【研究】プロeスポーツチームと所属契約

現在、日本だけでも、プロゲーミングチームと呼ばれている団体はかなりの数存在しているように思いますが、選手の管理や契約内容については、まだまだブラックボックスに近いといえます。そこで、今回は、そのプロ選手契約について議論すべきポイントを考えてみましたので、ご一読いただければ幸いです。

■ いくらオンラインで募集するからといって、所属時に契約をしっかり締結しないのはチームにとっても選手にとってもメリットにならない!

プロゲーミングチームの中では、基本的にオンラインでの募集、選考という形態をとることが多く、かなり活動頻度、顔出しのあるチームでなければ、オフラインでのミーティングは行わない選手、というのも初期的に出てくるかもしれません。

しかし、そういう場面で契約書を用意しない、契約になるようなルールを確認しないことは、お互いにとってノーメリットですので、なるべく避けましょう。契約、というのは、お互いの目標をしっかり設定し、困った時に立ち止まるための基本的なルールを定めるもので、トラブルになった場合に速やかに解決することを可能にするものです。これを怠ることにより、選手間のトラブル等が想像以上に長引いてしまう、ひいてはチームの弱体化につながる恐れもあります。

じゃあどういうルールを作ればいいの?ということが問題になってきますが、今回は、プロスポーツの代表でもある、日本のプロ野球の選手契約をベースに検討してみることにします。

■ プロ野球選手は統一契約をもとに選手契約を結んでいる

日本におけるプロスポーツの最も先進的な参考モデルは、言わずもがなプロ野球です。プロ野球においては、選手の獲得すらも全て一元化されており、プロ選手になる方法や海外への移籍方法は非常に限定されています。日本プロ野球選手会のホームページには、統一雛形が作成、公表されており、これらに含まれる条文には、いくつか参考になるものがあります。

【第2条 (目的) 選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行なうことを、本契約の目的として球団は契約を申し込み、選手はこの申し込みを承諾する。】

【第4条 (野球活動) 選手は・・・・・・年度の球団のトレーニング、非公式試合、年度連盟選手権試合ならびに球団が指定する試合に参稼し、年度連盟選手権試合に選手権を獲得したときは日本選手権シリーズ試合に参稼し、また選手がオールスター試合に選抜されたときはこれに参稼することを承諾する。】

2条と4条は、選手活動の目的と活動の具体的内容を規定するものですが、目的は契約全体の意図・方向性を基礎づけるもので、非常に重要な部分になります。特に、この、選手としての「特殊技能」による稼働を「球団のために」行うという書き方は非常に面白みがあります。JeSUが公表しているプロライセンス制度も、高度なパフォーマンスを基礎づけるものとしてプロ選手によるゲームプレイをひとつの特殊技能として位置付けています。

【第3条 (参稼報酬) 球団は選手にたいし、選手の2月1日から11月30日までの間の稼働にたいする参稼報酬として金・・・・・・円(消費税及び地方消費税別途)を次の方法で支払う。契約が2月1日以後に締結された場合、2月1日から契約締結の前日まで1日につき前項の参稼報酬の約が2月1日以後に締結された場合、2月1日から契約締結の前日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の1に消費税及び地方消費税を加算した金額を減額する。】

3条は、報酬の支払いに関する規定です。eスポーツにおいても、参加する大会やリーグ等を想定して、同様の規定を設けることが可能と考えられます(例えば、大会期間にその練習期間を含めて一定の期間契約とするなど)。

【第16条 (写真と出演) 球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。
なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき、選手は適当な分配金を受けることができる。さらに選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビジョンのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。】

16条は、選手のメディア出演等について定めています。一般的なメディア出演については、eスポーツ選手も同様の規定でカバーできると考えられるものの、eスポーツ特有としての問題は、配信収入をどうカバーするかというところになります。

プロ選手としては、自らがプロとして有名になることに伴い、自らの配信の視聴者数を上げるという効果が生まれることが現時点では、多くのプロゲーマーの主たる収入のひとつが配信関連収入であることからも、これらをプロ選手に対して一律に禁止することはビジネス的にもよいとは言いづらい状況にあります。現実的には、チームがスポンサードを受けている配信媒体に限る(将来的には、配信収入の分配について詳細な規定を置くという事例が一般化する可能性もあると思います。)といったルールが置かれている例が多いのではないかと推察します。

【第20条 (他種のスポーツ) 選手は相撲、柔道、拳闘、レスリングその他のプロフェッショナル・スポーツと稼働について契約しないことを承諾し、また球団が同意しない限り、蹴球、籠球、ホッケー、軟式野球その他のスポーツのいかなる試合にも出場しないことを承諾する。】

20条は他のスポーツへの契約規制です。eスポーツにおいては、特に重要な規定であると考えられます。有名な選手は、実際のところ複数タイトルでプロとして活躍する能力があることが多く、ゲームタイトルの流行によってその主戦場も変わってくるため、この点は野球と異なり、ある程度作りこむ必要があります。例えば、①同一のゲームジャンルを除外する(たとえば、FPSの選手がMOBAやるのはなしね、みたいな契約にしてしまう)、②チームの事前の承諾を必要とするべく修正を行う(チームがOKすればよい)みたいな解決策が現実的でしょうか。

統一契約は、全部で35条程度あり、他にも契約の更新、解除、引退や、紛争の解決に関する規定等が盛り込まれています。ここですべてを紹介できるわけではないのですが、eスポーツのプロ選手においても、契約書の作りこみ、交渉といった文化が根付いていき、代理人を通じた報酬の交渉みたいなビジネスが生まれてくると、いよいよeスポーツにも資本が流れてきているなと実感できそうです。

なお、選手契約のURLはこちらから取得できます↓。

garnet



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