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冬の朝とベッドとわたし

朝5:50、きっかり。
わたしの枕元の目覚まし時計から「ピピピピピピ……」と音が鳴る。

体って面白い、前夜にどれほど早く寝ても、逆にどんなに夜更かししていても、大体いつも起きる時間近くになると自然と熟睡状態から微睡み、夢と現を彷徨うような状態になってる。だから、小さく少し控えめなピピピ音にもきっちり反応して、あぁ、今日もこの時間が来てしまったな、と思う。

夏場であれば、この目覚まし音を止め、寝たまま一度思いきり伸びをしてからさっと起き上がれる。よっしゃ、さっさと着替えて顔を洗い、散歩も20分出来そうだし、帰ってからヨガを15分しても朝ごはんの支度は余裕だなとか考えるだけの朝の気持ち的余裕がある。

が、冬場はまるで様相が変わる。まず、わたしの上には行く手を阻むゲートのような布団が掛かってる。「この先危険」なんていうマークも、体当たりしてもびくともしない強固さもない代わりに、数時間共に温め合ったお蔭で肌の一部のような温度になった布団が。それはまるで、睦まじい時間を過ごした恋人が別れ際に「こんなに仲良くしたわたしを、一人にするつもり?」と上目遣いして問いかけてくるように、わたしに決断を迫ってくる。

昨晩ベッドに入ったときはまだよそよそしく、ひんやりしていた布団がわたしの体温で頃合いに温められた経緯を考えたら無下にはできまい。あと5分ンだけ、大体こんなに寒いんだから散歩は無理。体にいいどころかどこかの筋を痛めたらダメでしょ、と朝の行動から散歩という選択肢を消して再度布団と体を馴染ませる。

布団と相思相愛の気持ちを確かめ合って幸福感を感じていたら、再度目覚まし時計からピピピ音が鳴る。スヌーズ機能で元電源をOFFにしないかぎり5分おきにアラームが鳴るわたしの目覚まし時計。
あぁ、あれからもう5分経ちましたか、度々すみません。その時間にアラームを設定したのが自分自身だという認識がまだあるから、5分おきにきっちり鳴ってくれるアラームの生真面目さに頭が下がる思いになる。

起きなくちゃ。今起きれば散歩は行けなくとも家事の前にヨガは出来る。アラーム音を止めて起きる意志だけはもって体の向きを起きやすいように横向きに変える。体の向きを変えて出来た隙間から、冷たい外気が入ってくる。布団の外の寒さを知り、一気に起き上がる気持ちが萎えていく。嫌だな嫌だな、君と離れるのはやっぱり嫌だな、布団への愛を再度確かめていたらまた5分後のスヌーズ機能が発動する。
3回目のアラームとなると、なんだか気持ち大きな音になるような気がする。いや、実際にはずっと同じ音量で鳴ってるのだ、音が大きく感じるのは起きねばならぬと分かっているわたし側の感覚によるもの。それでも「朝だよー」と優しく起こしてくれていた声が、「時間だよ、大丈夫?」と心配げになり、果ては「起きなさいって言ってるでしょ!」と語気が強まっていくような感じ。

うん、分かった、もう分かったから。叱られるのに慣れると、なぜかその怒気を往なしたり、逆切れまでする気持ちが湧いてくる。大体、なんでそんなにいつも同じ音で起こそうとするかな、わたしのことを。日によって、あるいは5分おきにちょっとは違う音出してみたらいいのに。布団から出られない自分を、アラーム音の面白く無さ問題へとすり替え始めるわたし。どんな音だったら起きるかなわたし、「ピヨピヨ」から始まって「ニャンニャン」と甘えられ、「ワンワン」と驚かされて「ガオー」と威嚇されたら起きるしかないんじゃないか。そんな実りのないアラーム音妄想をしていたら5分なぞあっという間に経ち、次のアラーム音が鳴る。

今起きておけば家事の前に自分の時間を持つ余裕がある。頭では分かっちゃいるけど秒でアラームを止める。横で寝ている夫がそろそろレム睡眠に入ったのであろう、わたしの数回鳴るアラーム音にストレスを感じ始めたのが寝息で吐く音で伝わってくる。早く起きんかい、と怒られたような気がして横向きから起きられないなら一度座ってから起きよう、と足元だけ正座状態でうつ伏せになる。もぞもぞと体を動かす度に入ってくる外の冷たい空気に、また怯む。そしてベッドから起きられない代わりに、正座してうつ伏せしてどこまで体とベッドを馴染ませられるかな、というチャレンジが始まる。今から起きても出来ない朝ヨガの代わりに、股関節の柔軟性チェックだからね、と自分に言い訳しながらベッドパッドと仲良くしていたらまたもやアラーム音。わたし今チャレンジ中だから、と誰にも通じない言い訳をしながらアラーム音をさらに2度ほど止める。

いい加減やばいよね、それまで現実を直視したくないあまりに敢えて目を逸らし続けてた目覚まし時計の数字を薄眼で見やると、最初に設定した時間から早や30分を超えている。もう限界、そろそろ起きなくては。今を逃したら長男のお弁当も家族の朝ごはんも間に合わない。
一晩思いきり愛し合った布団よ、わたしはそろそろシャバに出るぜ。もう今度は止めないでね、と念を振り切るようにガバリと起き上がる。

布団の中で想像していた外気は、案外寒くない。
寒くないんかい。
これならもっと早く起きておけば良かったのに。目覚めて30分以上もベッドで葛藤した顛末は、朝の家事時間がバタバタして猛烈に反省する。

反省するのに、かれこれそんな朝が2か月続いてる。
そしてきっと、この先2か月もそんな朝が続く。

冬の朝とベッドとわたし。
「部屋とワイシャツとわたし」並みに、粘着質な関係。

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