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あとがきとおぼしきもの 後編

 目次

 そもそも「自己投影特化型主人公」に自己投影できないマンだったんですよ俺は(アイサツ)。

 だもんだから自己投影特化型主人公の無難で普通な言動に魅力を感じることができず、だんだんと「基地外じゃなきゃ主人公じゃねえ」などという過激な思想に傾倒してゆき、ついには世の自己投影至上主義に反旗を翻すべくテロ行為に邁進してゆくこととなった。

 それが『夜天を引き裂く』だ。

 それまでも、主人公には奇人変人を据えてきた俺であったが、「普通の弱者」に対して明確な敵意を持った人物をメインに据えるのは本作が初めての試みであったのだ。

 当然、それは創作において悪手である。

 誰がこちらに説教してくる主人公の物語など読みたいものか。

 だが、書かずにはいられなかった。俺たち現実の人間を不快がらせないことだけに心血注がれたキャラクターではもはや脳がまったく揺れない体になってしまったのだ。

 久我絶無は、いきなり画面からにゅっと上半身が生えてきてこちらの胸ぐらをつかみ、「お前はクソだ」と真正面から痛罵してくる主人公だ。そのつもりで読者側のありとあらゆる反論を封じる設定・生い立ちを練り上げた。お前はそれでいいのか。本当に最善を尽くしながら生きてきたのか。僕の目を見て、心して答えろ。そうゆう問いかけを体現させた。

 勘違いしてもらっては困るが、俺自身も久我絶無が見たら「クズが」と罵られる方の人間だ。そのことを恥に思っているし、だから絶無は俺の恥から生まれた男であるとも言える。

 この辛辣な鞭を、いかにして読者に受け入れさせるか。鞭が痛いなら同じくらいインパクト絶大の飴を用意すればいいじゃない。というわけで黒澱さんが誕生した。ホットなベイブの麗しさの描写に関しても俺は手を抜かない主義であるが、黒澱さんはかなりの際物と言えるだろう。彼女を思いついたとき、おれはしょうりをかくしんした。

 そういう主人公とヒロインに対する橘静夜は、作者の衝動というよりは作劇上の必要性から生まれてきたキャラクターだ。一般的にヒーローと言う言葉から想起される要素を可能な限り満たさせた。すなわち、「暗い過去を持ち、裏切られ、絶望に打ちひしがれ、弱さを抱えながら、それでも弱者は守るに値すると胸を張って吼え猛る英雄」。確かに役割としては「絶無の主張の叩き台」ではあるのだが、それだけで終わってしまうような敵役にだけはしたくなかった。俺はファンタジーものとかで「ぶくぶく太った傲慢で無能な貴族」が出てくるとガン萎えするタイプの人間である。否定されることだけが存在意義の登場人物にR.E.A.L.を感じない。正義を否定するテーマの物語ならば、そこで提示される正義は可能な限り完璧で理想的な正義でなければ嘘だろうと思うのだ。こいつの脳内イメージソングはThe back hornの『コバルトブルー』である。ラストバトル書いてる最中はもう脳内でこれがエンドレスで流れ続けていた。作中描写にもいくつか歌詞を忍ばせる要素を盛り込んだりしている。それぐらい好きな曲だ。ケロッグコーンフロストのCMの話はするな。

 神骸装たちは七柱おり、お察しの通り七つの大罪とそれに関連付けられた大悪魔たちがモチーフだ。しかし名前をそのまま使ったのでは響きがありきたりな気がしたので、

 ルシファー(LUCIFER)→レフィシュル

 サタン(SATANI)→アイナタス

 リヴァイアサン(LEVIATHAN)→ナータイヴェル

 マモン(MAMMON)→ノンマム

 ベルゼブブ(BEELZEBUB)→ブベズレェブ

 ベルフェゴル(BELPHEGOR)→ロジェフェレブ

 アスモデウス(ASMODEUS)→スェドンザ

 つづりを逆から読んだ形にした。中二病のひとつも患ってないようなやつを俺は男とは認めない。

 しかしアスモデウス氏は、もともとバイオレンス方面で名を売っていた神だと言うのに、いったいどういういきさつで色欲の罪なんぞ背負わされることになってしまったのだろう。黒澱さんのイメージとさっぱり重ならないので困る。ピーター・ビンスフェルト氏には、「リリスの方が相応しいんじゃないスかね」とご注進申し上げたい。

