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私たちは桃太郎でもあるし鬼でもある

世の中に“悪い人”はほとんどいない。もっと正確に言うと、「悪いことをしてやろう」と思っている人はほとんどいない。

世の中が見えるようになるにつれ、その事実にじわじわと気づきはじめ、けっこうな衝撃を受けた。


子どものころ、世界には“悪人”というジャンルの人々がいると思っていた。誰がどう見ても悪い、他人をいじめたり貶めたりするために生きている人たち。そして傲慢にも、自分は“そっち側”の人間ではない、と思い込んで生きていた。


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ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。

このコピーを見たときにふと、そういえばどうして桃太郎は鬼退治に出かけたんだっけ、と思い返した。

桃太郎が突然「鬼退治に行く」と言い出した。それ以上のことは覚えていない。桃太郎側の正義は描かれているけど、鬼側の事情は何も見えてこない。

鬼は、ある角度から見れば子ども思いの父親で、いい人だったのかもしれない。子どもにおいしいものを食べさせたい、という正義のもとに、人間たちから食べ物をうばっていたのかもしれない。そういうやり方しか知らなかったのかもしれない。……とぐるぐる考えはじめたら、なんだか鬼に肩入れしたくなってしまう。ある日なんの前触れもなく桃太郎一行に襲撃されるなんて、かわいそうだ。


もちろん、誰がどう見てもひどい、許されないようなことだってあるのかもしれない。だけど、一面しか見えていない状態で外側からジャッジを下すことは、こわいことだなあと思う。それより何より、「自分は桃太郎側である」と信じて疑わないことが一番こわい。

私たちは、桃太郎にも鬼にもなり得る。それは人の性質というよりも、見る角度の問題だ。


正義と正義のぶつかりあいは、本当にめんどくさい。どちらかにジャッジを下そうにも、なかなか答えが出ない。だけど、昔話みたいに勧善懲悪ではない世界で、生きていくしかないのだなあと思う。


眠いのでそろそろ寝ます。おやすみなさい。

あしたもいい日になりますように!