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デザイナー・ダイアリー:「Hegemony: Lead Your Class to Victory」(Designer Diary: Hegemony: Lead Your Class to Victory)

本記事は、Vangelis Bagiartakis氏が2023年4月11日にBGGに投稿した「Designer Diary: Hegemony: Lead Your Class to Victory」の翻訳である。内容は、本ゲームのデザイナーであるVangelis Bagiartakis氏とVarnavas Timotheou氏の対話形式となっている。

Vangelis Bagiartakisは、ギリシア生まれのデザイナーである。代表作として、「フィールド・オブ・グリーン」や「ダイスシティ」が知られている。ゲームデベロップにも多数携わっており、「The Pursuit of Happiness」や「キッチンラッシュ ~戦場レストラン~」のデベロップにも携わったようだ(ただし、「キッチンラッシュ ~戦場レストラン~」では共同デザイナーとしてクレジットされている。)。物理学の学士号(BSc ※Bachelor of Science)と修士号(MSc ※Master of Science)を取得し、7年間IT関係の職に就いた後に、専業のゲームデザイナーとなったようである。

Varnavas Timotheouは、本ゲームが処女作となるギリシア生まれのデザイナーである。政治に関心を持ち、国際政治学の学士号(BA ※Bachelor of Arts)と修士号(MA ※Master of Arts)を取得しており、更に経営学修士(MBA ※ Master of Business Administration)も取得しているようだ。本作の出版社であるHegemonic Project Gamesの創設者兼CEOである。

本作「Hegemony: Lead Your Class to Victory」がどのようなゲームなのかを知ることには、2つの意義があると思われる。

1つは、デザイナーはいずれもインテリであり、単純にこのような背景をもつ2人が手がけたゲームの意味内容を知ることは興味深いと思われる。ゲームの内容から分かるとおり、現実世界に即したゲームとなっており、これにはデザイナーの背景が大きく影響していると思われる。そうすると、テーマをゲームに落とし込むという観点からゲームデザインを眺めてみるというのは、やや意義があるように思われた。また、Hegemonic Project Gamesのサイトを見ると、2人以外にもAcademic Associate等として国際政治学関係の知識を持った人たちが関与していることがわかる。

2つ目は、本ゲームの制作過程を詳細に知ることができることに意義があるように思われる。重めの、カードドリブン型の非対称のゲームについてデザインを検討している人にとっては特に有益だと思われる。特に、どのような問題が生じて、どのように解決していったかについて詳細に語られている。

ほかにも様々なことに触れられている。読む人にとって異なるものが得られるだろう。

なお、補足として、作品名にもなっているHegemony(ヘゲモニー)の意味内容について簡単に説明しておこう。

ヘゲモニーは、覇権という訳語が当てられ、政治、経済、軍事の面において傑出した国家が他国を支配・統制している状態を指す。Sierra Madre GamesIon Game Designが出版するPaxシリーズにおけるPaxは平和・安定を意味する(ローマ神話上の女神である)が、Pax AmericanaPax Romanaといったように、覇権国家によりもたらされた平和という意味合いで用いられる。歴史上、覇権国家は移り変わっていった。諸説あるが、一般的に近代における覇権国家は、オランダ、イギリス、アメリカの順に推移していったとされる。物事を極めて単純化すれば、現在はアメリカが衰退し、中国が台頭しているといったところであろう。

(これまた古い話だが)ウォーラーステインの(近代)世界システムまで話そうとしたが蛇足と思われるし、このゲームに対するやんわりとした否定に捉えられかねない。それに、この極めて教育的なボードゲームを通して政治経済を学ぶ意義を損なうと思われる。更に知りたいと思った方のみが探求すればよいと思われる。

元記事は、以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像は、BGGから引用させていただいた(クレジット: Varnavas Timotheou)

クレジット: Varnavas Timotheou

「Hegemony: Lead Your Class to Victory」は、国家全体をシミュレートした、非対称のカードドリブン型の政治経済ゲームだ。プレイヤーは、労働者階級、資本家階級、中産階級、あるいは国家そのものの役割を担い、自分自身のアジェンダを追求しようとする。

簡単にデザインできそうに聞こえるだろ?

