彼らの歴史を知る人はもういない
3月をもって2019年度の卒業生が旅立った。意味するのは、2016年を知る選手が1人もいなくなったという事実。2016年に初の神宮大会出場、そして準優勝を飾った桜美林大学。彼らの活躍を懐かしみながら、今回はその軌跡を振りかえっていく。

絶対的エース・佐々木 千隼

絶対的エース。その存在は誰もが認める佐々木千隼投手だ(現：千葉ロッテマリーンズ)。1年次より先発を任され頭角を現す。2016年秋には防御率0.27をマークし、菅野智之投手と並ぶ53回連続無失点で7完封。王者東海大学にも初勝利。

東海大初勝利に安堵する 佐々木千隼投手

もちろん記録だけ見れば物凄い投手。確かにその通りではあるが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。

大学3年次の佐々木 千隼　投手

大学4年次の佐々木 千隼　投手

4年間のうちに体の体格が一回り以上大きくなっている。桑田真澄特別コーチや野村弘樹コーチなど指導者もさることながら、本人の努力の賜物だろう。

鉄壁の二遊間・山野辺 翔×沼田 涼

私の思う首都リーグ最強の二遊間。彼らをこえる二遊間にはいまだに出会っていない。山野辺 翔 選手(桐蔭学園高校→桜美林大学→三菱自動車岡崎→現：西武ライオンズ)×沼田 涼 元主将(平塚学園高校→桜美林大学→現：九州三菱自動車)この二遊間がいたからこそ、ここまでの成績を残せたのだ。

山野辺 翔　選手

忘れもしない2016年10月8日 大田スタジアム 対東海大学
山野辺選手の先頭打者本塁打で逃げ切り、投げては佐々木投手が三安打完封で東海大から初勝利を掴んだ。その前まで山野辺選手は3番に置かれていたが、この日は1番に。これが功を奏した。リーグ戦では4度のベストナインを受賞。

真面目な性格で且つ笑顔が朗らかな真っ直ぐな選手。卒業後は三菱自動車岡崎を経てプロの道へ。

沼田 涼　元主将

鉄壁の遊撃手。リーグ戦では2度のベストナインを受賞。初出場の横浜市長杯では選手宣誓も任され、最優秀選手賞も受賞。2016年度の打率は.410を記録。

現在は九州三菱自動車で主将に抜擢。今後の活躍も期待だ。

桜美林の2枚看板・邑樂雅貴

佐々木千隼投手はもちろん、彼のことも忘れてはならない。邑樂(おおら)雅貴投手(日大高→桜美林大学→日立製作所　引退)
2016年の夏に電撃復帰。夏のオープン戦で立正大学との試合をみたときにそれを感じた。春はあわや入替戦いきの厳しい戦いを強いられたが、邑樂投手の復帰により秋の不安は払拭された。

邑樂 雅貴　投手

1日目は佐々木投手、2日目は邑樂投手。この安定したローテーションが勝利を導いたといえる。邑樂投手の力強いピッチングに誰もが圧倒された。卒業後は日立製作所に進み、2018年の都市対抗野球ではSUBARUの補強選手として東京ドームで登板することも。現在は選手を退いた。

奇跡の連続・佐俣 恵介

これは奇跡ではなく本人の努力。だとしたら必然。外野手・副主将として活躍をした佐俣選手(横浜商大)の伝説を紹介しよう。

佐俣 恵介　選手

① 日体大戦でサヨナラ本塁打～1試合も落とせないあの緊張感から～

秋季リーグ戦、帝京大にストレートで2敗した桜美林大学。残された試合全て勝利しなければ優勝の道はない。絶体絶命のピンチに立たされた。残る試合は3戦目の日体大と悪天候で流れた東海大の2戦目だ。
あまりに苦しい展開。東海大に初勝利をおさめたにもかかわらず、一気に雲行きが怪しくなった。その矢先の出来事だった。

