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【名言と本の紹介と】『俺か、俺以外か。ローランドという生き方【電子特典付】』

世の中には二種類の男しかいない。俺か、俺以外か

ROLAND『俺か、俺以外か。ローランドという生き方【電子特典付】』(2019年、KADOKAWA)35頁



 おいおいネタ切れか? よりにもよってローランドかよ。

 という声が聞こえてくるようだ。私も、書籍販売時は店頭に平積みされていても「はぁ。あのホストの方の本ね」と思って見向きもしなかったクチである。

 だが、それから3年。今や「俺か、俺以外か」と言えばローランド、と誰もが知っている。これはそこらのキャッチコピーよりもずっと有名だ。Z世代にとっては、バファリンの半分が優しさでできていることよりも有名だし、世界は誰かの仕事でできていることよりも有名だ。No Music No Life並みだろうか。

 ここまできて、ちょっと興味が湧いてきた。kindle unlimitedで見かけた際、ちょっと読んでみようかと思ったのである。0円ならいいや、という感覚だ。


 一応、奥付の略歴をかいつまんで紹介をしておこう。1992年生まれのホスト、ファッションモデル、タレント、実業家だ。18歳(2011年)でホストになり、21歳(2013年)で史上最高額の移籍金でホスト界トップのグループ会社へ入る。25歳(2017年)に同グループの取締役になると、2018年の自身のバースデーイベントで6000万円以上の売上を記録し、グループ歴代売上最高記録となる。その年末に現役ホストを引退し、その後はホストクラブのオーナーの他、美容品、アパレル、サロン等々幅広く活躍しているらしい。

 絵にかいたような華々しい略歴である。漫画のキャラクターにいそうだ。そして、この「こういうキャラ、いそう」という感想は読む前から、読んだ後まで一貫して変わらなかった。


 あくまでも個人の意見だが、フィクション、特にキャラものの話を書く場合、ナルシストはキャラとして立ちやすく話を進めやすい。だが「ナルシスト」というだけではある意味無個性になりがちだ。ナルシスト×金持ち、ナルシスト×わがまま、ナルシスト×オネエ言葉……ととにかくナルシストな一面を際立たせる、他の要素を詰めていかなければ印象付けられない。

 ではローランドというと、ナルシスト×ナルシストである。とにかく自己愛が強い。

 もともと、自己愛が強いという自覚はあったのだが、それを決定付ける出来事があった。
 
 よく女性に、
「貴方のことが好き」
 と言われるのだが、そのたびに、
「俺も好きだよ!」
 と答えていた。
「俺も(ローランドのことが)好きだよ」という意味でね(笑)。
 共通の趣味というか、
「私は旅行が好き!」
「え? 俺も好き!」
 みたいなノリで。
 
 ある時、ちょっとした口論をした。
「貴方も私のこと好きって言ってくれてたじゃない!」
「え? そんなこと言った覚えはないけど……」
 
 そんなやり取りをしていくうちに、わかった。
 お客様は俺が口にした「俺も大好き」を「俺も(君のことが)大好き」という意味でとらえたのだ。
 自分の答えがいかに誤解を招くものであったか、そして自己愛がどれだけ強いかということを痛感させられた。
 いろいろな人にこの話をすると、みんな決まって、おかしいのは俺だという。

同95-96頁


 ああ、ナルシストってこうすれば良いのか、と強く感銘を受けたエピソードだ。一般人には思いつかない発想力である。ナルシストを描くならこれくらい振り切らないと面白くない。


 この本はそんなナルシストが書いているのである。一頁目からそこらの本とはわけが違う。

 まず、本書を開いてプロローグにたどり着くまでに、ローランドのポートレート写真を11枚越えなければならない。おそらくファンにはたまらない感じの素敵な写真である。それぞれ素晴らしい出来だとは思う。

 そしてプロローグにて自身の略歴と本執筆の経緯が俺様スタイルで語られる。こんなところでくじけてはいけない。本書は全編この語り口である。

 目次の各タイトルはインタビュー等で答えた彼の名言らしい。目次を見るだけで、充分お腹いっぱいになれそうなので、いくつか取り上げてみよう。

 

・俺は、なんのために生まれてきたのか? 人から必要とされて、脚光を浴び、熱狂させるためだ
・嫉妬や妬みは、いい男のアクセサリーみたいなもんだろ?
・タキシードをカッコよく着られない男なんて、男じゃねぇ
・俺はローランドだからね。コンビニには手を染めないよ
・この部屋が汚いの? それとも俺が綺麗すぎるから汚く見えるだけ?
・周りの人達から愛をもらって生きてきた俺の使命。それは、ローランドという存在でみんなを幸せにすること
・歴史なんて勉強するもんじゃないね、作るものだから
・天は二物を与えないなんて嘘に決まってる。俺もらいすぎて困ってるから返却先を知らないか?
・ヴェルサイユ宮殿行ったら、観光じゃなくて内見だと思われないか心配だなぁ

