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【加山雄三】「海 その愛」のコード進行は凄い

ポップスを作り始めると、コード進行とメロディと歌詞のバランス、他にはない独自のアイデアが必要だと気がついてくる。ありきたりに聞こえていた音楽が、実は緻密で巧妙に作られていると気がついたりもする。
加山雄三の数あるヒット曲の中で、最後のステージに「海 その愛」が選ばれたことに僕は驚いた。一番有名な「君といつまでも」や、局違いであれ「サライ」を選ぶこともできたはずだ。いやきっとNHK側の事情もあっただろう、後の組で桑田佳祐らが「夜空の星」を歌ったりしていたし。

だけど「海 その愛」だった。僕はこの歌を少し特別な視点で聴いたに思う。それを書き残しておきたい。


加山雄三は日本のシンガーソングライターの先駆けだ。1961年に中村八大の曲で歌手デビューした後、1965年に「君といつまでも(作曲:弾厚作は彼のペンネーム)」が当時360万枚以上のヒットを記録。以後も俳優業と共にヒットソングをたくさん作って、以後のシンガーソングライターや作家に大きな影響を与えてきた。
「海 その愛」は1976年の歌。My WayやHey Judeを彷彿とさせる楽曲なのだけど、、、、、

ここから音楽の中身の話になります。
僕がこの歌を「すごい!」と思うのは、サビのコード進行です。


V-Iから始まる12小節のサビ


ポップスのサビでコード進行がV-I-V-Iで始まる曲は(現在においてもなお)希少です。この進行により、サビの歌い上げが賛美歌を思わせるものになっています。
尺が12小節であることからブルース進行も想起させます。いや、もしかしたら最初から黒人霊歌っぽい曲を作ろうとしていたのかも。(1970年代の半ばにですよ!?)

しかもこのサビは3段とも、2・3小節目のコードが同じです。

ですが、同じI-Vのコード進行の前後のコードの組み合わせは3段とも違っています。使っているコードは4種類だけ。たったこれだけでドラマチックなハーモニーを作れているんです。

普通、ポップスを作るときは分かりやすい繰り返しを使いがちです。あるいは印象に残すために捻ったコードを挿入したり・・・・・
でも「海 この愛」は違う。シンプルなコードしか使っていない。しかも12小節だ、ブルースを連想させる、洋楽っぽい。統一感があるけど一段ごとにフックがあって飽きさせない。
なんて機能的なコード進行でしょう。美しい以外に言葉が思いつかない。

作曲って、在り来たりだとスルーされてしまう。かといって複雑にすれば見向きもされない。シンプルであり、かつ味のあるアイデンティティを持つ音楽が要求されるのだと思います。たとえば「ギター一本で歌ってそれと分かる歌」のようなものが、いいポップスなんじゃないかと。加山雄三の作曲した音楽にはいずれも、そういう独自性が、ちょっとずつ隠されています。

加山雄三氏本人が最後のステージでこの歌を選んだのだとしたら。
それはもしかしたら、体は、歌声は衰えていずれ消えゆくとも、音楽、作曲、歌詞は永遠に生き残る、「どうだ、かっこいいだろ?」っというメッセージに思えて、もう涙が止まらなかった。
それは音楽を志す人すべてが望む、命以上の永遠を、実際に目にしたようだったから。





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