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甘さは苦さのあとにやってくるのだと知りました~人生で最も大量にもらえたバレンタインの話

あれは、もう7年くらいまえになるだろか。

僕は当時、親友が講師をやっていたキッズダンススクールのお手伝いをしていました。

彼女がどうしてもレッスンができないときに代行をやったり、ショーを作る際に音源の編集をしてあげたり。

僕はダンサーではなくふつうのサラリーマンだったので、ダンスに関われることがうれしく、また純粋に音楽と戯れる子どもたちから刺激をもらえることに満足しながら、ボランティアで参加していました。

僕は基本的にモテません。ぶっちゃけ本当にカッコよくない。ダンスやってるからってモテるわけはなく、記憶にあるバレンタインのうち、半分以上はチョコ0個。

ただ、その年のバレンタインはチョコっと、いやかなり違いました。

ある日、レッスン代行を終えた僕に、生徒のお母さんがこう言いました。

「先生は、来週も来られますか?」

たぶん来ると思いますよ、なんて返事をしながら気が付いた。翌週のレッスン日はちょうど2月14日だった。これはマズイと思った。いや美味しい予感なのだけれど。

案の定、翌週のレッスンでは見たこともない量のチョコチョコチョコ。もはやちょこちょこではない。

何しろ20人くらいの生徒の半数以上が女の子で、しかも生徒の送迎のほぼ全員が「お母さん」なのだ。20代から30代前半の。

いや、当然、義理チョコですよ。ギリギリではなく余裕で。だけど、娘と一緒に手作りですもの。そりゃ嬉しいもんです。

おかげでリュックの中をチョコでいっぱいにして帰宅するという夢のような経験をさせてもらいました。

が、帰宅後、一つずつ冷蔵庫にしまいながら考えたのはお返しのこと。

2月は28日しかない。基本的に。

ということは、バレンタインがレッスン日ならば、当然ホワイトデーもレッスン日だ。この大量の手作りチョコにどうお返しをしたものか。マズイ予感は美味しいチョコと同時に現実のものとなった。

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果たして結局具体的な準備を何もできずに迎えた3月13日、僕は決意しました。

「よし、この際、僕も手作りしてみよう」

クッキー焼いてみることにしたのです。ネットでレシピを検索し、自宅の設備でもできることを確信し、材料と道具を揃え、仕事を終えた夜中に制作開始。

慣れないことに四苦八苦しながら、結局すべてを焼き終えたのは深夜というより朝に近い時間でした。眠い頭で考える。仮眠とってシャワー浴びて、レッスンに行かねば…。

ところがここで予想外のできごとが起きた。

仮眠の前に試食、と思って食べたクッキーが、苦い。

いやいや何かの間違いとさらに数枚食べるも、これがまた苦い。

不細工な男が夜中にひとりでクッキー焼いて、揚句に苦いとは。これは、お世辞にもうまいとは言えない…。逡巡の末、クッキーを置いていくことに決めたのでした。

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レッスンを終え、道中買ったクッキとマシュマロを配る。手作りじゃなくでごめんねと謝りながら。当然、男の子にも少しおすそわけ。

で、なんとか僕史上最高にお返しに気を使ったホワイトデーをやり過ごし、必要以上に疲れて帰宅。冷蔵庫を開けるとそこには朝方自分で作った大量のクッキー。

ため息とともに一つ頬張る・・・うまい。

おかしい。

今朝は間違いなく苦かったのに。

もう一枚・・・やはりうまい。

そこで気が付きました。焼き菓子は焼いた直後じゃ味が落ち着かないんだなって。

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人生で初めて焼いたクッキーは、誰に食べてもらうこともなく、僕の壮大な自己完結で、やりきれない気持ちとともに、無事消化されたのでした。

甘さは、苦さのあとにやってくるんだね。ホワイトデーはバレンタインの後だけど。

苦い思い出のホワイトデーを生んだ、切なくてハッピーなバレンタインの話でした。

ご一読に感謝。

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