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連休のデート

今日、妻が化粧をしていたので、思い切って声をかけた。
珍しく買い物に出かけるというので、私も行くと言ってみたら、特に嫌がる様子もなかったので、一緒についていくことにした。

車ではなく、バスと電車を乗り継いでデパート行くようだ。
バスがなかなか来なかっので、隣のバス停まで歩く。それで早くなるわけでも、安くなるわけでもない。健康のためなのか、じっと待っているのが嫌だったのか、彼女は歩くのが好きではないはずなので、私はその判断を意外に思った。

買い物の目的は、推しグッズと化粧品売り場とのこと。流石に化粧品売り場について回るのは迷惑だと思って、そこでは別行動をとるため私はカフェを探すことにした。しかし、連休中のデパートはどこも混雑していて、各フロアーにある貸店舗と思われる統一性のないカフェには、いずれも行列ができていた。お店が準備している待機用の椅子はあふれ、床にしゃがんでいる人がいる。1時間以上の待ち時間が記された手書きの張り紙をしているお店もあった。仕方がないので、最上階のレストランフロアーに行ってみると、案の定ランチタイムはとっくに過ぎていたが営業をしているお店があり、食事をしないのは申し訳ないと思いつつも、ここで待たせてもらうことにした。そこはデパート系列のレストランで、店内のお客さんはまばらだった。メニュー表を2度確認したが、バニラシェイクはなかったのでコーヒーフロートを頼んだ。とても丁寧な接客で、コーヒーフロートしか頼んでいない私に、アレルギーの確認をしてくれた。男性はタキシードのようなスーツを、女性はメイドのような装いをしている。連休中の騒然としたデパートの中で、この空間だけは、彼ら彼女らの力により、本来のデパートの空気を汚すことなくとどめているように感じた。それはまるでラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事に出てくるような、古き良きデパートを私に連想させた。

妻からラインが来たのは一時間後で、彼女はもう帰るから降りてきてと言った。私は「せっかくデパートに来たんだからクリームソーダでも飲んでいきなよ」と提案をして、彼女はそれに「じゃあコーヒーフロートを頼んでおいて」とこたえた。彼女が化粧品売り場から移動をする間に、私はコーヒーフロートをもう1つ注文をすることになった。メイドの装いの店員さんは、今度はアレルギーの確認をしなかった。その代わりに、2杯めのコーヒーフロートを頼もうとしている私のことを、少し訝しげに思っているのを感じた。「これは、妻の分なんです」と伝えようかと思ったが「奥さんは、アレルギーをお持ちですか?」と聞かれそうな気がして、ただでさえ連休という厳しい状況の中、古き良きデパートを守るために頑張っている店員さんに余計な心配をかけさせてはいけないと思い、そのまま黙った。

妻は席について、コーヒーフロートを飲んだ。
私は、コーヒーフロートのアイスの表面にシャリシャリとした氷の層ができるのが好きで、これは、氷によりほぼ0℃に保たれたコーヒーが、マイナス20℃近いアイスクリームに熱を奪われ、その接点が瞬時に凍ることで発生する現象であることを説明したくなって「コーヒーフロートのアイスの表面にできるシャリシャリいいよね?」と彼女にたずねたのだが「わからない。そんなのできる?それより、このアイス甘いね。」というので、野暮なうんちくを話すのをグッとこらえた。

子どもの入学式や卒業式を除くと、妻と2人で出かけるのは随分と久しぶりのことで、一つ一つの彼女のリアクションが面白くて懐かしく、思いもよらずよい連休を過ごすことができた。

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