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夏が終わるので

8月31日は、いつも唐突にやってくる。日々カレンダーを眺め、「もうすぐ8月も終わるなあ」と頭の隅で自覚しているはずなのに、やっぱりその日は唐突に現れる。宿題が終わらないのも、一度も海に行かなかったことを悔いる気持ちになってしまうのも、すべては8月31日が突然目の前に現れるせいなのだ。


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ところで、今日初めてひーさん(子ども)が歩いた。たどたどしく、机からそっと手を離して、よたよたと4,5歩進んでぺたんと尻もちをついた。

それは思いがけず大きな、記念すべき一瞬だった。今は大人の手を借りないと何もできない彼が、いつか一人で出歩き、私の知らない友達をつくり、自力で人生を形作ってゆく。その未来の片鱗が初めて見えた気がして、じんわりとした。

彼と私は、別の人間なのだ。たまたま私というトンネルを通ってこの世にたどり着き、ただ偶然に、ひとときを共にしている。日々おなかの底で感じている、そんな物寂しい気持ちが、またぐんとせり上がってきた。


母によると、私はもともと8月31日に生まれる予定だったらしい。少し遅れて、結局9月2日の朝方に生まれた。私の記念日にはならなかったこの日を、ひーさんが引き継いでくれたのだなあと、そんな気がした。夏が過ぎ去るのにふさわしい感傷で、悪くないと思った。


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今年は突然に夏が始まったので、何か新しいことを始めたくなった。それで、毎日なにか文章を書こうと決めた。それからあっという間に2ヶ月が過ぎた。

毎日書くのは、夏の間だけと決めていた。特別な意味はないので、変えてもいいのだけど、やっぱりそうしようと思う。いつもいろんな人が読んでくれて、とてもとてもうれしかったです。これからもゆるゆると書き続けます。

「ずっと」なんてないことを、こどもたちは夏から教わる。(前田 知巳)

あしたもいい日になりますように!