(そんなわけない)

「Hegemony: Lead Your Class to Victory」を手がけることは非常に長い旅路だった! 少なくとも、デザインするには非常に難しいゲームだった……けど、先に結論を述べるのはやめておこうか。

はじめに

Vangelis:話は、2019年の中頃から始まる。ギリシアでは、毎年開催されるボードゲームデザインのコンテストがある。そして、その一環として、主催者は、主に新人デザイナーを対象として、テストプレイのセッションやゲームデザインに関連する話題のトークイベントのような様々なイベントを行うんだ。私は、その年、そんな話をするように頼まれて招待された。話が終わった後、参加者の数名と話す機会があった。私に話しかけてきた1人は、自分のことをVarnavas Timotheouと名乗って、キプロスから来たんだと話してくれた。そして、抱いているアイディアを私に打ち明けてくれたんだ。

Varnavas:ちょうど自分の研究が終わり、政治学の修士号が得られるところだった。私は、政治と経済に非常に興味があったんだが、大学に在学している間に、そういった分野における最も重要な理論を教えるために利用できる"楽しい“ツールがないことに気付いた。当然、大量の本が世の中にはあるし、YouTubeに飛びつけば、その理論に関する動画がめちゃくちゃたくさん見つかるだろうさ。しかし、そのどれもが、本質的に"楽しい"ものではない。そういった本を読んだり動画を見たりするためには、こういったトピックに心から興味がないといけない。けど、プレイしている間に、こういった事柄について学ぶことができるボードゲームがあったらどうなるだろうか。それは、実際の学術的な原理に基づいていて、友人たちと楽しい時間を過ごしつつ、この世界がどのように動いているかについて多くのことを学んでテーブルを離れることになるゲームってことだ!

私は、そんなゲームの制作に着手したが、手始めに、小さくて、チンケな大したことでもない問題に対処しないといけないことがわかった。それは、自分にはゲームデザインの経験が一切ないということだった! 実際のところ、それがさっきのイベントに参加した理由だった。経験豊富なデザイナーと一緒にこのプロジェクトを手掛けたかったんだ。そして、そのイベントは、同じ場所で多くのデザイナーと会う素晴らしい機会だった。Vangelisの名前は聞いたことがあったので、トークイベントの後で彼に話しかけることにした。二人で非常に長い時間をかけて議論をして、私は、彼に私の構想を詳細に説明したんだ。

Vangelis:彼が説明していたことの前提が気に入ったんだが、それは非常に骨の折れる課題になるだろうとわかっていた。良かったのは、私がそういう課題が大好きだということだ。だから、この課題は、私が興味を持って手掛けられるものだったんだ! 私が別のプロジェクトを片付けている間に数か月が経った。そして、その年の終わるまでには、このプロジェクトを一緒に手がけることを合意したんだ。

初期段階

まずは、ブレインストーミングをする期間から始まった。テーマはあったが、どんなメカニズムを取り入れるかについて全くアイディアの欠片もなかった。私たちは、作ろうとしているゲームの種類すらわかってなかったが、予想していたよりもはるかに困難だということが、本当にすぐに明らかとなった。

第1の目標は、プレイして楽しいゲームを作ることだった。うん、そりゃそうだ。"問題"(そんな風に呼びたいのであれば)は、このゲームを学術的な原理に基づいたものにもしたかったということだった。それは、あるものが存在する必要があって、特定の形で行動すべきということを意味する。そういった事柄を用いて正確にしたいと思えば思うほど、どうにかして取り入れる必要がある瑣末な点が多くあったので、ゲームを複雑にしなければならなかったんだ。他方、私たちは、ゲームを手に取りやすくて(比較的)プレイしやすいものにしたかった。

決定する必要があった初期の事柄の1つは、プレイヤー人数だった。3つの階級(労働者、資本家、中産)があったが、(議論したけれども)3人プレイのゲームを作りたくはなかった。2人まで各階級をプレイすることで、3人から6人までプレイできるというアイディアもあったが、直ちに棄却された。2人から4人までのゲームにすることが可能かを見出そうとしていたら、国家を4人目のプレイヤーにすることを思いついた。既に、このゲームが非対称であることはわかっていた。現実世界では、国家は、3つの階級全ての要望に応えたいと考えている集団なので、4人目のプレイヤーとして国家というのは自然であった。こうして、ゲーム内に常に移り変わっていくダイナミクスが生み出され、プレイするのに面白い役割となると思った。

