見出し画像

日本企業はiPhoneを作れなかったのではなく、Appleだけが最初からiPhoneを作ろうとしていた

何故日本企業はiPhoneを作れなかったのか?

ハイ、このお題、よく経済誌とかで日本企業disり、GAFAバンザイ的な文脈で出てきますよね。
実際に日本企業はiPhone的なものは全く作れなかったし、結果として大衰退して目も当てられない状態になってしまったので、後講釈で色々な人が、色々なことが言ったりするのは仕方がありません。

因みにこの問いに対する、自分の答えはこれです。

「Appleだけが、最初からiPhoneを作ろうとしていたから」

いやいや、いくらなんでもそんな単純な話じゃないでしょ、と言いたくなると思いますし、もちろんそれだけではないのですが、実は半分くらいはこれが真実だったのではないかと私は思っています。


1990年頃、Appleの創始者スティーブ・ジョブズは、コンピュターを「Bicyle(
Wheelだったという説もある) for the Mind」と定義しました。
日本語では ”知的自転車”とか”知性を拡張するための自転車” と訳されています。

つまり、人間が自転車によって、大きく行動範囲が広がったのと同様、人間自身の知性を拡張する道具がコンピューターだと言ったのです。
この時、電車や車ではなく、”自転車”と言ったことがミソです。
ジョブズにとってコンピュターとは、あたかも自転車のように一般の人たちが自分自身で所有し、毎日普通に、気軽に使えるものになって初めて知性を拡張する道具になるものだったということですね。

この言葉は当時時代を象徴する予言として世界的な反響を呼びました。
そして多くの人たちが誰でも気軽に使えるコンピューターの実現を目指したのですが、結果的にはその全てが失敗してしまいます。

最初その入り口はどの家庭にも必ずあるTVにあると考えられていました。
そしてTVに繋げるコンピューターがたくさんリリースされたのですが、なにせネットもない時代、しかも当時のT Vは解像度が非常に低いため文字をまともに表示することさえできず、当然全滅しました。

次に有望だったのが、ゲームです。
あのファミコンの正式名称が”ファミリーコンピューター”だったことからもわかる通り、誰しもがこの路線を目指したのです。

しかし当たり前ですが、人々がやりたいことは娯楽であって、知性の拡張などでは全くなかったので、結局悉く大失敗しました。
因みにアップル自体も、僅か4万2000台しか売れず、世界で一番売れなかったゲーム機という不名誉な称号で歴史に名を刻む伝説的ゲーム機、ピピン@をバンダイと共同で作ったりしています。

こうしてAppleも含めて全ての試みが散々な大失敗に終わり、誰しもが、コンピューターとはオフィスで仕事に使うもの、と思うようになった時、ジョブズは全く新しい突破口を見出したのです。

それは携帯音楽プレーヤー(ウォークマン)だったのです。

音楽が趣味だったジョブズは、誰もが毎日気軽に身につけ、音楽を通じて感性を拡大する機器である携帯プレーヤーこそが、実は知的自転車の本当の入り口だと気がつきました。

こうして2001年にハードディスク搭載の音楽プレーヤーiPodが発売されたのです。
このiPodこそが、まさに現在のiPhoneの直接の原型にあたる製品だと言えるでしょう。

当時はソニーの全盛時代でした。
だから多くの人たちはソニーが儲かっているのを見て、アップルが新規参入してきた、くらいにしか思っていませんでした。
しかし実際にはそうではなく、ジョブズは、携帯プレーヤーにCPUとハードディスクを載せることで、”毎日身につけるコンピューターになる”ということに気がついていたと言われています。

本当のことを言うと、実はソニーにもそれにちゃんと気づいていた人たちがいて、かなりいい線まで行っていたのですが、組織の壁に阻まれ、結局日の目を見ることはありませんでした。実に惜しいことです。

まあそれはともかくとして、つまりその延長線上にあるiPhoneとは、携帯電話ではなく、単に携帯電話の皮を被った ”誰もが身につけて、毎日使っているコンピューター” だということなんですね。

さて、この話は、もちろんテクノロジーの歴史を語りたいわけではありません。
大事なのは、ジョブズが最初から ”アップルとは、人々にコンピューターによる知的拡張を提供する会社”だと規定していたことです。
だからAppleは受託開発会社にもならなければ、業務用システムを作るSierにもなりませんでした。
それはAppleの”創業のバリュー”に反することだったからです。

因みに創業当時のAppleのビジョンは「Changing the world, one person at a time.(世界を変える、1人ずつ)」です。

では、どうやって変えるのか?
そうです、(会社や国ではなく)”全ての人”に Bicycle for the Mind を提供することによって、です。
こういうと、ビジョンとバリューの関係がよくわかるのではないかと思います。

結局企業も人間と同様に三つ子の魂は百までで、最初に描いたビジョンとバリューでその会社の未来はある程度決まってしまうということなのかもしれませんね。