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『アパートたまゆら』を読んで

特に内容については書いていないので、ネタバレしないと思う。裏表紙などに書かれている内容紹介の方が、ずっと役に立ちます。

ここにはこの作品を読んで何故か思い出した、僕に起きた出来事を書いてあるだけです。ご想像通りというか、ご期待通りというか、あまり良い話ではないです。


『アパートたまゆら』は、タイトル、そして表紙のイラストに惹かれて手に取った。砂村かいり 著(創元文芸文庫)の王道恋愛小説である。

そして、僕にとっては恋愛小説界のイヤミス(読後、嫌な気分になるミステリのこと)となった。僕の判断基準がミステリなだけで、本作にミステリ要素は特に無い。

途中、何度投げ出そうと悩んだか判らない。読み始めたら最後まで読み通すのを信条にしている僕には、滅多にないこと。

主人公は結局のところ色々なことから逃げているだけで、何の努力もしていない。ただひたすらに狡い。(僕が思う)女性特有の嫌な部分を抽出し、再結晶で精製したかのよう。それは純粋であるが故に、ひどく歪で醜い。

そして、要約するとこれだよね、っていう主人公の設定もかなり酷い。

軽い潔癖症。但し、イケメンは除く。

注:作品中に、このような記述はありません。


かつての記憶が鮮やかに蘇る。

その頃、僕は離婚するべく努力していたが、残念ながらその気持ちは彼女に伝わっていなかった。僕の精神疾患が判明すると掌を返したように冷たくなり、最後にはこう告げてきた。

「この前、電話して彼にこの部屋に来てもらったの」
「あなたは結婚してくれないけど、彼は結婚してくれるもの」
彼女は少し離れた暗がりの中、
手に持った帯状に連なったものをガサガサと振りながら、そう言った

僕はその「彼」とやらについて、その1年くらい前に彼女から聞いていた。「最近、告白されたんだけど、もちろん断ったよ」と言っていたはずだが。

「断ったはずの男と付き合っていた彼女」は二人目だったので(一度目は僕も独身だった)、混乱しながらも「やれやれ、『結婚してくれる男』には敵わないな」などと、冷静に考えている自分が頭の片隅にいた。



決して貶めているのではない。『軽やかな筆致と丁寧に書き込まれた人物造形で織りなす人間ドラマが魅力の注目の新鋭』という紹介文に間違いは無い。だからこそ、なのだろう。心が抉られる。

毎回おもうのだが、感想文というのは難しい。作品と良い塩梅の距離を取らないと正当な評価はできないから。僕の感想文が感想文として機能しない、参考にならないのは、感想文を書いてみようと思うほどに感銘を受けた作品には、いまだ僕自身が足を取られているから。ネタバレを極度に恐れているとか、奇を衒っているつもりはない。

一つだけアドバイスするならば、最後におまけのように主人公の友人の後日談が記されている。微笑ましく心救われるので、必ず最後まで読んで欲しい。僕には、この部分こそがベタだけど「王道恋愛小説」に思える。王道、ってベタと同義じゃない? 

続き、あります。


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