よかった、4人プレイは形になった。けど、2人プレイだったらどうする。役割が2つしかなかったら、一体このゲームは機能するんだろうか。詳細に検討した後、このゲームの核となる主要な争いというのは、上流階級と下層階級との間にあることがすぐに明らかとなった。このことは、プレイヤー人数が何人であろうと、2つの役割がゲームから欠くことができないものであるということになる。言い換えれば、労働者階級の労働者又は資本家階級の会社がいないと、私たちが示したいものが示せないということだ。中産階級は、2人しかプレイヤーがいないと省くことができそうに思えた。そして、国家の役割は、ある程度まではオートマ化することができるだろう。こうして、このゲーム全体に通じる多くのことを形作る決断をした。つまり、2人プレイでは、プレイヤーが担う役割は、常に労働者階級と資本家階級となる。3人プレイでは、これに中産階級を加える。そして、4人プレイでは、国家が4人目のプレイヤーの役割となる。プレイヤーの中にはこの決断を心良く思わない人もいることはわかっていた。やってみたい組合せでプレイすることができないからね。しかし、2人プレイを成立させるために重要であった。だけれど、オートマによっておそらくこの問題は解決できるだろうから、その考えを頭の片隅に置いておいた。

決断をしたことを踏まえて、目の前にある仕事を小さい要素に分解していった。その時点ではまだ何もない状態だ。だから、2つの基本的な役割から手をつけ、それに基づいてメカニクス的にゲームの根幹を確立した後で、踏まえるべき基礎に基づきながら、他の2つの役割の細部を手がけることとした。

根幹を確立する

Varnavas:このゲームの中心には、常に、政治テーブル(table, ※罫線の引かれた表という意味合い)という1つのことを据えるようにした。各行が異なる政策(税、貿易、福祉、移民等)を表すテーブルを作ったんだ。そして、各列は、異なるイデオロギーを示すようにした。左には、その政策に対する社会主義的なアプローチを、右には新自由主義的なアプローチを設けた。これが、プレイヤーたちが"争う"ことになる主たる"戦場"となり、このゲームの基礎となるものだった。各階級は、自分たちの利益に適うように政策を変更したいと思う。通常は、正反対のことを望む他の階級の犠牲にしてね。ゲームの残り部分に何を含めるかを決定するのは、それらの政策(とその項目)だった。

クレジット: Vangelis Bagiartakis
※最初のブレインストーミングのセッションで作られた、「Hegemony: Lead Your Class to Victory」における政治テーブルの超初期バージョン

私たちは労働市場から始めた。明らかに、資本家階級は企業や団体を支配しており、労働者階級には、これらの施設で働く労働者がいる。労働市場政策は賃金を決定するものである。社会主義的な政策は、労働者に高い賃金を払うことを強制するものになるが、新自由主義的な政策は、全く規制のないものを望み、必要があれば、非常に低い賃金も許容するものになる。これは、理に適った、企業、労働者及び賃金の変化を示す方法を見つける必要があることを意味した。

Vangelis:奇妙な話に聞こえるかもしれないが、このことは、おそらく私たちが決断するのに最も時間がかかったところだろう。ご察しのとおり、多くの事柄を盛り込む必要があった。異なる生産高を示す異なる能力の労働者がいて、その能力に対応して異なる賃金があるはずで、この賃金は労働市場政策に左右されるはずだ。つまり、少なくとも、それぞれの場合(1つは社会主義的な項目、1つは新自由主義的な項目、1つは中産階級の項目)で3種類の異なる賃金があるはずということだ。加えて、機械(machinery)という概念も盛り込みたかった。それは、企業の経営者が追加の賃金を支払わずに生産性を上げる選択肢である。そして、最終的に、2人プレイのゲームのために全てを熟考していたけれど、中産階級にも独自の労働者が必要ということがわかったので、決定したものは何でも、同じようにそのことを考慮に入れる必要があった(つまり、どの程度のお金を与えるかに関して、2人の異なるプレイヤー、そして異なる計算を考慮に入れる必要があった。)。あまりにも複雑にならないような形で全ての作業をこなそうとするのは不可能なことのように思えた。全体的なことをより理解しようとして、ある時点で次のベン図作成したことさえある。

クレジット: Vangelis Bagiartakis
それに異なる賃金に対応する異なる能力レベルをもったワーカーを盛り込んでいない。
※賃金と生産との関係性を表すベン図

当然だけど、たくさんの試行錯誤が行われた。様々な選択肢を考えたし、どの選択肢の場合でも、やることは同じだった。プロトタイプを作って、それがどのように感じられ、どれほど複雑で、どれくらいプレイヤーにとって直感的なのかについて知見を得ていった。

