解析入門I - 順序2


この記事は解析入門I (杉浦光夫 著)の読書ノートです。


前回、順序の基本的な概念を導入した。今回から特に順序体に対する性質を見ていくことで、実数$${\mathbb{R}}$$の性質を深堀していこう。

順序体の重要な性質として、次の性質があげられる。

順序集合$${X}$$に対する任意の$${a \lt b}$$なる二つの元$${a, b}$$において、$${a \lt c \lt b}$$が成立する元$${c}$$が存在する。

順序集合の稠密性

この性質は順序体については常に成り立つ。実際に$${c = \frac{a + b}{2}}$$と置けばよい。この性質を満たす順序集合のことを稠密順序集合という。

稠密性は次の性質を導き、しばしばこの形で利用されることが多い。

$${a \ge 0}$$が任意の正数$${\varepsilon \gt 0}$$に対し$${\varepsilon \gt a}$$を満たすならば、$${a =0}$$である。

もしこの性質が成り立たない、つまり$${a \gt 0}$$であったとすると、$${a \gt \frac{a}{2} \gt 0}$$が成立し、任意の正数に対する仮定に反する。

次に最大元と最小元について議論しよう。

順序集合$${X}$$に対し、任意の$${x}$$に対して$${a \ge x}$$を満たす元$${a}$$を最大元といい、$${\max X}$$とかく。逆に$${a \le x}$$を満たす元$${a}$$を最小元といい、$${\min X}$$とかく。

このような元は存在するとは限らないが、存在すれば唯一である。実際最大元が$${a \neq a'}$$で二つ存在したとしよう。このとき、その定義から$${a \ge a', a' \ge a}$$が成り立つ。順序の定義より$${a = a'}$$が導かれ、仮定に矛盾する。同様に最小限も唯一だ。

任意の順序体$${F}$$について考えると、$${F}$$には最大元も最小元も存在しない。実際任意の$${a \in F}$$に対して$${a +1, a -1 \in F}$$が存在し、$${a \lt a + 1, a-1 \lt a}$$が成立するためだ。

次に絶対値を定義しよう。任意の$${a \in F}$$に対し$${\{ a, -a \}}$$なる集合を考える。この集合には最小値、最大値が存在することが容易にわかるので、$${\max \{a , -a\}}$$を$${a}$$の絶対値と定義し、$${|a|}$$とかく。

絶対値は定義から次が成り立つ。

  • $${a \ge 0}$$の時$${|a| = a}$$、$${a \lt 0}$$の時$${|a| = -a}$$

  • $${|-a| = |a|}$$

  • $${-|a| \le a \le |a|}$$

  • $${|a| \ge 0}$$かつ等号成立は$${a =0}$$に限る

  • $${|ab| = |a||b|}$$

  • $${|a + b| \le |a|+|b|}$$

  • $${|a| - |b| \le |a+b|}$$

ここまで実数集合$${\mathbb{R}}$$に制限した話をしてこなかったが、$${\mathbb{R}}$$は順序体の中の一つであることをここに断っておこう。そして実数体は幾何学的には一本の直線であらわされる。ユークリッド空間内のある点$${X}$$ととったら、原点$${O}$$との間の直線を考え、$${XO}$$の符号付距離$${x}$$は実数に対応する。この直線状の任意の点に対しこの対応を考えることができ、この対応は1:1対応となる。

ただ、実数を実数たら占めるにはここまでの性質だけでは足りない。実際、順序体には有理数集合である$${\mathbb{Q}}$$もなるからだ。次の記事では実数が実数たり得る根拠である連続の公理という、実数の性質について説明する。

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