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【散文】メガネ初恋#毎週ショートショートnote

今日もヒマだね、なんてお店で並んで話していた

何とも思っていなかった、ただの同僚

ふらりと来たお客様が彼を見つけ

鏡の前で試着する

はじめて見る仕事姿の彼

わたしは内心ドキリとする


わたしはガッチリした型が好きだった

そのはずなのに


ひょろりと細くて丸いフレームの彼

エンジニアのお客様の優しい顔立ちを

一層、理知的に華やかにしていた


旅立ちの日

度が入り、正装した彼は見違えるほど輝いていた

じゃあな、お前もがんばれよ

そう言い残して彼はお客様と共に去った


残されたわたしもやがてオーナー様に出会った

この赤い色が好き、とわたしを褒めてくれる

どこへ行くにも一緒で、様々な型とすれ違う


これまでに多くの型と出会ったけれど

やはり最初の恋は忘れられない

そんな恥ずかしいことは言えないけれど

少し傷ついた丸いフレームを横目に

今度ともよろしくね、と話しかける


またお前とこんな風に並ぶとはね

仏頂面でぶっきらぼうに言い捨てる彼と

オーナー様の眠る枕もとで並んで話していた


(410字)



前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。


今回のテーマは「メガネ」「初恋」。

珍しくまともな(失礼)テーマが来ました。
掌編風に書くと長くなりそうなので散文風に。と思ったら、前回散文で参戦したのは「失恋墓地」の裏テーマ「失楽園ぼっち」でした。
恋と散文、相性が良いのか。

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