その問題に取り組みつつも、ゲーム中に得られるリソースも決定しなければならなかった(対応する企業や産業を作れるようにね)。最初は簡単なもので、食料だった。全ての人たちにとって最も基本的な必需品であるのは明らかだ。だから、労働者階級は、食料が十分あるように確保しようとするはずだ。テーブルの中の政策の1つは、社会保障制度(Welfare State, ※直訳は福祉国家)だった。この政策は、公衆衛生(public Health, ※太字はHealthのみに付されている。)と教育の価格を決めるように意図されていた。そうすると、その2つがリソースとなるのは辻褄が合うよね。それらの価格が政策によって定まるだけでなく、基本的なニーズがあるものでもある。したがって、労働者階級に獲得させようとするのは、労働者階級の目標の1つになり得る。この3つのリソースを用いて、最初の3つの産業ができあがった。農業、衛生、教育だ。何らかの形で重工業を盛り込みたかった。そこで、それを高級品という名前の1つのリソースにまとめた。当然だけど、ダイヤモンドや宝石を意味するものじゃない。あらゆる必需品ではない物を対象とした名前だった。例えば……ボードゲームとかね。

最後に加えた産業は、メディア業界だった。その企業は、政治の世界で役に立つ可能性があると思う影響力をもたらす。5つの産業に対応した5つのリソースは、さらに商品(食料と高級品)やサービス(衛生、教育、影響力)に分けることができた。高級品は、後になって(ホテル業のような)サービスの形を盛り込んだけれども、商品とサービスの区別は最後までそのままだった。リソースと5つの産業ができあがったところで、様々なアプローチがテストされた。各産業用に1枚のカードを配り、ゲームが終わるまでその上にワーカーを置き続けるとか、異なる企業に応じて異なるカードを所持するとか、各企業に固定のスロットを設ける代わりにワーカー数の制限をなくすとか、カードの代わりにトラックを設けるとか……といった感じにリストは続いていく。これら全てがテストされたが、その全部が全く同じ問題にぶつかった。それは、賃金と生産の計算が複雑すぎたということだ。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

Varnavas:最善の解決策について考えている間に、他の政策についても検討した。当初は、政策が10個か11個くらいあったが、いくつか削っていった結果、6個しか残らなかった。先ほど述べた労働市場や社会保障制度のほかには、財政政策、税制、対外貿易、生産手段の所有ができあがった。

財政政策は、国家からの給付金や補助金の規模のみならず、公共部門(Public Sector)の規模も決する。社会主義者であれば、大規模な公共部門(そして、多額の給付金や補助金)を目指す。他方、新自由主義者であれば、小さい公共部門となり、補助金はなく、国家への融資もないということになる(国際通貨基金(IMF)は、デフォルト(default, ※債務不履行)に備えて存在する。)。当然、まだ、これら全てが実装されるかは全くわからないが、これが大まかなアイディアだった。税制は、各階級がラウンドごとに支払わなければならないお金の量を定める。各項目(社会主義/混合経済/新自由主義)に応じてテーブルを設けたが、それよりもかなり複雑になることはわかっていた。対外貿易は、何を輸出し得るか、主にリソースの数量を決定するが、輸入する場合の関税も定める。最後の生産手段の所有は、国家が企業を売り買いできるか、その点についてどのような規制があるかを決定する。

Vangelis:これらの政策全てを変更するための争いがこのゲームの重要な要素になるということが最初からわかっていた。そうして、私たちは投票メカニズムを考え出さなければならなかった。袋からキューブを引くというアイディアが気に入ったんだ。やることとして最も論理的に感じたしね。そこで、袋の中に3つの階級全てのキューブを試しに投げ入れて勝者を決めるためにその中から5つのキューブを引いてみた。単純に聞こえるかもしれないけれど、本当にうまく機能した。だから、これで行くって決めた。(主に、最初に袋の中にどのようにキューブを入れるかに関して)あちこちに何個か微修正を加えたが、多かれ少なかれ、最後までメカニズムは変わらなかった。実際、プレイテスト中に、おそらく投票のプロセスがゲーム全体において最も楽しい要素だろうというコメントをたくさんもらったね。

