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苦手な雑談はあなたと私のダンスだった

先日ポッドキャストでTEDインタビューを聞いていました。インタビュアーはアメリカの心理学者のダン・ギルバート。

運転しながら聞き流していたのですが、思わずクスッとしてしまうことを彼は言っていたので、記憶を元にかいつまんで記載します。

会話の目的と言うのは、意味のある“情報の交換”とか“情報の伝達”であると思われているが、実際はそうではない場合が多く、ナンセンスなやり取りを繰り返しているにすぎない。

「最近どうしてる?」から始まる旅行の話だとか、最近買ったものの話だとか、色々なことをテーマに会話をするけど、本当のことを言えば誰もそんな話に興味はない。(←断言)

言ってみれば、どんなトピックであれ話者は、
「あなたが好きよ。あなたが好き。それであなたが好きなの。」と言っていて、
相槌を打っている聞き手も、「私もあなたが好き。そうなの、好きよ。私もあなたが好きなの。」と言っているに過ぎない。

それを交互に繰り返して、お互いのエンゲージメント(結びつき)を深めている。
会話はあなたと私のダンスなのだ。

The TED Interview
- the surprising science of happiness

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Trader Joe's (トレーダージョーズ)

このことを実生活で身近に感じる例として、すぐに思い浮かぶのが、アメリカのオーガニック系スーパーTrader Joe's(通称トレジョ)での会計の場面。


トレジョの店員さんは、手早くレジ打ちをしながら「週末は何するの?」とか「この商品、私も大好き!」とか、最初から最後までずーっとお客さんと会話を続ける努力をしています。


アメリカのレジ対応は、割とどこでもそういうフランクでフレンドリーな傾向があるけど、トレジョのレベルは別格。
レジが6レーンあるなら1〜6レーン、どのレジを通過しても、みんな親切で丁寧で最高にフレンドリーでおしゃべり。
(あと袋詰めも他のスーパーとは段違いで上手!)

トレジョのカートは真っ赤。
オリジナル商品やかわいいパッケージが目を惹きます。



恐らくスタッフはそういうトレーニングを受けてレジに立っているのだけど、そこにはお店のポリシーを感じさせるわざとらしさはなく、とにかく自然で明るい。いわばディズニーランドのキャストと似たものを感じます。

とにかく明るいトレジョ。

これは日本人のトレジョ利用者なら100%思っていることだと確信しています。

店員さん側としてみたら、1日に何人も来るお客さんとの雑談を通して得られるものなんて皆無に等しいというのは想像に難くありません。
新色のオリジナルエコバッグなんてどうでもいいし、本日何回目かも分からない季節の新商品の話をまたしていることでしょう。
本音ではこのあとお客さんがどう過ごすかなんて知ったこっちゃない。

その会話は全てお客さんに向けられた“来てくれてありがとう”のサイン。その敬意はこちらにも伝わるから、こちらもそれに応えたくなります。

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スモールトーク

スモールトーク(small talk)とは、日本語に当てはめるなら雑談、あるいは世間話なのだけど、それにもっとプラスの意味合いを持っていると感じます。
それは、会話参加者の小さな親睦会であり、好意の交換会。
まさにTEDインタビューのそれで、トレジョのそれです。
スモールトークは、あえて取るに足りない会話をして相手の緊張を解したり、解されたりしながら良好な人間関係を構築をしていきます。

好きだよ、と言われて私は嫌いよと応える人はいません。

もっと君のことが知りたいという興味を言葉にできたらスモールトークは成り立つものなのです。
理論上では。

スモールトークが苦手

しかし、私はスモールトークが苦手です。日本語でも雑談は苦手。

目の前の人に、何のトピックのどの部分を切り取って、どんな言葉を選んで話せばいいかなどと考えるうちに話したい気持ちが半減してしまいます。

質問をすることで聞き役に回ろうとするのですが、そこで気の利いた相槌や会話を広げる話術がついてこない。

うんうんと軽く相槌しながら話を聞くのは日本ならではのジェスチャーで、こちらの人はじっと目を見て話を聞くことが多いので、ますます話すのも聞くのも苦手意識を持ってしまいます。

私は人見知りではないし、今までの経験からすると(本意か不本意かに関わらず)むしろ人前に出る機会が多かったけど、スモールトークをしているとき、ぎこちなさをいつも感じています。

気楽なキャッチボールだと思って会話を楽しみたいのに私には難しい。

スモールトークが得意なアメリカ人

アメリカでは社交性の高さはスモールトークで決まると言っても過言ではありません。
アメリカ人の多くはこれが大得意。次から次にポジティブな言葉を出して相手を鼓舞したり、笑いを誘ったり。すごいなぁと感心しきりです。

日々の生活を通して、スモールトークはアメリカ社会ではとても重要なスキルだと思い知らされています。ビジネスで、学校で、公園やレストランで、ショッピングや近所の付き合いで...スモールトークだらけ。

それは語学力以上に必要なことかもしれません。


私はアメリカに5年半住んでいますが、このスキルが養われずいまだに苦戦しています。
毎日どこかで実践を重ねても、苦手意識と居心地の悪さが薄れません。心から会話を楽しんでいない。必死に楽しもうとしているだけ。

これが結構苦しかったのだけど、TEDのギルバート氏の言葉で少し救われました。

「誰もその話題に興味をもっていない」という事実。

あれ、そうだったんだ。私も興味なかったけど相手もそうだったのかって。笑 

“会話はあなたと私のダンス“


あなたと私で毎回サンバができたら楽しいけど、ワルツも悪くないし、盆踊りになっても構わない。
これぐらいの気持ちでこれからはスモールトークをしていこうと思います。
あまり身構えすぎないように。

何にせよ1人では踊れない。
同じ阿呆なら踊らにゃ損損。
どんな会話でも、人と会話する時間そのものが娯楽だから。大切なのは会話の内容じゃない、あなたとの時間だと肝に銘じよう。
(でもやっぱり会話の能力も技巧も上げたい)


最後に(メモ)

アメリカ人と会話をしたり、彼らの話を観察していて、もっと自分のものにしたいと思ったことをいくつか。

・相手の話から自分との共通点や共感するところを見つけて言葉にする 
 (エンパシーの感度の高さと知識や経験に基づいた引き出しの多さ)

・相手の言葉や身につけているものなど何でもいいからとにかく褒める
 (いいところを瞬時に見つける目と嫌味じゃないお世辞)

ついでにこれからも真似ができそうにないアメリカ人の会話技巧として

・大袈裟なリアクションと絶妙な表情
(しょうもない羞恥心が捨てられない。そして自分の表情筋はガチガチなことに気づく)

気後れしない程度に雑談を楽しめるようになるのが直近の目標です。


写真は本文に記載したTrader Joe'sの売り場。
9月に入るとアメリカでは10月末のハロウィンの飾り付けや関連商品が販売されます。写真はシナモンの香りづけされた箒で、家の魔除けと芳香剤として使われます。秋の季節商品の1つ。我が家は玄関にデコレーションを兼ねて引っ掛けてます🧹








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