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14/07/2020

どこかの誰かのある一日。インタビューを元に、私ではないひとの日記を書いています。文中の名前は仮名です。


農家の朝は早い。ときどき6、7時まで寝てしまうこともあるけれど、最近は毎日4時半に起きている。今朝もiPhoneの目覚ましのおかげで、無事に4時半に起きられた。えっちゃん(妻)とこうちゃん(息子)を起こさないように、そろそろと蚊帳から出る瞬間はいつも少しだけ緊張する。今朝は静かに動いたつもりが、こうちゃんを起こしてしまった。ごめんよ。ちなみに、目覚ましは黒電話の音と決めている。ひゃっ!となる怖さとレトロなかっこよさが好きだ。

ジョガーパンツとシャツに着替え、軽トラックに乗って、田んぼと畑の見回りへ。水は足りているか。水の落とし口が壊れていないか。イノシシ除けの電気柵が壊れていないか。毎日チェックしないといけないことはいろいろある。今朝は水の落とし口がひとつ壊れていたので、木の板で止めて直した。

会社員だった頃、「台風のなか、田んぼを見に行った人が流された」というニュースを見るたびに、なんでわざわざ嵐の中で危険なことをするのか意味がわからなかった。今になってようやくわかる。朝と夕方に田んぼを見に行くのは毎日の当たり前の習慣で、単純にそれを雨の日もやっているだけなんだろう、たぶん。

田んぼと畑を見て、乾燥機に入れていた小麦を回収して、6時前に家に戻る。えっちゃんとこうちゃんが起きてくる。コーヒーを飲んで、ごはんと昨夜の残りの炒めものとパンを食べる。8時前、こうちゃんは保育園へ。

保育園には今月から通い始めた。保育園に入れる前は「保育園が始まったらもっと仕事できるね」「半日休みにしてふたりで遊びに行っちゃう?」なんてえっちゃんと話していたけど、いざ預けるとなると本当に寂しくて、初日はずっと「大丈夫かな?」とそわそわして終わった。最初のうちは預けるときに泣いたりしていたので、「つらい思いをさせてごめんね」という気持ちもあった。でも今は、保育園で楽しそうにしているこうちゃんを見て、彼なりの社会を切り拓いていることをうれしく思う。今朝も(えっちゃん曰く)着いたら早速おもちゃで遊んでいたらしい。

保育園に行く2人を見送り、仕事の続き。今日は細かい作業が多い。小麦を袋にまとめたり、先輩農家さんにメールで質問を送ったり、ほかの農家さんに借りていた道具を返しに行ったり、草刈りをしたり。

草刈りをするときは、ポッドキャストの「バイリンガルニュース」を聴く。最近のは全部聴いたので、今日は6、7年前くらいの回。出会い系サイトについていろいろ分析した論文の話、だったと思う。ストレートの女性は自分の性欲にあまりオープンじゃないとか、男性は白人がモテて女性はアジア系とヒスパニック系がモテるとか。おもしろかったけれど、途中で草刈機の調子が悪くなり、エンジンがちょこちょこ止まってそっちが気になり始める。12時に一度仕事を切り上げて家へ。昼ごはんを食べて、「庭とエスキース」を読み進める。すごく良い本。

午後もずっと細かい作業をした。結局草刈機が直らなかったので、前に刈ったぶんを焼こうと思うもうまく燃えない。なんだか今日はスムーズに作業が進まない。16時、帰宅。こうちゃんのためにじゃがいもとにんじんを茹でたり、メールを返したりしていたら17時。保育園のお迎えに行って、家でこうちゃんと遊んで、お風呂に入って……あっというまに時間が過ぎていく。

昔の自分、たとえば学生の頃や、営業職だった20代の頃の自分が今の生活を見たら、どう思うんだろう。まあ、「やっちまったな〜」とか思うんだろうな。なんで? 何がどうなってそうなった? って。でも「言われてみればそういう方向もアリだよね」と思うような気もする。農家になるのは想定外だったけど、上昇志向・独立思考は昔からあったから、個人事業主を目指す気はたぶんあった。あのままIT企業で上を目指す道もあったのかな、と思わなくもないけど、当時から「(その道は)おもしろそうじゃない、魅力的じゃないな」とは思っていたから、結局遅かれ早かれ、今のようなところに行き着いていたんだろう。

夜。こうちゃんは、毎日ベビーチェアに座ってごはんを食べる。最近は手づかみで食べたがるので、ぐちゃっとした手で髪や顔をさわったり、米を投げ飛ばしたりと大変だ。今日もごはんをとっ散らかして、その片付けをしながら、農作業も思ったように進まないし疲れちゃったな、どんだけ米粒を拾えば良いんだ、なんてちょっとどんよりしていた。ふーっとため息をつくような気持ちでいると、次の瞬間、こうちゃんがすごい笑顔で「ぱーっ!」とこっちを見てきた。めちゃめちゃかわいい。前言撤回。このかわいすぎるパンチをくらって、今日はもう全部いいや、全部OKだと思った。



あしたもいい日になりますように!