Varnavas:その頃にも議論していた別の要素は、勝利条件に関することだった。様々なアイディアが議論されて、そのほとんどが政治テーブルに関係するものだった。例えば、労働者階級は、全ての政策について社会主義的なものにするということを勝利条件とするというものだ。中には非常にテーマ性が高くて理に適ったものがあったが、すぐにこのゲームの最適な解決策ではないということが明らかとなった。通常、そういったアイディアの全てが、誰かが勝つためのものとなって、他のプレイヤーが徹底的にボコボコにされるということになる。シナリオによってはプレイヤーの排除につながるだけでなく、現代社会において起こっていることを示すものではなくなってしまった。階級同士は対立し争うが、少なくとも西洋諸国では、ある階級が他の階級を排除することを見かけはしない。このゲームは、みんなの住む世界がどのように機能しているかを教えてくれるものになるはずだったので、その勝利条件は、何らかの形でそれを反映する必要があった。そのために、昔ながらの勝利点方式に甘んじることとなった。プレイヤーが自分の階級にとって利益をもたらすことをすれば、いつでも勝利点が得られる。最終的に最も多くの勝利点を得たプレイヤーが勝者となる。あらゆるバランスをとるのは非常に大変な作業だったが、単純で理に適ったものだった。

Vangelis:最後に、製作しているゲームがどういう種類のゲームなのかを決定しなければならなかった。このゲームのジャンルは何ってことさ。ワーカープレイスメント? デッキビルド? COIN(※COunterINsurgenciesの略で、GMT Gamesが出版するVolko Ruhnke氏が最初に考案したシリーズもの。特徴として各陣営ごとにルールや勝利条件が違うという点が挙げられる。)? 最終的にカードドリブンにするということに落ち着いた。それは、私が「Freedom!」で経験したことがあるジャンルだった(そのゲームは非対称でもあった。)。そして、そのジャンルは私たちのニーズと完璧に合致しているように思われた。特定のイベントを示しており、プレイすることができる特定の効果を持つか、望むならばそのカードを捨てることで他のことができるようになるカードがある。共通のカードプールと各カード上のアクションポイントを用いる代わりに、(各プレイヤーがしたいことがあまりにも異なるので)各プレイヤーが別々のデックを使い、アクションポイントは一切用いないことに決めた。カード上の効果を得るためにカードをプレイするか、基本アクションを実行するためにそのカードを捨てるかのどちらかを行う。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

コロナ、あるいは新しい常識にようこそ

Varnavas:人が計画を立てると、神は笑う(when man makes plans, God laughs, ※計画なんて思うようにいかないという意味だが、語源は不明。Woody Allenが言ったとする説は根拠見当たらず。イディッシュ語の格言のようである。)って言うよね。先ほど言及したほとんどのことは、2020年の初頭に起こったことだ。Vangelisとこのプロジェクトを手掛けるためにギリシアに行った。毎日会って、良い調子で進んだんだ。しかし、3月がやってきて、私たち全員が、その時世界中で何が起こっているのかを知ることになったと思う。私たちはロックダウンの憂き目に遭い、当然、それ以上会うことが叶わなくなった。数週間後(当初考えていたよりもはるかに長い期間も続いたことは明らかになった。)、私はキプロスに戻って、全てをデジタルで行おうとした。ビデオ通話が新しい常識となり、テストプレイはTabletopia上のオンラインに移行した。

Vangelis:理論的には、これまでのように作業し続けることができた(けど、オンライン通話を使ってだけど。)けれど、私たちの周りのあらゆる物事も劇的に変わっていった。そして、新しい現実に慣れなければならなかった。あらゆることの中で最も難しかったことは、私の家の4人の子どもがリモートで学校に接続しようとして、日中、もはや仕事どころではなくなったところだ。私たちの通話は、結局、午後11時の夜から午前4時の朝にかけて行われることになった。楽しいひとときだ!(ふざけんな)

よかった点は、リモートで作業し始めたのとほぼ同時に、企業に関する問題の解決策を見つけたんだ。こういう結末となったんだ。それぞれの企業には、固定の数のワーカーをあてがわれて、能力のあるワーカーと能力のないワーカーがいる。ワーカー数が固定されていれば、カードごとの賃金を固定することができ、プレイヤーに計算させることもない。しかし、このことは、①企業が活動するためには、全てのワーカーが存在しなければならない、②(賃金をより小さく分けることができないので)全てのワーカーが同じ階級に属していなければならないことを意味していた。この2つの要件が、さっきの解決策がうまく機能させていたので、これを維持しつつ、それに応じて残りのルールを調整した。設置された機械については、(追加の賃金を支払う必要がないまま)生産ボーナスをもたらすカードの一番上に置かれたトークンで表現するようにした。賃金レベルについては、現在のレベルを示すボード上のマーカーを儲けるというアイディアをいじっていたが、企業を所有するプレイヤーに賃金レベルを個別に決めてもらったほうがいいということを判断した。そうして、各カード上には3つの賃金が掲げられて、小さいマーカーが現在の賃金を示すこととなった。

