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契約書には鬼が潜んでいるかもね、という話

改正民法が施行されてからまもなく1年が経とうとしていますが、いかがお過ごしでしょうか?

私をはじめ多くのフリーランスにも様々な影響のある改正でしたが、特にクリエイター系フリーランスに影響があるのは「契約不適合責任」ではないでしょうか。

簡単に言うと、受注者(=制作者、フリーランス等)が種類または品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を委託者(=発注者)に引き渡したときは、改修や報酬減額、契約解除、損害賠償などの請求を受ける場合がある(民法562条など)というもので、従来の「瑕疵担保責任」から代わったものです。

さてこの「契約不適合責任」ですが、”不適合”なんて言われてしまうと、受注側としては何となく罪悪感、負い目を感じてしまうのは気のせいでしょうか・・・?

”瑕疵”であれば、それは”キズモノ”的な印象で、受注側が気を付けて丁寧に作れば無傷の商品を作ることができる。でも、”不適合”となると、丁寧にミスなく作ったとしても、委託側の考えと異なってしまうとキズが無くても”不適合”だと言われてしまうおそれがある。でも、不適合である以上、委託側が求める納品物では無いのだから、改修しなければならない・・・

何となく、そんな印象があります。

それを知ってか知らずか、あるいは狙ったのか狙っていないのかは定かではありませんが、契約不適合責任について委託者に非常に有利な規定、つまりフリーランスなどの受託者にとっては非常に不利な内容の契約も散見されるようになりました。

まるで鬼が潜んでいる契約です。
そんな鬼はできれば全集中で退治したいですよね。

契約書読むのは当然!

契約書といえば、

「契約書が届いたら、ハンコ押す前によく読んで!」

・・・というツイートやブログ記事はよく見ますが、でもそんなことはわかっていますよね?
契約書読まずにハンコ押すなんて白ヤギさんでもやらないでしょう。
読んだ方が良いことは当たり前です。

でも、「読む」と「理解する」は別です。

契約書は、読むだけではダメなのです。
必ず内容を理解した上で、自分にとってどの程度の影響があるのかを明確に認識することが必要です。

ホントにあった(?)、怖い契約書

例えば、委託者(発注者)から届いた契約書に、こんな条項があったとします。

第○条(契約不適合責任)
1. 受託者は、その理由を問わず納入物に契約不適合があったときは、委託者の選択に従い、修補、代替物もしくは不足分の引渡しその他の履行の追完、または代金の全部もしくは一部の減額その他の措置を講ずる義務を負うものとします。
2. 前項の規定は、委託者から受託者に対する損害賠償請求を妨げません。
3. 第1項所定の債権は、委託者が当該契約不適合を知ってから3年以内にその旨を受託者に通知しないときは行使することができないものとします。ただし、受託者が引渡しの時に当該契約不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、この限りではありません。

これを読んで、「あぁ、契約の不適合があったのなら、それは直さなければならないよなぁ。仕方ないよなぁ」と思いましたか?
他の条項に問題無ければ、これでハンコ押しますか?

私なら「ちょ、待てよ!」と言います。

それは、上記の内容ではあまりにも受託者に不利となるおそれがあるためです。

まず1.の冒頭をよーーーく読んでください。

受託者は、その理由を問わず納入物に契約不適合があったときは〜

理由を問わないのですよ?
つまり委託者のミス、例えば指示のミスであったり、提供した素材や情報が間違っていたことなどによって契約不適合が生じた場合であっても受託者に責任を負わせることが可能となるのですよ?(下記※1も参照)

〜、委託者の選択に従い、修補、代替物もしくは不足分の引渡しその他の履行の追完、または代金の全部もしくは一部の減額その他の措置を講ずる義務を負う〜

さらにその”受託者が負わされる責任”の選択肢には「代金の全部の減額」つまりタダ働きさせることまで可能なメニューだけではなく、「その他の措置」という何でもアリなメニューまで設定されており、しかもメニューを選択できるのは委託者側!

さらにさらに、上記に加えて2項の規定により損害賠償請求まで受けてしまうという出血大サービス!

さらにさらにさらに、それが委託者が契約不適合を知ってから3年もの間有効であるという超大盤振る舞い!!!

さほど長くない1つの条項に、これだけフリーランスなどの受託者にとって著しく不利となる規定、いわば鬼が隠れており、突然襲いかかってくるおそれが潜んでいるのです。
この鬼は、竹状の何かを咥えさせても防ぐことはできず、できれば現れる前に退治しておきたいのではないでしょうか。

※1 この条項では”その理由を問わず”という記載が委託者の責めに帰すべき事由による場合は請求できない(民法562条2項)というルールを上書きしているか否かが明確ではありませんが、少なくとも委託者側としてはこの契約の存在を理由に権利を主張してくる可能性があるため、受託者にとってはメンドクサイ話であることには変わりありません。
同様に、損害賠償請求も受託者の責めに帰さない事由であるときはできないとされていますが(民法415条)、それを知らなければ請求に応じてしまうかもしれません。

※2 もちろん、委託する側としては、受託者の仕事があまりにもお粗末だった場合に備えてこの例文のような契約をしておきたい、と考えることも理解できます。しかし、そのような理由の場合であっても”委託者に起因する契約不適合”は除外しても問題ないと考えられる他、そもそも代金減額や損害賠償を負うような重大な契約不適合であれば、納品前の検収時点で発見されなければならないと考えています。

とにかく相談を。

今回の例文を「読んだ」として、どの程度まで「理解」できましたか?
上記のような受託者不利な点に気が付きましたでしょうか?
あるいは、具体的ではなくとも何か不穏な気配を感じたでしょうか?

残念ながら、委託者(発注者)が一方的に有利な契約を提示してくるケースは少なくありません。いや、むしろそっちのほうが普通なのかもしれません。

何も違和感を覚えず、この例文のような条項でもハンコ押してしまう方は、ちょっと考える時間を設けた方が安心かもしれません。

契約をするもしないも自由ですが、契約をした以上、原則的にはそれに拘束されます。
不安な方は、ハンコ押す前に専門家への相談を強くお勧めします。

フリーランスは自営ですが、自衛も大切ですよ!
Let's 鬼退治!!

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