は小粒だった。桐蔭学園高の森敬斗、東邦高の石川昂弥の2人はプロ入りを決断した場合、上位指名が確実視されるが今回のU-18の野手陣で目立つのは2人くらいである。稀に見る小粒な世代である。

「履正社高の井上広大がいたら・・・。」、「近江高の有馬諒がいたら・・・。」、「智弁和歌山高の東妻純平がいたら・・・。」という声は少なくないが大きな違いはなかったと思う。履正社高の長距離砲の井上広大の長打力は大きな魅力と言えるが脆さもある。「金属バットの反発力に頼った打ち方なので木製バットでは難しいだろう。」と意見は一理ある。

U-18日本代表が惨敗に終わった理由として「打撃陣」を挙げる人は多いが打撃陣は良く頑張ったと言える。桐蔭学園高の森敬斗は不動の1番として高い出塁率を誇った。積極的に盗塁を狙う意識はあまり感じられなかったので俊足が生きるシーンが少なかったのは残念に感じるが素材は一級品である。進学も噂されているが早い段階でプロ球団に入って勝負してほしい選手である。

やはり、問題があったのは「守備面」になる。記録上はエラーにならなかったシーンを含めてどの試合でもたくさんのミスを犯している。ターニングポイントになった韓国戦の石川昂弥のタイムリーエラーは痛恨だったがこういう致命的なミスも続出した。高校トップクラスの選手が揃ったはずの代表チームでここまで守備面のミスが生まれるのは異常と言わざる得ない。

オープニングラウンドの序盤戦でミスが続出した東邦高の熊田任洋のショート起用を早い段階で諦めたのは正解だったと思う。八戸学院光星の武岡龍世がショートで起用されるようになると幾分かは内野の守備は安定するようになったが最後のオーストリア戦でも内野陣のミスがいくつも飛び出した。東邦高の石川昂弥は不動の4番として勝負強さ発揮。打撃面では輝きを放ったが守備面での課題は山積みである。

東邦高の石川昂弥は今年の高校3年生の中では「長距離砲としては図抜けた存在」である。打撃面は文句でドラフト1位級の選手であるが「守備面をプロ野球のスカウトがどう評価するのか?」は興味深い。185センチという長身なのでサードにこだわらずファーストでもOKだと思うがサードが守れた方が評価は上がる。守備のセンスはあまり感じられないがプロの世界でサードを守れるのだろうか?

韓国戦では石川昂弥が痛恨のタイムリーエラーをしてしまったが内野の守備が著しく不安定だった最大の理由はファーストにある。花咲徳栄高の韮沢雄也は本来はショートの選手であるが今大会はファーストでの起用が続いた。3番打者として一定以上の存在感を発揮したが守備面でのマイナス面が大きすぎた。これだけ守れないファーストというのはなかなかいない。日本代表の致命的な穴になった。

もちろん、「本来はショートの韮沢雄也をファーストで起用した監督が悪い。」と言えるがそれにしてもミスが目立った。サードやショートからのショートバウンドを簡単に後ろにそらしてしまうので東邦高の石川昂弥、東邦高の熊田任洋、八戸学院光星の武岡龍世などは大変だっただろう。「3人の守備が不安定だったのはファーストの韮沢雄也にある。」と言わざる得ない。

毎度の話になるがU-18日本代表は守備面を軽視し過ぎている。高校生だとピッチャーとショートの2つのポジションに優秀な選手が揃っているのは間違いないが、いきなりショートからファーストにコンバートされて無難に守るのは難しい。韮沢雄也のファーストの守備が不安定だったのは間違いないが彼を責めることはできない。「ファーストで使った方が悪い。」と言えるレベルだった。

「本職のファーストで誰を呼べば良かったのか?」は難しい話になるがファーストというポジションは特殊である。「ショートが守れるのであればファーストもこなせる。」と考えるのはあまりにも短絡的である。今回のメンバーは本職がショートとなる選手が6人もメンバーに入ったのに対して、外野が本職となる選手は2人のみ。とてつもなくいびつなメンバー構成だった。