クレジット: Vangelis Bagiartakis
※「Hegemony: Lead Your Class to Victory」の企業の初期プロトタイプ

企業-ワーカーのメカニズムが整ったところで、ほかのあらゆることもゆっくりと整い始めた。私たちは、2人のプレイヤーにアクションを割り当てることに着手した。企業を起こす労働者を配置する賃金を調整するなど。各業界に異なる企業を作り、そのコスト、ワーカーの数、生産量等を真剣に検討した。

他の政策の一部は、すぐに形にすることができた。例えば、財政政策は、公共部門の規模を決定することになるので、"規模"ごとに各サービス当たり1つの企業を割り当てた(小規模の公共部門には3つの企業を、中規模の公共部門には6つの企業を、大規模の公共部門には9つの企業を意味する。)。6番目の政策であった生産手段の所有は、テーマ的には興味深いものだったけれど、ゲームプレイの観点からすると、うまく機能しないように見えたので、採用しないこととした。その代わりに、移民(※政策)を加えた。移民は、各ラウンドで何個の追加のワーカーがゲームに投入されるかを定めるものだ。しかし、すぐに気付いたことは、対外貿易と新しく追加した移民という2つの政策が、社会主義と新自由主義で異ならないことだった。その代わり、ほかの2つの学派では違いがあった。それは、ナショナリズム(国境封鎖)対グローバリズム(国境開放)だった。これを実装するために、縦に隣となって並ぶ形で配置することによって2つの政策を示して、少し違うことが明確となるようにした。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

税制は、それだけで膨大な章となる。当初は、項目ごとに挿入する異なる価値を示したちょっとしたリストを用意したけれど、段々とゲームが形作られるにつれて、それに応じてリストを調整しなければならなかった。学術的な原則に忠実なままにしたかったので、プレイヤーに同じ形で課税しなかった。つまり、納税額は、プレイヤーが実際にしていること(主にどれくらいの収入を得ているか)に応じて、大きく異なるべきだ。異なる複数のアプローチを試したが、その全てで同じ問題が生じた。それらは(比較的)複雑であって、プレイヤーに大量の計算を要求するものであった。加えて、政策それ自体にアイコンを用いて視覚的に表すのが困難であった。その時に得た知見を残しつつ、いずれ優れた解決策を見つけるということにした。

ゲームの様々な要素が形になっていった中で、最も重要な課題の1つに取り組む必要があった。それは、どのような方法でそれぞれの階級が得点を得るかということだった。資本家階級については、比較的簡単だった。得た利益に基づいて得点を与えればいい。(税制に関する政策がゲーム中にあることを念頭に置きながら)利益を計るために、最終的には次のようになった。資本家階級のプレイヤーには、ボード上にお金のための2つのスペースが設けられている。新しく得たお金は、左のスペースに置かれる(収入)。税金を含む支払わなければならないお金も、そのスペースから取り出される。こんな形で、ラウンド終了時に左のスペースに残ったお金はプレイヤーの利益となる。そのお金は、(新しく得たお金と混ざらないように)右のスペースに移動させる。そして、プレイヤーは、右のスペースにあるお金の量に基づいて勝利点を得る。利益を多くすればするほど、プレイヤーは多くの勝利点を得られることになる。これは理に適っていたので維持した。しかし、労働者階級については、当初、明確ではなかった。労働者階級の目標はどうあるべきか、それをどのように数量化するか?

Varnavas:真の社会主義に到達すること、言い換えれば、資本主義の崩壊に至ることが労働者階級の目標であるべきだと意見もあり得るが、先ほど述べたとおり、そのアプローチに従うことは様々な問題があったわけだ。労働者階級は人々の基本的なニーズを満たすことを軸にすべきだとわかっていた。それはつまり、食料、衛生、教育だ。けれども、食料は、プレイヤーがラウンド終了時に各ワーカーに与えなければならないという具合に、既に"必要条件"とされていた。だから、食料に対して得点を与えるというのもあまり意味をなさなかった。そこで、機能を果たすための存在として衛生と教育が残った。再度、異なるアプローチが検証されてテストされた。最も期待できると思われたものは、この2つのリソースにトラックを設けて、プレイヤーが2つのリソースを使えば使うほど、トラックが進んでいき、進行度に従ってますます得点が得られるというものだ。その上、衛生を提供すれば、追加の労働者が得られるけれども、教育を提供すれば、能力のない労働者を能力のある労働者に変化させることができるようにした。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

