2-21の嘘日記

Xと海へ行った。砂浜には犬の散歩をしている老人と、地元住民らしき人がちらほらいるくらいの賑わいだった。湿った浜辺に腰を下ろし、体を横にした。服がじわじわと水を吸い上げていく感触が気持ち悪い。Xが時折話しかけてくるが、風が強くてうまく聞き取れない。イヤホンをせずに外の音を聞くのが久しぶりで落ち着くのに時間がかかった。

じっと目を閉じているうちに眠っていたようで、目を覚ました時、Xはどこかへ消えていた。太陽の位置が変わっていることを確認したあと、私は再び眠りについた。背中を足で小突かれ目を覚ます。無視していると、今度は強めに蹴ってきた。これはXではない。あわてて起き上がると子供がいた。子供は私の顔を見た途端ぎょっとした顔を見せ、走り去ってしまった。誰かと間違えたのだろううか。

そのまま走り去っていく子供と入れ違いにXが帰ってきた。手にしたコンビニ袋を見せ、フランクフルトと肉まんのどちらがいいか訪ねてきたので、Xに先を譲ることにした。Xはフランクフルトを選んだ。ケチャップがうまくかからず半分ほど砂浜にかけていた。肉まんを食べ終えたあと、Xがずっと私の顔を眺めていたことに気づいた。私たちは何も言わず無軌道に歩いた。

浜辺に打ち上げられたものを探すことをビーチコーミングと呼ぶ。もともと今日海岸で貝殻を探そうと提案したのは私だったが、Xがそういう収集をビーチコーミングと呼ぶことを教えてくれたのだ。Xはひょいひょいと何かをビニール袋に入れていく。私が何かを1つ見つける間にXは3つくらい何かを見つけている。辛抱強く視線を落として探していたが、たまに見つけても地味な色をした貝ばかりで飽きてしまい、Xの後ろをついて回った。一度もストーキングに気づくことなくビニール袋をパンパンにしていた。

砂浜の上に拾得物を並べ、Xと私で選別をしていると、さっき私の背中を蹴ってきた子供がどこからともなく現れた。彼女の謝罪を受け入れ3人で欲しいものを選んだ。じゃんけんで右回りに欲しいものを1つずつ取っていくのだ。Xも子供も摩耗したシーガラスを取ろうとすると露骨に不安そうな顔をするのが面白くて何度も試してしまった。私は小さな貝殻をひとつ貰い受けたあと、すべて彼女に譲ってしまった。大人になると数より質を選ぶのだ。


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