【制作秘話:藤の木の家】


私が持っている おばあちゃんと私の写真は
一枚しかなかった。

ある時、その一枚を捨ててしまった。

理由はほんの小さなこと。

私の顔が気に入らなかった。

どうしても
その写真の中の私を見る度に嫌な気分になるから
いっその事捨ててしまおうと、捨てた。



そのことを今、さっき、思い出して
後悔している。

おばあちゃんの写っている所だけでも
とっておけば良かった。





おばあちゃんのことは嫌いじゃなかったけど
中学生になってから徐々に会いに行くことが減って、

高校生に上がったくらいから
私はおばあちゃんと会うことを辞めた。

おばあちゃんの家には
父の弟が同居していて
昔から、何だかいつも居心地が悪くて
あまり得意じゃなかった。

私が10歳の時に
父の弟に奥さんが出来て
私の従姉妹が生まれた。

おばあちゃんの家に行くと
10歳下の従姉妹と父の弟とその奥さんが居る。

居心地の悪さは日に日に増した。





私は子供の割に 扱いにくい子供だったと思う。

大人達が私に対して子供扱いをしてくることに
いつも心地の悪さを感じていた。

それは、おばあちゃんに対しても。

それと、
おばあちゃんは薄茶色のレンズの眼鏡をかけていて
かっこいい風貌だったし
怒ると怖い印象があったから
当時の私は
尚更あまり関わりたくないと思っていた。


私は可愛い孫で居てあげられなかったように思う。

孫らしい振る舞いも
思い出せる限りでは
何も出来なかった。

おばあちゃんの家に行っても
絵をずっと描いているか
宿題をしているか
殆どがその二択だった。

出来るだけ
おばあちゃんの家に行ってから帰るまでの間
誰とも会話をせずに済むように
誰にも気を遣わずに済むように、
子供の私なりの対処法だった。

なるべく早く帰りたかったから
夕方になると
私は何かと理由を付けて帰りたがった。

「もう帰るの?」

いつもおばあちゃんは言っていた気がする。



一度だったか何度だったか
まだ従姉妹が生まれる前に
おばあちゃんの家に一泊したことがあった。

その日は、
いつもよりもおばあちゃんの家が居心地が良かった。

おばあちゃんとの距離が近く感じたし
いつもよりもおばあちゃんのことを
好きだと感じた。

朝、
焼いた食パンに
苺ジャムとバターを塗ったのを二枚と
レタスとハムのサラダを作ってくれた。

すごく美味しかったことを憶えている。

あと、すごく優しかった。


だけど、何を話したのか
何も憶えていない。


殆ど、覚えていない。





おばあちゃんは今
病気で入院している。

もう十年くらい
入退院を繰り返していて

ここ何年かは認知症も加わって
もうずっと入院している。


前にお世話をしに行った母から聞いた。

おばあちゃんは
記憶が消えていくことに恐怖を感じていて
寝たくないと怯えていたそうだ。

「起きた時に記憶が無くなっているのが怖い」
「自分が誰だか分からなくなる時がある」

と。

怖いと言っていたと。



一緒にお見舞いに行くかと両親に言われたが
私の顔を見ても「どちら様?」と言われそうで、
そう言われた時に
どう接すれば良いのか分からなくて、

行けなかった。


会いたいけど

会うことが怖い。

忘れられてしまうことが

私との記憶が
全部無くなってしまっているかもしれないことが

怖い。


そんなこと
誰よりも一番、おばあちゃん自身が怖いのに。


どんな顔して
どんな話をすればいいのか分からない。

私に出来る自信がない。

泣き崩れてしまう気しかしないから。

びっくりさせてしまう。



でも
いつ居なくなっちゃうかわからないから
会いたい。

姿だけでもいいから。見たい。




おばあちゃんとの写真

捨ててしまっても 何も消えないけど

捨ててしまったこと

後悔している。








いただいたサポートは楽曲制作の為に使用したり思い出のモノへと変換し、素敵な思い出をたくさん作っていきたい所存です( ˘ω˘ )♡