ただいま。おかえり。

背筋が凍った話をしてもいいですか?ただでさえ寒いのに。



僕ら夫婦は共働きでじじばばサポートもなしなので、二人の子どものお迎えはいつも分担しています。僕は保育園の娘ちゃんを、妻は小学一年生(学童保育)の息子くんを。

息子くんは言葉の発達が早く一歳くらいからベラベラ喋っていたのですが、子どもはそれぞれ違うもので娘ちゃんは三歳になった今もつたなく、よく言い間違いをしたり言葉を探す時間が長かったりします。

そんな娘ちゃんをいつもどおり保育園にお迎えに行って帰宅したときのお話です。


「ただいまー」

在宅勤務の妻もちょうど息子くんを迎えに行っているのか玄関に靴はなく「おかえり」の声は返ってきませんでした。いつもは妻息子チームのほうが帰宅早いので珍しいなーなんて思いながら静かな暗い寝室で着替えていました。

娘ちゃんまだまだ甘えん坊なもんで、いつもは着替えている僕の横について待ってます。でもその日はお腹が空いたのかまっすぐにリビングに走って行きました。

着替え終わってゆったりした服装になったところで、娘ちゃんが何やら僕を呼んでいます。

どうせ「おやつに手が届かないから取ってー」かなと予想しながらよくよく聞いてみるとそうではないようです。聞き返すと今度は僕に聞こえるようたどたどしく、しかし大きな声で娘ちゃんはこう言いました。

「おとうしゃーん!だれかいるー!」



家族全員出かけているはずの部屋に果たして「誰」がいるのか。

娘を、そして「誰か」を動揺させないように平静を装いながら何か無難な言葉を返す。

娘よ、どうか変な行動はしないでくれ。祈りながら、いつでも「対応」できるよう下腹に力を込めつつもいつもどおりの足音を作りリビングに向かう。

リビングを見る。
明かりはついている。
妻がつけっぱなしにしたのか。

娘を見る。
特に不安がる様子はない。
無垢な目でこちらを見ている。

台所を見る。

トイレを見る。

風呂場を見る。


特に荒らされた様子も「誰か」の痕跡もない。


どうやら自分の聞き間違いだったらしい。部屋の隅々まで探しても「誰か」はいなかった。それもそうだ。人通りがそこそこある住宅街だし、きちんと戸締まりはしているし。ガジェット好きの僕は玄関のドアにオートロックと開閉の履歴をスマホに送る機能をつけているほどで、家の防犯強度はなかなかだ。



怪しい開閉履歴が残ってないことを確認し、次第に冷静さを取り戻しました。娘が不思議そうにこちらを見ています。

やばい。みっともない父親の姿を娘に見せてしまったかもしれない💦

普段の父親に戻った僕は、ため息をついたあと念の為にもう一度娘に尋ねました。

「ここに誰かいたの?」

「うん。だれかいる。」



──ちょっとまって。だれか

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