見出し画像

長男と歩く時間

入試絡みで先週末から4連休だった長男、
休み最終日の昨日、起きぬけに休みが続きすぎて学校に行きたくなってきた、と言うほど暇そうなのですかさず一緒に出かけようぜー、と誘ってみた。

街に買い物に行くか、いっそ観光客気分味わいに寺社仏閣行くか。

誘ったことに了解も得てないけど、そんなこと関係なく選択肢を上げていく母を若干の諦め顔で見る息子。
どうせ行かへんって言っても採用されへんのやろ、と言いながら寺より街だな、と応えた。
彼の了承を得て、胸のなかでガッツポーズなわたし。

街中まで片道約2km、歩いていこう。
えーー、と言う長男、でもわたしは長男と歩くのが好きだ。

長男とふたりで並んで歩くと、ふと思い出すことがある。
彼が1歳で職場復帰して、幼いころは自転車の後ろに乗せてぶっ飛ばしてばかりの生活だったけれど、次男をお腹に宿して臨月となり、もう自転車に乗れなくなってから保育所に行くとき手を繋いで歩くようになった。

ある帰り道、夕立が来そうな重たい空にわたしは焦っていた。
繊細で怖がりな長男、雷が嫌いでゴロゴロ音が鳴ると泣き出して必ずぐずぐずするから。

急ごうと思っても、まだ3歳足らずの息子と大きなお腹を抱えたわたしには限界があって、そうしたらとうとう遠くからゴロゴロ不穏な音が聞こえてきた。

やばい。
この音に気づいて抱っこをねだられても、いまのわたしには無理。保育所帰りの着替えや鞄を持って、3歳を前にした息子を大きなお腹の上に抱っこするだなんて、絶対に無理、勘弁してほしい。

すると長男が少し立ち止まり、不思議そうに耳を澄まして言った。
「バイクの音やな、これはバイクの音やな。ブルンブルン、って。な。」と。

よっしゃ、とその言葉にうんうんと首がもげんばかりの勢いで縦に振る母。
そうそう、バイクやな。どっかにバイクがいるんやなー。と答え、もう一度長男の手を握りなおして先へと歩を進めるわたし達。

雷の音はどんどん近づいてきて、雨もこぼれ落ちてきそうな空模様で急ぎ足に、その間中何度も「これはバイクやで、バイクの音やねんで」という言葉を繰り返す長男。その度、早く家に着きたい、その一心でそうやんなー、バイクどこやろな、とか上の空で返すわたし。

なんとか雨が降り出す前に家に辿りつき、玄関の中に入った瞬間長男が
「うぇーーーーん」と、泣いてしがみついてきた。雷さん、こわいよう、と。

そうだったんだ、やっぱり気付いてたんだ。
彼は最初からあの音は雷だと気付いていて、でもいま母が自分を抱っこできないのも分かっていて、
自分で自分にあれは雷なんかじゃないんだと言い聞かせ、ぐっと頑張って帰ってきたようだった。


長男と一緒に並んで歩くたび、あのときのことを思い出す。

車道側に歩いていたわたしが、後ろから来る車が危ないからと袖を引っ張って場所を入れ替わってくれたり、
弟妹に面と向かっては冷たい態度をとるわりに、あいつはこういういいところがあるからな、とか、あいつは大丈夫なんか、と気をかけているのが分かるたびに

長男と一緒に歩くのが、わたしはやっぱり好きだなと思う。

長男はわたしにとって初めての子ゆえに、たくさんのトライアンドエラーを繰り返してきた。
長子ってのは、本当に偉いよね。超初心者の親と共に歩んで、付き合い、試行錯誤して少しずつ親にしてくれるトレーナーみたいな存在だもの。わたし自身が末っ子だからさらに、尊敬の念しかない。

わたしを少しずつ親にしてくれた長男と、当て所なく歩く時間。
最近希少になってきたからこそ、宝もののような時間。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?