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陰謀論Ⅰ ー 温厚だった妻、陰謀論の動画にはまり「まるで別人に」

多様化が進み、個々人が孤立するコロナの今、人々の思考や行動において、陰謀論がかつてないほど大きな役割を担うようになっている。

陰謀論を信じやすい人たちの特徴的と思われる性格が二つ有るようだ。

ひとつは、自分が不当に扱われたと思う経験を繰り返し数え上げる人衝動的で自信過剰、自分以外のあらゆる人の弱さをさらけ出そうとする人。それに加えて、欧米にはあまり見られない過剰な平等意識が日本人にある。ますます、世界が社会が自分に対して不平等と感じることだろう。

もうひとつのタイプは、孤独を好み、不機嫌で短気な人。その中には、年配で独居の老人も多い。

極端な場合には、本当の精神疾患の病、パーソナリティ障害を持っている場合もある。

そのような状態の人間には、たとえ偶然の産物、偶然の一致である出来事が起こった時、シンクロニシティー(共時性)を感じてしまい、これは偶然ではあるまい、これら出来事の裏には、これらを総括する何者か悪しきものがいるに違いない、と思い込んでしまう

陰謀論は人間社会が始まった頃から存在している。社会が小さく脆弱だった時代には、策略や陰謀に気を付けることは生死にかかわる問題だった。

卑弥呼や平安時代の鬼だってそうだ。陰謀論は心理的な安定や、支配的な感覚を提供し、ばかげて見える世界を自分の中で理解するためのストーリーともなる。卑弥呼の鬼道で天体の動きが自分の中でスッキリと理解されたりする。灯りのなかった(高価だった)平安時代、暗黒の闇の中で蠢くと感じるものは、全て物の怪であった。その理解の延長線上で、物の怪を打ち払う安倍晴明のような陰陽師も必要だった。

たとえ二十一世紀と言えども、人々の意識は、古墳時代・平安時代と変わりないようだ。人々は恐怖のために、インターネット上で読む情報の正確さについて、冷静に判断する能力を失ってしまう

自己意識の確立していない人々は、安易な理解、理解できないものへの恐れのために、何かが裏で蠢いている、という簡単な逃げ道に隠れこむのだろう。

温厚だった妻、陰謀論の動画にはまり「まるで別人に」…[虚実のはざま]第4部深まる断絶<4>

‖「全部ウソ」

「妻はまるで別人になってしまった。一緒に住んでいても、違う世界に行ってしまったように感じる」

西日本に住む会社員の男性が悲痛な声で語る。

専業主婦の妻は温厚な性格だった。アレルギー体質の男性を気遣い、妻は手間をかけて食材を選び、食事を用意した。新型コロナの感染拡大初期は毎朝、「怖いから気をつけて」とマスクを手渡してくれた。

男性が異変に気付いたのは昨年夏頃。妻はマスクを着けなくなり、とがめられると激高した。「コロナなんて全部ウソなのよ」

ユーチューブで目にした陰謀論の動画にはまり、毎日、似た内容を見ているうちに影響を受けたためだった。

男性は今年に入り、コロナやワクチンに関する公的機関の見解をまとめた資料を作った。接種するかどうかを、正確な情報を基に話し合おうと思ったからだ。だが、 豹変ひょうへん してしまった妻は「闇の政府にワクチンでコントロールされる」「国やメディアが真実を隠している」と泣いて反発し、平行線だった。

夏に接種券が届くと、小学生の娘が男性に言った。「パパ、打つのは絶対やめて」

妻は、接種事業の中止を国に求めるグループに入り、娘も参加させていた。

夫婦の会話はなくなり、男性は仕事後、深夜までネットカフェで過ごすことが増えた。何度も離婚を考えたが、娘の将来を思うと踏み切れない。

ユーチューブでデマを発信する人物の目的は、金もうけだと思っている。

「家庭をめちゃくちゃにされた。許せるはずがない」。男性は拳を握りしめた。

‖ どう接すれば ー <陰謀論に振り回される親を見るのが悲しい><信じているものが違いすぎて全く話し合えない>

SNS上では最近、同じような境遇に置かれ、困惑する人の投稿が相次いでいる。

身近な人はどう接すればいいのか。欧米ではネットの陰謀論による家族の断絶が、すでに社会問題化している。当事者が情報交換する英文サイトには18万人以上が登録する。メディアでは心理学の知見を基にした対処法が紹介されている。

「相手を否定しない」「共感して話を聞いた上で、情報の根拠を確かめるよう促す」という姿勢が重要だとされている。

だが、埼玉県の会社員女性(31)は「うまくいかなかった」とため息を漏らす。同居する70代の母親と話し合ったが、関係が悪化するだけだった。「娘の私より、会ったこともないネットの中の人の話を母は信じ込んでしまった」。女性は現実を受け止められないでいる。

‖ 当事者で語る会

多くの家族に共通するのは「誰にも相談できない」という苦しさだという。身内が極端な考えに傾倒すると、周囲の反応を恐れて打ち明けることもできず、孤立することがある。

そんな悩みを、当事者が語り合う場を作った人たちもいる。SNSで知り合った十数人が定期的にオンラインで交流する。

「どうすれば元の夫に戻ってくれるのか。何度考えても答えが出ず、しんどい」

8月のある夜、近況を打ち明けたのは東日本に住む40代の女性だった。

自営業の夫は数か月前から、「ワクチンを打ったらいけない」と書いたビラを近隣住民に配り始めた。夫の母親が接種したと知ると興奮し、母親に「俺に近づくな」と叫びながら家具を投げつけたという。

夫は昨年まで地域活動に熱心で、地元で信頼されていた。子どもの行事があれば、応援に駆けつける父親だった。

涙声で語る女性。他の参加者はパソコンの画面越しに耳を傾け、何度もうなずく。そして自身の体験を交えて話す。

「私も同じ。一人で抱え込まないで」「疲れたら少し距離を置いてもいいと思う」

この日の会は約3時間。解決の手がかりは簡単には見つからない。それでも女性は「少しだけ心が軽くなった」と語った。

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フランク・ロイドのエッセイ集



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