恋のビビビビ
初めて出会った瞬間に「わたしはいつかこの人と恋におちる」と思ったことが、一度だけある。
それを一目惚れと言うのかもしれないけど、体感としては少し違う。一目惚れは「わたし、この人が好き!」という、突発的な感情の昂りだと思うから。小劇場的に言えば、嵐の“Love So Sweet”が流れるような。端から見ればコメディでしかない、突然の爆発。
あの予感はもっと普通だった。「明日も日はのぼる」「世界はいつか滅びる」くらい、シンプルなことだった。それでいて、シンバルで頭を殴られるくらいの衝撃だった。もっと静かで確信的な悟りでもあった。「わたしは近い将来この人が好きになるだろうし、彼もきっとわたしを好きになる」という予定調和だった。彼も絶対わたしを好きになる!と、根拠もなく感じた。
今日、その人と出会った日の日記を見つけた。「◯◯くん、酔って絡んでごめんね」と書いてあった。平凡すぎる……大学生の恋愛すぎる……「こんな人を好きになったら人生楽だろうな」と書いてあった。顔から火が出そう。ほんと、恥ずかしい。照れちゃう恥ずかしさじゃなくて「あちゃー、やってんな自分」の恥ずかしさ。もうヤだ!
実際、その人とは付き合うことになったのだった。
さっき、「一度だけある」と言ったけれど、実は、もう一度だけ、同じように思った時がある。「一度だけ」のほうが運命的な感じがしたからここで締めようかとも思ったけど、現実はそこまでドラマチックじゃない。二度目のビビビがあったっていい。だってわたしの人生は10話完結じゃないだもん!さっきは「一度だけ」なんて言ってごめんなさい。お詫びして訂正します。
人がごった返す場所で会ったとき、その人だけが輝いて見えた。顔が好みというわけではなかったのに、なぜこういうことがあるんだろう。遺伝子の相性?動物的な勘?
その後、この人とも付き合うことになったのだった。今のところ、百発百中。
でもこれは、それだけわたしがその人を好きだった、ってだけなのかもしれない。と最近思い始めた。「この人、わたしのこと少し苦手なのかな?」と思う人のことを実は自分が苦手だったりすること、あるよね。わたしはたまにある。自分の苦手意識を相手のせいにしてしまって遠ざけて、そのせいで相手から本当に嫌われてしまうやつ。逆に、「この人はわたしと仲良くなれそう!」と最初に思うことで、実際にその人と仲良くなれるやつ。こんな心理実験あったよね?名前がわからない。
そんな自己都合のビビビ。相手は感じてくれていたのかな。そういう話を相手とはしていない。後学のためにしておけばよかった。
三度目の正直は、未だ訪れていない。
写真出典:「Gb」2000年3月号
自分のことについて書いているはずなのに、自分のことのように思えない 全て
使途不明金にします