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スタディーノート9 小火

ミャウー。ラカイン州北部に位置し、15-18世紀にかけて栄えた古都である。かつて花めいた王宮こそ残ってはいないが、今でもその堅牢無比(?)の苔だらけの石垣は今もアラカン人を横目に居座り続けている。私は横を通る時、やはり日本の築城技術はすごいのだとほくそ笑むのであった。今年6月からアラカン軍とビルマ軍の衝突の影響でラカイン州のインターネットが遮断されている。9月初目に一部地域のブラックアウトは解除されたものの、ミャウーでは依然としてインターネットの接続は不可能である。そのためワイファイの繋がる茶屋やフロントにはゲームや連絡を取るために若者が集まっている。ブラックアウト景気とでも名付けるべきか。カフェには、オンラインにて銃で撃ち合うゲームをしている男たちがいた。おやと思う。バーチャルとリアルを混合するべきではないのか。
 

写真1・ゲームをする男性。 the enemy has been killed というヴォイスが鳴り続ける。

中心街のマーケットはほとんどの店が閉まり静まり返っていた。1年前の活気溢れる雰囲気は失われているかのように思えた。これも衝突の影響か。本日は満月を祝う休日であった。そのため皆はモナストリーに出かけていた。ここまでくればもはや過剰反応であろう。何事も内戦に結びつけるのは良くないと溜息を吐いて反省する。しかし衝突の波紋は確かに存在している。特にツーリズム業界である。観光客は減少し、ガイドたちは手持ち無沙汰な日々を送っている。バスやボートとなれば、近くで戦闘が起きれば引き返さねばならない。両軍の兵士が乗っていれば起爆装置で爆破される可能性も出てきた。さらに深刻なことはすでにアラカン州全体で約7万人、ミャウーだけで約3万人の国内避難民(IDPs)が発生していることだ。彼らの村で両軍が戦闘状態に陥る、ビルマ軍が一部を占領するなどして行き場をなくしている人々がいるのだ。彼らの一部(私が訪れた450人規模のIDPキャンプも)はモナストリーに助けを求め、その近辺に国際NGOによって用意されたシェルターでの生活を余儀なくされている。着の身着のままの脱出であったことから食料も支援品で成り立っている。同じ内容の支援を行うUNHCRの職員は同じ国で発生した行き場のない人を目の前にし、何を胸に抱くのか。

写真2・IDPキャンプの様子。歩けば床が軋む。水上にあるため水蛇に皆恐れていた。 

避難民は皆、口を揃えて「家に帰りたい。でも危険だから帰れない」というのだった。デジャヴである。バングラデシュに逃れたロヒンギャの人々もそう言っていたな。少し冷酷ではあるが、苦しむ喘ぐ彼らを前に2年前のロヒンギャ族に起きたことと重ね合わせたりするのだろうかとふと考える。一つだけクトゥパロン難民キャンプと異なっていたことはホストコミュニティの対応であった。近隣住民は少額ではあるがモナストリーに寄付し、そのまま彼らに対して還元される支援システムが形成されていたことだ。これは敬虔な仏教徒ゆえであるのか、それともアラカン人の団結力というものなのか。「仏教では助けを求める人がいれば助けてあげることは普通です。私は普通のことをやったまで」。IDPsの押し寄せたモナストリーの責任者は涼しい顔をして話した。

写真3・モナストリーの責任者。キャンプの学校で英語と算数も教えている。

キャンプ内でビルマ軍の行いに怒りを示す者は大勢いた。そして彼らは全員アラカン軍を支持していた。彼らだけでなく、現地人や州の外に働きにでた人までもがアラカン軍にドネートする現状がある。両軍の戦火の代償として村を追いやられたのに、また戦争により戦火を被る可能性があるのに、どうしてそこまでアラカン軍を持ち上げるのか。私は第三者からの視点を持ち続けた。彼らの熱に浮かされてはならない。
この疑問をアラカン国民党関係者に投げかけたみた。
「他の州同様ラカイン州でもビルマ化が進んでいる。どうして学校でビルマのことしか勉強できないのか。歴史の教科書にはウーオッタマ僧も載せられないんだぞ。政治ももはや機能しているのは思えない。他の方法となればアラカン軍しか希望はない」とTwon氏は語気を強める。
アラカン軍への支持はビルマ軍への反感と比例していくかのように思えた。いつか沸点に達するのかもしれない。パツパツと細い繊維たちが次々と切れていく光景を思い浮かべた。彼らの多くは止まらないであろう。そして少数ではあるだろうが存在する(してほしい)穏健派たちは流れに乗らざるを得ないムードが形成されているのかもしれない。

写真4・流暢な英語で答えてくれたTwon氏。
英語とコンピュータ技術を青年たちに教えている。

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