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たらればさんと末次由紀さんが語る、百人一首が楽しくなる小ネタ

先月、たられば(@tarareba722)さんと末次由紀(@yuyu2000_0908)さんが百人一首について語る、というイベント(ほぼ日の株主ミーティングの1コマ)に参加しました。

末次先生が「講演とか呼ばれたことなくて、これがほとんどはじめて」と仰ってて、それはあまりにもったいないくらい面白かったので書きました。これ、歴史や古文の勉強してたころに聞きたかったなぁ。

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教科書的な話じゃなくて、歴史資料集のコラムみたいな、知ってると本編が面白くなる小ネタ。あと、メモ書きをもとに脳内補完して書いているので、記憶違いでおかしな部分があるかも。


現実の風景さえ変える百人一首のイメージの力

ちはやふる神代も聞かず竜田川
からくれなゐに水くくるとは
17番 在原業平朝臣
嵐ふく三室の山のもみぢ葉は
龍田の川のにしきなりけり
69番 能因法師

末次:どちらも竜田川が歌われている。が、奈良時代の万葉集を調べてみると、竜田川のまわりは当時は紅葉の名所でもなんでもなかった。山のほうで落ちて流れてきた紅葉を歌っている。
歌によって竜田川と紅葉があまりにもセットで有名になっていった結果、江戸時代にいっぱい植林して、いまでは奈良県斑鳩町は紅葉の名所になっている。

たられば:竜田川が歌によく読まれるようになったのは、都が奈良(平城京)から京都(平安京)に移ったあとからなんですよね。郷愁をのせて読むから紅葉が登場しがちなんだと思うんですけど、京都から奈良ってちょっと遠いので、時代が進んで奈良行ったことない人がそれを読むと、竜田川と紅葉のイメージがどんどん先行しちゃう。

末次:膨らんだイメージで奈良に行って、全然ないじゃんってなるとガッカリする。そのガッカリが溜まっていって、斑鳩町の投書欄とかに入ったんじゃないですかね(笑)
吉野には桜が咲いててほしいし、竜田川には紅葉がほしい。人間のもつイメージの力ってすごい。イメージに足りなければ現実の風景すら変えてしまえる。
(画像は奈良県観光公式サイトより)

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1000年後まで筒抜けの「禁じられた恋」

末次:わたしが勝手に「禁じられた恋セット」と呼んでいる歌が3首ある。

ちはやふる神代も聞かず竜田川
からくれなゐに水くくるとは
17番 在原業平朝臣(かつて恋仲だった皇后に頼まれたときに詠んだ歌。※このエピソードは劇場版『ちはやふる』でも登場)
わびぬれば今はた同じ難波(なには)なる
みをつくしても逢はむとぞ思ふ
20番 元良親王(不倫がばれて謹慎中のときに詠んだ歌
今はただ思ひ絶えなむとばかりを
人づてならで言ふよしもがな
63番 左京大夫道雅(伊勢の斎宮と恋仲になって、監視をつけられながらも詠んだ歌。神に仕える斎宮との恋は、当時はかなりのタブー

末次:隠してた恋で、歌もこっそりおくってるはずなのに、背景エピソードまで含めて1000年後の私たちにまで筒抜けなんですよ。これを残したのが、藤原定家。


藤原定家と冷泉家がつないだバトン

たられば:いま残ってる古典のかなりの部分は、藤原定家が残したもの。彼が未来につないだバトンなんですよね。

末次:「源氏物語を書き写した」って、言うのは簡単ですけど、途方もないことですよ。

たられば:源氏物語は100万字あると言われてますからね。定家がさらにすごいのは、決して裕福ではない下級官僚なんだけども、家族にも子孫にもやらせてること。
いまも京都に残ってる冷泉家が、元をたどると定家。明治に御所が東京に移ることになり、他の公家も一緒に移るなか、冷泉家だけは「うちは、守らなきゃいけないものがある」と言って京都に残った。


小倉百人一首と新古今和歌集

末次:百人一首はごくプライベートの選歌集。定家の娘の嫁入り先のお父さんである宇都宮頼通から、個人的に頼まれて選んだもの。定家はこのときすでに70歳をすぎて、和歌の世界では神さまのような存在でした。

たられば:天皇が命じて作るのが勅撰和歌集。自分の治世を誇るために、ピラミッドや古墳ではなく歌集を作るっていう、なんとも雅な文化だと思いますね。定家は勅撰和歌集も任せられているんですよね。

末次:新古今和歌集ですね。後鳥羽院が定家に命じて編ませた勅撰和歌集。そのくらい和歌の世界の大家である定家をつかまえて、「別荘に飾りたいからちょっと百首選んでよ」っていう宇都宮さんもたいがいですよね。
ただ、定家は新古今和歌集の方では後鳥羽院にめちゃダメだしされてるんですよね。「ぜんぜんダメー」って。すごく「切り貼り」されてできたのが新古今和歌集。

たられば:後鳥羽院は、こう。。 個性の強い方ですからね・・・

末次:70歳すぎてボツくらいたくないですよね。。。だから、宇都宮さんから「好きに選んでいいよ」って言われたの嬉しかったんだろうなって。


小倉百人一首の小ネタと定家の目線

たられば:古い歌から年代順に並んでいる。1と2、3と4というふうに、2つでセットになっている。1首だけでも味わい深いが、セットで見たときにまたちがった見え方があるので、ぜひセットでも見てほしい。

たられば:百人一首は敗者の歌。敗者への祈り、鎮魂の歌集。

末次:定家はハッピーな歌は選んでいない。藤原道長の「この世をば」なんて、もうぜっったいに選ばない。定家の、敗者への暖かさにあふれている。

末次:ただその中で、2つだけハッピーな歌がある。

春すぎて夏来にけらし白妙の
衣ほすてふ天の香具山
2番 持統天皇
風そよぐ楢の小川の夕暮れは
みそぎぞ夏のしるしなりける
98番 従二位家隆

末次:特に98番家隆は、定家が97番に自身の歌を選んでいて、それとセットとして、同時代のライバルである家隆の歌を選んでいる。そこに、季節の移ろいをまっすぐに描くこの歌を選んでいて。この2つは百人一首の中にあって、特別に輝いているんですよね。


感想戦

やっぱりたらればさんの、歴史の捉え方というか、敬意と愛がすごい。勅撰和歌集を、ピラミッドと同列に見たことはなかったなぁ。

そしてツイートもしたけど、末次先生の歴史上の人物を身近に引き寄せる着想と比喩。その背景にある膨大な調べ物の量。お見せできないのが残念ですが、当日イベントでは、百人一首の百首すべてについて、人物像や歌が詠まれた背景、イメージイラストが描かれたノートがスライドでちら見できて、あれはすごかった・・・

その末次先生が描く競技かるたの世界の話もすごかった。「し」と「し」の違いを聞き分ける音の世界。

さっそく「ちはやふる」読み始めてるんだけど、もう1巻からおもしろい。やっぱり末次先生の、人間とか人情についての理解が深いから、おもしろいんだろうなぁ。

子供はさ どんなに強くても かるたが好きでも
友達がいないと続けられないんだ

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1巻から3巻まではKindle版は無料でした。どんどん続きが読みたいけど、もったいないからちびちび味わって読みたい。

ひとまず以上です。
受け取ったものをどこまでお返しできたかは心もとないですが、たらればさん、末次さん、ほぼ日のみなさま。楽しい時間をありがとうございました!

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