よほどのスーパープレーヤーでない限り、ほとんど守ったことがないポジションで起用されると余裕はなくなる。ましてや今回の大会はU-18のW杯である。本来のポジションではない位置で起用された選手たちは不安を抱えながらプレーしただろう。「各選手の良さを引き出す。」というのが監督の主たる仕事である。永田裕治監督に批判の声が集まるのは当然の話である。

ただ、「永田裕治監督だけに責任を負わせるのは適切ではない。」と思う。すでに触れた通り、今回のU-18日本代表はかなり小粒だった。振り返ってみると根尾昂や藤原恭大などが主力を担った昨年のU-18日本代表も一部の選手を除くと小粒だったが今年のチームは昨年以上に小粒だった。今井達也が中心になった世代はタレントに恵まれていたが近年は小粒な世代が多い。優勝を逃すケースが続いているのも納得できる。

報徳学園高のときの永田裕治監督は文句なしの名将だったと思うが日本代表の監督としての永田裕治監督は凡庸である。結果的にも内容的にも芳しくないままで大会を終えるケースが続いているが永田裕治監督をスケープゴートにして「すべての責任が永田裕治監督にあるような空気」になることは避けないといけない。マシになる可能性はあるが誰が監督を務めても劇的には変わらないだろう。

しばしば問題視される「中学生年代の野球人口の大幅な減少」がそろそろ高校野球に影響を与え始めていると考える。星稜高の奥川恭伸や大船渡高の佐々木朗希など新しいビッグスターは出てきているがこれだけ「不作の世代」が続くのは高校野球の歴史の中でも初めてだと思う。サッカーなど他の競技にフィジカルエリートを取られている影響が徐々に出始めていると考えられる。

抜本的な改革が必要な時期に入っているが高野連のお偉いさん方があまり危機感を抱いていないのと同様で野球ファン、特に高校野球ファンもそこまでの危機感は抱いていないように思われる。「高校野球に興味はあるが春と夏の甲子園大会とU-18W杯だけ楽しめたらOK」という浅いファンの割合が高い点も大いに関係していると思うが随分とのんびりしたファンが多い印象はある。

今回は台湾と韓国とオーストラリアに敗れているが、今後、永田裕治監督ばかりに批判の声が集まるようだと野球界の未来は暗いと言わざる得ない。もちろん、永田裕治監督も関わっていると思われるメンバー選考に大きな問題があったのは間違いないが「○○がいたら結果は大きく変わった。」とは到底思えない。少なくとも「絶対に呼ばれるべき選手」は今回のメンバーにも順当に選出されている。

「履正社高の単独チーム+奥川恭伸や西純矢や佐々木朗希など優秀な投手数名を選抜したチームの方が強かった。」という風な意見を聞くと開いた口が塞がらなくなる。夏の甲子園大会で優勝した履正社高は素晴らしいチームだったが野手陣が彼ら中心のチームでW杯を戦えるとはさすがに思えない。クレージーな意見だと思うが意外と賛同する人が多い。頭の痛い話である。

プロ野球に目を移すると昨今はメジャーリーグで活躍する野手がほぼいない。野手がここまでメジャーリーグで通用しないのも大きな問題である。「甲子園とプロ野球がそれなりに盛り上がればOK」と考える人も少なくないと思うので興行色の強いスポーツとして大相撲のような道を歩むのも1つの方法だとは思うが、やはり、国際試合で日本代表が活躍する姿はこれからも見続けたい。

そのためには本気で改革に乗り出す人が出てこないといけないが、今の野球界で何かを変えようとするときは高野連が抵抗勢力になるだろうし、甲子園好きのライトな野球ファンも大きな障害になる可能性が高い。誰かが、今、動きはじめないと取り返しがつかない事態になるが、危機的な状況に陥っていることにまだ気が付いていない人 or 気が付いていても気が付かないフリをしている人の多さも野球界の大きな問題点である。

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