私たちは、(※労働者階級が)頑張って政策を変更することができれば、得点も与えるようにすることとした。自分の利益のために政策の1つであっても変えることができれば、通常は、すごい後押しとなる(a great boost)。けど、もし、このゲームについて熟練してないのであれば、時として、それを達成するのは難しくなる。特に、最初のゲームの時はね。だから、プレイヤーには、政策を変えようとするインセンティブを与えたかったんだ。勝利点を得るというのが、見事にその役目を果たしてくれた。だが、実際には、勝利点を得るには選挙に勝たなければならず、面白い状況を生み出した。

上述したこと(それと、ビジネス上の取引、労働組合等のようなあちらこちらの様々な諸々)を全て実装することで、ゲームの大部分を設計することができた。そして、ほぼ毎日、Vangelisと内部テストを行なっていたが、その時にやり残していたことは、他の人たちと全てについてテストプレイをすることだった!

初期テストプレイと中産階級

Vangelis:テストプレイをしてくれる人を探している間にロックダウンに遭ったことは、控えめに言っても面白い体験だ。私たちの場合は、素晴らしいことでもあり、困ることでもあった。私たちは、(私とVarnavasはお互いに数千キロの距離が離れていたのはもとより)他の人と対面で会うことはできなかったが、デジタルのプラットフォーム上で全てをデザインしたことは、物事をより容易にしてくれた。私たちが作り上げたこと全てについて外部からのフィードバックが得られるようにオンライン上でプレイするために友人を招き始めた。

いまだに多くの点について作業が必要としていたけれども、テストからのフィードバックは非常に好意的だった。プレイヤーは、プレイしていたことを気に入っていたし、このゲームが面白いと思っていた。実際、軍で働いていたテストプレイヤーがいて、次の日、かなり早く起きなければならなかったということを明確に覚えている。彼がある程度までプレイしたら、私が彼の代わりにプレイを続けることに合意したんだ。けれど、時間が経過しても、彼は離れたがらなくて、最後の最後まで夜遅くになっても寝ずに起きてプレイしたんだ!

Varnavas:プレイヤーが大いに気に入ってくれた別の点は、このゲームの非対称性だった。複数回テストプレイに参加して両方の役割(※労働者階級と資本家階級)を試す機会があった人たちは、全く異なるプレイ感であったことを楽しんでくれた。それぞれの役割における体験はユニークで、プレイヤーは非常に異なることを行っているのだけれども、あらゆる物事が相互に関連していた。しかし、最も重要なのは、学術的な環境にいる人たち(academia, ※学界)とテストプレイをして、私たちがしていることに関して意見をもらわなければならないことだった。当時、私は、既に、多くの有名な機関(例えば、オックスフォードキングス・カレッジ)に属する名高い研究者たちと長時間にわたる議論を行なって、考え出したこと全てが学術的な理論に則したものとなっているか確かめていた。すぐに、彼らに実際に動いているゲームを全て見てもらって、物事が適切に実行されているかを確認してもらうことができた。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

全てのテストプレイで気付いた予想外のことがあった。このゲームは、常にロールプレイにつながるということだ。たとえ、誰とプレイしたとしても、しばらくすれば、政治家の有名なフレーズを耳にするようになり、プレイヤーがすっかり自分の役割に没頭しているのを見ることとなって、現実世界で対応するもの(real-life counterparts)のレンズを通して自分のアクションを正当化するようになる。それはとても楽しい時間で、全員が楽しい気持ちになれた。そして、それは、おそらく、ただの感覚だけど、何か良いものを手中にしたかもしれないということのきざしだった……。

Vangelis:得られた貴重なフィードバックを用いて、ゲームのほぼ全ての面において多くの工夫と調整を加えた。しかし、最も重要なのは、2人ゲームがしっかりとした基礎を築いていたと気付いたことだったので、このゲームの3つ目の役割である中産階級を手がけ始めることとなったんだ!

もう一度、何を中産階級のプレイヤーの目標とすべきかを決めるための多くのブレインストーミングを行なった。労働者階級と資本家階級は全く異なるものだった。そして、中産階級についても同じように当てはまるもの(※全く異なるもの)にしたかった。しかし、議論をすればするほど、中産階級は、他のプレイヤー双方の要素があることがますます明らかとなった。中産階級には、公開会社(public companies)や資本家が所有する企業に通勤するワーカーが属していた。けれども、同時に、中産階級は、自身の(小規模な)会社を設立することもできるはずだ。中産階級は、そこに属する人たちのニーズを満たすために衛生や教育にお金をかけられるはずだが、衛生や教育を生産して販売することもできるはずだ。結局、私たちが気づいたことは次のとおりだった。中産階級のアクションは、ほかの2つの役割のアクションと(ほとんど)同じになったけれども、その組合せはかなり異なったように感じられた。中産階級は、1つのことをテーマにしていたわけではない。他のプレイヤーが所持しているものを利用できるが、他のプレイヤーと同じ数のアクションがあることで、彼らほど効果的にプレイできない。言い換えると、生産、販売、消費のバランスを見つけなければならない。