日体大は2回表に8番・船山の適時打で1点を先制。試合が動いたのは6回裏　1番・山野辺のソロ本塁により同点となった。日体大・松本航はその後得点を許さず、そのまま勝負は9回裏へ。
桜美林大の攻撃、打者2人が内野ゴロに倒れ二死となる。このまま延長となってしまうのか。
打席に立つのは8番・佐俣。1球目をファールにとらえ、2球目をすかさず仕留める。打球は大きく伸び、ライトスタンドへ。サヨナラだ。
球場にいる誰もがこの展開を予想していなかった。延長を覚悟したこの試合。緊迫した中で、最高の結果を残したのだ。

佐俣選手の奇跡はまだ続く

②　創価大・田中正義投手から初の公式戦本塁打を放つ

本塁打でホームへかえる佐俣 恵介選手

創価大・田中正義(現：ソフトバンクホークス)と佐々木千隼投手(現：千葉ロッテマリーンズ)の投げ合いが注目されたこの一戦。
田中投手の制球が定まらず、創価大は一気にピンチに。桜美林の猛攻は止まらず、4回裏にミラクルは起こった。8番・佐俣がレフト戦に本塁打を浴びせる。田中投手がマウンドで膝をついた。公式戦初の一発は相当こたえたようだ。
その後も試合は順調に進み、1―4でこの試合を制した。

卒業後は一般企業にすすんだ佐俣選手。この奇跡の連続は桜美林大学の野球部で今後も語り継がれてほしい出来事だ。

颯爽と登場 打てる捕手・大平 達樹

颯爽とやってきた桜美林の守護神は、同学年の湯本選手とともに切磋琢磨して力をあげてきた。3年には正捕手の座につき、ホームベースを守ってきた。

大平 達樹　選手

打てる捕手の名にふさわしい活躍。神宮大会においても2試合連続本塁打を放つなど猛打を記録。そして、4年次には侍ジャパン大学日本代表選手にも抜擢。

4年次には佐々木千隼投手の背番号1を引き継いだことで、私の中で話題になった。

現在はJX-ENEOSで内野手としてプレー。都市対抗での躍進が楽しみだ。

苦しかった春季リーグ戦

選手の紹介が続いてしまったが、ここで本題に。桜美林大学の大躍進は決して順調なものではなかった。先述したとおり、2016年の春季リーグ戦ではあわや入替戦いきを喫したのだ。順位は4位であったものの東海大の2敗をのぞいて、全て1勝1敗で3戦にもつれる展開。長く、苦しく、最後まで結果のわからない険しい道のりだった。
このスリルには二度と経験したくない。

Wエースと臨んだ秋季リーグ戦

先ほど紹介をした佐々木千隼投手×邑樂雅貴投手の2枚看板。彼らの活躍は絶対条件だ。開幕戦は筑波大と。1週目の結果が今後の結果を左右するのは間違いない。2人の安定したピッチングと打者の援護もあり、無事に2戦勝利をおさめ好調のスタートを切った。

2週目の城西大も無事にストレートで2勝。2週連続負けなしとなり、迎えた3週目は日体大。1戦目は猛攻で勝利をおさめたが、2戦目はタイブレークにて惜敗。試合は最終節以降に残し、5週目の帝京大を迎える。ここで2敗を喫し、勢いを止められることになった。先述したとおり、優勝するためには1つも落とすことのできない絶体絶命のピンチを迎えたのだ。

しかし、この関門を突破し見事リーグ戦初優勝を飾ったのだ。

優勝シーン

初の関東大会～桜美林らしさを全開に～

初めての関東大会。大学で初めてのトーナメント戦を経験することになった桜美林大。その勢いは止まらず、躍進を遂げた。

①　10月31日　創価大学1―4桜美林大学
②　11月2日　 桜美林大学6―1中央学院大学
③　11月3日　 桜美林大学6―5上武大学

横浜市長杯も優勝し、関東大会を制した。

神宮大会初出場～準優勝までの道のり～

ここまで順調に戦ってきた桜美林大。神宮大会でもその名を轟かせる。

佐々木千隼投手まさかの本塁打
桜美林大学7―1環太平洋大学
桜美大｜0 0 0 3 0 1 1 1 1｜7
上武大｜0 0 0 0 0 0 0 1 0｜1

本塁打：大平[3号2ラン]、佐々木1号ソロ
三塁打：山野辺(桜)、和田(環)
二塁打：村井、島、沼田(桜)、三木(環)

