霜が降りる朝

12月30日霜が降りる朝
寝ぼけた姉夫婦を部屋に残して
1人ベランダに出る

2人のあっけらかんとした態度や
幸せな空気感のちょっとした切れ目に
わたしを心配するような視線を感じる
元気なほうが都合が良い
それはそうだろう

あの人が貸してくれた本の
ページを一枚めくるごとに
冷たい空気が指先に滲んで染みて
それがなぜだか心地いい

ふとベランダの外に目をやると
ほうきを持った近所のおじいちゃんが
掃除する訳でもなく
歩道の端に立って坂の向こうを見つめている

そのすがたを見てなんとなく
誰かを待っているんだな、と思う
誰かを待っている人は美しいなと

わたしは
この冷たく澄み渡る冬の空
霜が降りて白んだ大地
遠く旅を続ける大きな波や風
彼らの元にかえりたい
彼らがわたしにとって
こんなにも美しいのは
わたしを待っているからだ

彼らと体温を揃えてゆくように
深く息を吸って吐く

ほうきを持ったおじいちゃんは
坂の方に大きく手を振り始め
わたしは姉に呼ばれ部屋に戻る

エアコンから出る風のような
生ぬるい家族愛に
今日はなんとなく浸っている

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