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感受性の殻


電線に区切られた空の下
見上げない人々は今日も

無害だけが取り柄といったような微笑を
安いセロハンテープで貼り付けながら
その裏側に無関心と底なしの憎悪を孕み
小さく小さく息をする
今日も死人のように沈黙を守っている

大人になるということは
感受性を何層もの殻に
閉じ込めることだという

大人になどなってくれるな
あなたの形はあなたのものだ
あなたの感受性はあなたそのものだ

その受け皿を社会に求めた代償に
人々は無機質な部品に成り腐ったのだ
紙切れに保証された偽物の生を謳歌し
自分がどこから来た何者なのかについて
忘れたことすら忘れてしまったのだね

行先も知らぬまま走らされ
隣人の顔も知らぬまま暮らしている


足取りを止めろ
立ち止まれ
誰もがあなたを負け犬だと嘲笑し
その肩を追い抜かしていこうとも
土を強く踏み込んで立ち止まれ

夢と現実の狭間で
充血した目をぐっと凝らすように
初めて地球に降り立った日のように
立ち止まり思い出せ

感受性の殻
その内側

あなたが海だった頃の記憶
宇宙を旅する風だった頃の記憶
あなたが私だった頃の記憶
私があなただった頃の記憶


今日ようやく輪郭を得た君は
ふたご座流星群を追いかける孤独な星屑と
もう会えぬ波と風の残像を
今夜の空にそっと期待する

凍えた喉がキリリと痺れて
手足が悴んでも
今夜の空を見上げ続ける


生きるということ

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