桜：○佐々木、宮崎-大平
環：●岩永、又吉、藤本、和田-志賀　

首都リーグはDH制を取り入れているので、投手が打席に立つことはない。しかし、この神宮大会は指名打者制度ではないため投手が打席に立つ。大学初の打席でかなり高揚気味の佐々木投手。雨の降る中、4打席目。右打者にも関わらず流し打ちでライトスタンドへ。その場にいた全員がどよめいた。

準決勝
桜美林大学7―4日本大学

桜美大｜0 2 0 0 2 0 0 3 0｜7
日本大｜0 0 0 0 0 1 0 3 0｜4

本塁打：大平[4号ソロ]、小林颯1号ソロ
三塁打：井橋、山野辺(桜)
二塁打：八田(日)

桜：○安田、増田、邑樂、宮崎-大平
日：●東、木村、山本、田村、弓削、上原-八田

この日は大平選手、小林颯選手の本塁打。投げては安田、増田、邑樂、宮崎の全4投手のリレーで勝利をおさめた。打撃に衰えを見せることなく、そのまま決勝へ。

決勝
桜美林大学2―5明治大学
桜美大｜2 0 0 0 0 0 0 0 0｜2
明治大｜0 0 0 0 4 0 0 1 x｜5

本塁打：星1号ソロ
三塁打：沼田(桜)
二塁打：山野辺(桜)

桜：●佐々木、土井、邑樂-大平
明：柳、○星-牛島

決勝の思い出はない。何を言っているんだここまで書いておいてと思う人もいるだろう。それは、私がいけなかった。嘘だろうと思うだろう、本当だ。
ここまで追ってきて、ここまで応援してきて。最後の最後に行けなかった。最高の姿を残すことも、最後を焼き付けることもできなかった。悔しい。
DVDは時々見る。負けるとわかっていながら、同じ場面で叫んでしまいたくなる。
最後は鉄壁の二遊間が活躍し、2枚看板も登場。そして、1年で決勝のマウンドを任された土井投手。これだけでも十分だ。
最後見られないなんて誰が思っただろうか。自分自身が1番驚いてる。痛感したからこそ伝えたい。迷ったらいけ、絶対に。同じ試合は二度とない。

あとがき

桜美林の奇跡ではなく軌跡。なるべくしてなった。春季リーグ戦で厳しい現実を突きつけられても、折れずに彼らは進んできた。内情はよくわからない。私の主観とは大きくずれることもあるだろう。1ついえるのは、同じ目標を持つ組織は強いということ。彼らは勝利にこだわり、優勝を目指した。皆が同じ向きで走ってきた。そして絶対に諦めなかった。

佐々木千隼がいるから強かったんでしょう。数字や結果だけ見れば確かにそうかもしれない。そして、そうだといえる結果も残してきた。でも春は勝てなかった。それだけの投手がいてもだ。
もちろん投打がかみ合った、偶然が重なった。たくさんの要素があっただろう。でも、これは必然だと私は言い切れる。繰り返す。皆が同じ目標を目指していたから。

野球は1人では勝てない。でも個々の力が集まれば、それは強い。2016年の桜美林を見て強く感じた。
この団結力をこえるチームを私はいまだ見たことがない。この先の首都リーグでまたこんなチームに出会えたらと、強く期待している。

今の首都リーグが楽しいのも、これからの首都リーグが楽しみなのもみんなのおかげ。本当にありがとう。
2部からここまで、強くしたのはみんなの力ありき。また、いつかどこかで。