目次


 愛されるナルシストになるにはやはりこれくらい思い切って振りきるべきなのだろう。中途半端の鼻につくレベルではただのムカつく奴になってしまう。また身近な人々と比較し、貶めるような表現を避けることも大切だ。どうせなら歴史を作り、天からギフトを与えられ過ぎて返納し、ヴェルサイユ宮殿を内見に行くくらいでなければならない。

 さらには、電子書籍版には巻末に特典がついている。特典とは何か。そう。皆様が想像している通り、ポートレート写真である。その写真には自書の名言が書かれている。その名言もおかわりしておこうか。

・オーラの消し方知らない?
・生まれ変わっても俺がいい。
・ナンバー2のなり方教えて。
・去る者追い越す。

巻末特典


 さて内容に入るまでもなく、もうとっくに満腹になっていることだろう。だが、ナルシストもここで終わればさすがに薄っぺらい。やはりそのナルシストの裏には、ストイックな部分が隠れている。

 「デブは甘え。普通に生きていたら太らない」という名言は少し語弊がある気もするが、彼はどれだけ過密スケジュールであろうと、ジムでトレーニングする時間を捻出し、旅行先であろうと、朝起きるとランニングをする。栄養士と相談し、カロリー計算をし、タバコは一切吸わず、お酒もほとんど飲まないとのことだ。何ともホストらしくない話だ。

 だがこのモチベーションも、好きな自分でいたい、理想とする自分でいたい、自分のことを嫌いになりたくないというナルシシズムから来ているらしい。ストイックも行き過ぎるとナルシシズム。思わず「いいキャラしてんな」と言いたくなるのだ。 


 また本書の中で唯一共感できた個所があるので、最後にその部分を紹介しておこう。

ジャージばかり着ていたら、ジャージが似合う人間になっていく

 身なりは、人を作ると思っている。
 だから常に、しっかりとした格好でいることを意識している。
 数年前の正月、俺は実家で家族と過ごしていた。
 その間、家族との時間を楽しんだが、なにせ正月だ。
 今考えると身の毛もよだつが、5日間ほど髪をしっかりとセットすることも、ジャケットを着ることもなく、ただのんびりとジャージを着て、寝癖のまま、家で過ごしたのだ。
 そして、休み明けの出勤日。
 いつものようにタキシードに袖を通し、鏡の前に立つと、どうもおかしい。まるでピントが合っていないカメラで撮影したように、どこかボヤけている。顔もどことなく覇気がなく、スーツを着ているというより、スーツに着られている。
 そう、俺は休みにだらけてジャージで過ごしている間に、いつの間にかジャージが似合う男になってしまったのだ。
 その時、確信した。
 だらしない生活をすると、そういう生活や格好が似合う人間へと、知らないうちに変わっていってしまうと。

同81-82頁


 このエピソードには共感できる人も多いのではないだろうか。逆にハレの日に着物を着たり、仕事のオンオフでジャケットを着たりと、服装でこちらの気持ちの有り様は変わる。

 私はここのところ休みになると、ろくに着替えもせずに惰眠をむさぼり、起きている時間もほぼ寝ているような状態だ。着替えもしなければろくにメイクも髪をとかすこともなく、少し手を伸ばせばあらゆるものが手に届くような帝国を築いてしまっている。これも1日か2日程度ならまだ何とかなるが、3日続けてしまってはもう社会復帰できないことはわかっている。

 もちろんローランドを私のようなスライムと一緒にしてはいけないが、朝起きて、ちょっと良い服に着替えることが、私のような出不精の心のリハビリになるのだろう。


 私は昔から自分のことが嫌いだったので、ローランドは真反対の人間のように考えていた。だが「自分が嫌い」で留まるのではなく、「自分に嫌われたくないから徹底的に好きになる努力をする」彼は、私と同じ路線のずっと向こうにいるのかもしれない。そう思うと、俺様な文章にちょいちょい差し挿まれるポートレート写真も好ましく思えてくる。

 今度テレビのチャンネルを回している時に映ったら、しばらく眺めるだろうと思う程度にはローランド好きになることができた。まだNo ROLAND, No Lifeの域までは達していないけれど。


 ナルシストを見たい方、書きたい方、なりたい方は是非、読んでみてください。

 「なんか、ホストを儲けさせるのがイヤ」という方もご安心ください。この本の印税は、カンボジアの子ども達の育英と、東日本大震災をはじめとする日本各地の復興のために全額寄付されるとのことです。
 


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