 それぞれの神骸装の契約者は、いずれも絶無に劣らぬ基地外どもを取り揃えているが、続編は当面書くつもりはない。しかし一応、本編終了時点での各勢力の情勢は考えている。

 傲慢の神骸装レフィシュルは、「重力」「電磁力」「強い力」「弱い力」の四つの作用によって統御される宇宙を維持しようとしている。そこでは現在の宇宙が特に何事もなく続いてゆくだろう。世界最大の宗教をそっくりそそのまま乗っ取り、支配者階級、富裕層、保守派などの人々を取り込んで最大派閥を構成している。
・第一の派閥〈矜持の座〉
 傲慢の神骸装「レフィシュル」を崇める騎士修道会。霊骸装は約十三万柱。自覚的な信徒は約ニ千万人。悪魔の最大派閥。厳格な法制度が布かれた政体。軍事においても規律や指揮系統が極めて高度に完成されており、組織だった戦術を展開する。反面、個々人の資質が色濃く出る事象変換の使用を「不確定要素である」として原則禁じている。前回の魔戦で高等竜人が開発した認識子兵器を制式装備として霊骸装に支給する。
 聖堂騎士パラティヌス:レフィシュルの身辺を守る最精鋭部隊。契約者は全員生体改造を施された試験管ベイビーで、高い認識能力を持つ。事象変換の使用を無制限に許されており、戦闘能力は神骸装に迫るレベル。予備戦力として前線に赴く場合もある。
 啓示騎士オラクリウム:軍組織を成立させる結節点。前線指揮官。位階の高い歴戦の悪魔が任に当たる。レフィシュルから事象変換の使用を許されることもある。凄まじい威力を誇る斬撃祭具を装備。
 贖罪騎士レディンプティオ:異端とは言えないまでも不名誉な行いをした騎士に与えられる懲罰であり、恩赦。
 聖絶騎士団レギオ・インペトゥス:主力。全軍の半分以上を占める。数に物を言わせて戦線を構築する兵科。認識子を弾丸に変えて打ち出す威光祭具を装備。非常に燃費が良く、取り回しに優れ、高い継戦能力を悪魔に与える。
 断罪騎士団レギオ・フュルミネウス:強襲戦力。電撃的な行軍速度と打撃力で敵陣を分断する兵科。颶風祭具と斬撃祭具を装備。英雄的な活躍ができるが、戦闘可能時間は短く、守勢に回ると一瞬で瓦解する。
 浄化騎士団レギオ・ディフラグロ:砲撃戦力。断罪騎士団が分断した敵軍を遠距離から各個撃破する兵科。殲滅祭具を装備。火力支援や拠点防衛もこなす。近づかれるとヤバい。
 一個騎士団が五千柱。十四個の聖絶騎士団、五個の断罪騎士団、五個の浄化騎士団、及びその他。

 憤怒の神骸装アイナタスは、レフィシュルによって四分割された力をひとつにまとめ、原初の活力に満ちた宇宙を取り戻そうとしている。そこでは全知性体が神のごとき力を持ち、活発なせめぎあいを繰り返す宇宙となるだろう。多彩なキレ芸で悪党、狂人、無軌道な若者、貧困層、被差別階級のハートをわしづかみにしている。
・第二の派閥〈義憤の座〉
 憤怒の神骸装「アイナタス」の舎弟たち。霊骸装は約十ニ万柱。自覚した信徒は約ニ千万人弱。実戦力において〈矜持の座〉に対抗しうる唯一の派閥。ヤクザが母体となっており、構成員全員が擬似的な血縁関係を結んでいる。

 強欲の神骸装ノンマムは、レフィシュルの定めた四つの力に「財力」を付け加え、金銭という単一の価値観が支配する宇宙を創ろうとしている。そこではあらゆる意味での貨幣に認識子が宿り、金の力に不可能はなくなるだろう。ちなみに絶無の育ての親父である久我涯無はノンマムの契約者
・第三の派閥〈発展の座〉
 強欲の神骸装「ノンマム」と主従契約を結んだ営利組織。霊骸装は約六万柱。自覚した信徒は約五千万人。自覚なき信徒も合わせると、人類の九割九部がノンマムに認識子を供している。ディアスポラ後も結束を保つことに成功したユダヤ人のごとき連中。世界の黒幕。フェザーン自治領。


 暴食の神骸装「ブベズレェブ」は、知性体のみに認識子の生産能力がある現状を否定し、すべての生命が世界形成に関われる宇宙を創ろうとしている。そこでは野生動物が大きな力を持ち、極端な弱肉強食の論理に支配されるだろう。派閥も部下も持たず、ひたすら霊骸装や人間を捕食して力を蓄えている。


 姦淫の神骸装スェドンザは、特に明確な理念を抱いてはいない。なんとなく、みんながもっとスムーズに気持ちを伝えあえるようになればいいね、とか思っている。
・第四の派閥〈情愛の座〉
 姦淫の神骸装「スェドンザ」と愉快な仲間たち。今のところ、吹けば飛ぶような弱小そのものの派閥。洞慕町の明日はどっちだ。


 嫉妬の神骸装ナータイヴェルは、スェドンザ以上に無目的に動く。とりあえず他の連中がムカつくから暴れる。暴食のブベズレェブほどの狡猾さもなく、組織力の助けもないノーフューチャー神。


 怠惰の神骸装ロジェフェレブは、永遠の静寂を求めている。彼が勝利した瞬間、宇宙は終わる。あるいはそれは究極の安息と言えるかもしれない。
・第五の派閥〈平穏の座〉
 怠惰の神骸装「ロジェフェレブ」に共感するカルト教団。山奥に少数の信徒を囲って引きこもり、瞑想している。強欲とは同盟関係を持ち、認識子を鵜飼のごとく収集して大きな悪だくみを遂行中。あらゆる点で絶無とは相容れぬ主張を持つ絶対敵。

・第六の派閥〈遊歴の座〉
 どの神骸装にも従わず独立不羈を保つ連中による緩い互助関係。魔戦における野党。総勢約三万。信徒はいない。しかし、属する契約者たちは全員神骸装の崇拝オーラに屈さなかった真の男たち。


 ……明らかに〈矜持の座〉の設定だけで力尽きていることが伺えるが、とにかくまぁ、そういう壮大なバトルロイヤルを構想していたのだ。いつか形にしたい思いはあるが、取り組むとなれば間違いなく命を削る覚悟が必要となるであろう。どうしたもんか。

 『夜天を引き裂く』は、俺の創作歴の中でもかなり思い出深い作品となった。こうして世の中に出すことができて感無量である。読んでくれた人、スキをつけてくれた人、購入してくれた人、あまつさえサポートまでしてくれた人、そして本作の絵を担当してくれ、完璧すぎるスェドンザ骸装態と挿絵を描いてくれた脳痛男氏、すべての真の男たちに感謝を捧げたい。

 本当に、本当にありがとう。

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