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反抗期に関する考察

「お兄ちゃんが明日いないの、寂しいなあ。スキー行くの、やめればいいのに」

末娘が先週末の夜、そう呟いたのに思わず耳を疑った。長男、次男、娘の3人兄妹の我が子たち。ここ最近、兄の在宅に困惑はしても不在を残念がることなどなかった9歳の娘が、15歳の長男に対してそんな発言が出るとは思いもしなかったから。
驚いた母の表情を見て娘が、
「前まではお兄ちゃん怖かったけどな、最近優しくなったしいっぱい遊んでくれんねん。だから、お兄ちゃん居ないの寂しい」と言う。

確かに今冬あたりから、長男の家族に対する態度が変わっていた。思春期真っ盛りの2年ほどは、家族を遠ざけて近づくなオーラを発していたのが、まるで憑き物がおちるように親しみやすい青年になった。そんな変化を娘は敏感に感じ取っていたらしい。

中学生になり生活に慣れてきた頃から、長男の反抗期が始まった。反抗期、噂には聞いていたし、自身を振り返っても経験があるからあって然るべきだと頭では分かっている。でも、生来穏やかな性格で、幼い頃から親の言うことは素直に聞く比較的手のかからない子どもだった長男には、この子に反抗期は来ないのではないかとどこか期待していたのだと思う。

家族で食卓を囲みたわいない会話を交わしていると、長男ひとりどこか空気が違う。半歩後ろに引いて、少し醒めた様子で会話に加わらないようにしている様子に違和感を覚えたのが、反抗期の入り口だった。そうしてよほどの用があるとき、頼みごとがあるとき以外は家族の前で滅多に口を開かなくなった。ひとりで自室に籠る時間が増え、家族が過ごすリビングにいる時間はスマホを触るときだけ。身の回りの片づけなど、こちらがやって欲しいことを伝えても生返事だけでまず実行に移さない。弟妹とも会話がなくなり冷たく当たるから、長男が家に居るときの家の中は自然と緊張感が高くなった。正直、それまでの「いい子」キャラからの変貌ぶりに、最初は混乱した。うちの長男は一体どこに行ってしまったのか、と。

そんな反抗期の息子を前にすると、日々の会話に気を遣うようになる。質問に対して「あぁ」とか「別に」とか、端的な言葉しか基本返ってこない。ということは、こちらの質問の仕方に工夫が必要となる。「今日は楽しかった?」なんて薄ぼんやりした質問は、面倒臭そうに「あぁ」で終わる。「今日の部活は何人来ていたの?」のように、回答は決して難しくないけれど単語を発する必要が出る質問をすると、「誰が休んでいたの?」など、次の会話へと繋がりやすくなる。そうして日々、長男との対話に気を払うようになると、自然と長男の空気感や顔つきから彼の機嫌を想像するのにも長けてくる。今日は一人にして欲しいのだろうなと感じるときは、こちらからは必要最低限のコミュニケーションに留めておく。少し話したい気分が表情や言葉から読み取れるときは、身を乗り出して聞く。完全に長男の気分主導のコミュニケーションに、それまでの親と子の力関係が逆転していくのが分かる。

もちろんそんな息子の気分にお伺いを立てるようなコミュニケーションに、心折れそうになることもあった。こちらは毎日彼の部屋を掃除して山盛りの洗濯をして3食ごはん作って、さらにこれほど気を遣うなんて、まるで王様と召使のような関係ではないか、と怒れてくることも多々。でも怒りを感じながらふと、これまでの自分の子どもとの関係性を振り返ってみたら、長男の言動がかつての自身と重なることに気付いて身震いした。我が子が文句を言わない、いや言えないのをいいことに一方的に自分の言い分を提示してきた母。ひょっとして反抗期とは、我が子は自分のコントロール下にあると思い込んで指示を出してきた親に反旗を翻すための行動ではないのか、と。

「〇〇をしなさい」「〇〇はしたらダメ」と、自分がこれまで我が子に与えてきた「圧」のエネルギーが、今自分に返ってきている。これまでは不本意なことを言われても、必要十分な表現力や切り返すだけの精神力がなかったけれど、心身共に成長したからまとめてお返ししますよ、ということではないのか。そう思ったら親として、我が子の反抗期への捉え方が俄然変わってくる。反抗期は、親がそれまでにどれほどの圧をかけてきたかを計る血圧計のようなもの。高血圧に気付いたら、普段の生活で食事を見直したり運動を心掛けたりして心臓への負担を減らすように、子どもからの反発が、親としての態度を見直すタイミングと捉えればいいのかもしれない。「圧」に反発できるだけの意志と、その表現が出来るだけの成長をした我が子を受け容れて認めると、必然的に親子は上下ではなく横並びの関係性になる。そうして親との安定した関係性が構築されたことを見届けると、子どもは安心して反抗期から抜けられるのではないだろうか。

それが、我が子のここ数年の様子を見ていて、わたしなりの反抗期についての考察。日ごろの血圧を安定させておくことでのちの生活習慣病を予防できるように、きっとその反抗期で親としての在り方を見直しておくことは、今後の親子関係にも影響するに違いない。我が子の意志を尊重し、受け容れていく大事なステップのひとつだからだ。

3歳違い、3兄妹の我が子。長男の反抗期が終われば間もなく次男、続いて娘と続いていく。そんな我が子が発する「これからは自分の意志を貫きますよ」サインを受け取り、親も変わっていくのだ、きっと。
反抗期、愛しい我が子からのツレない返答も可愛げのない発言も、親にとっては冷や水を浴びせられるように辛い。けれど、子どもだけでなく、親が親たらしめるために必要な時期なのだと、反抗期を終えたら誰よりも母の相談に乗ってくれるようになった長男を見ていると、心底思う。


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