これまた、このアイディアをテストにかけた。そして、その結果は非常に興味深かった。見覚えがあるけれど違う感覚があって、それがゲームを魅力的にしていた。当然、たくさんの微調整を施す必要があった。その中には直ちに調整する必要があるものもあった。厄介だったのは、どのように中産階級を機能させるかを決めることだった。"小規模な"とは実際にどういう意味なのか? そして、どんな種類の労働者がそこで働いているのか? 資本家の企業では、他のプレイヤー(労働者階級と中産階級)が働くことができるが、中産階級の会社ではどうなのか? 中産階級の会社は、労働者階級のワーカーだけで成り立つのか? 賃金はどうなるのか?

今から振り返ってみると、目の前にある完成したゲームを手に取れば、こういった多くの疑問に対する答えは明白なように思える。しかし、その頃は、明白なものはなく、どうしたら中産階級がうまくいくのかに多くの思考を費やさなければならなかった。最終的には、"使用者-被用者"アプローチを採ることとなった。全ての中産階級の会社は、設立するために、少なくとも1人の中産階級のワーカーを要する。そのワーカーは、その会社の"社長"を示している。しかし、生産を増強させるが賃金が必要となる労働者階級のワーカー(被用者)を加えるという選択肢も設けた。テストプレイによって、中産階級のワーカーを被用者とする選択肢も設けるべきだということが示唆された。ただ、その両方を許容してしまうとやや複雑になってしまい、混乱の原因になり得た。(これは、多かれ少なかれ、生産と賃金を計算することに伴う当初の問題と同じだった。) 結局、中産階級の会社を2種類作ることにした。(賃金の支払を伴う)労働者階級の被用者がいる会社と、(稼働するのに労働者階級と中産階級の2つが必要となり、賃金の支払の必要のない)中産階級の被用者がいる会社の2つだ。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

3人目のプレイヤーも加えることで、このゲームがもっと面白いものになった。今では、労働者階級には、国家のリソースとボード上の企業の利用可能なスロットの両方をめぐる争いがある。他方、労働者階級には、政策の変更を後押しする場合の支援者ができた。同じく、資本家階級は、自分自身のリソースについての別の潜在的な顧客を有するともに、追加のワーカーのリソースも有した。同時に、資本家階級は、一定の変化を促そうとする支援者でもあり、敵でもあった。全体を見れば、このゲームは、ますます良いものとなっていったんだ!

無駄をなくして合理化する作業と国家の追加

3つの役割が仕上がったことで、更にテストプレイを行うことに着手した。その当時は、夏で、ロックダウンが解除されたところだ。だから、物理的なテストプレイも同じく行うことができた。得られたフィードバックは非常に貴重でこのゲームのあらゆる面を改善させるものだった。

ある種、私たちを苦しめた1つのことは、ゲーム中に行き来する大量のリソースがあることだった。当初のアイディアは、それぞれのワーカーに対して、プレイヤーは1つの食料を消費するというものだった。だが、各階級に属するワーカーの数は最初10個で、ゲームが終わる頃には30個近くなり得た。それは、膨大なトークンがボード上にあってらプレイヤーが計算する作業が多いことを意味していた。面倒くさくてトークンの行き来が常にあることは言うまでもない。

物事を単純化するために、人口という概念を導入した。3個のワーカーに1つの人口が対応する。そして、ワーカーに食料を与えなければならない時に、人口1つにつき食料1つが必要となる。こうすることで、劇的にトークンの数を減らしただけでなく、プレイヤーによる追加の戦略を許容することとなった。それは、食料の支払をわずかに減らすために、(特に、衛生を提供することによってワーカーの数を増やせることを考慮しつつ)自分のワーカーの数を"管理"しなければらなくなった。

ゲーム内に人口が加わったことで、さらにいくつかの点を変更することができるようになった。主に、ワーカーをベースとした役割(労働者階級と中産階級)の得点方法だった。その頃、私たちは、既に、社会保障制度の政策を2つの政策に分けていた。1つの政策によって両方のサービス(※衛生と教育)のコストが決定されてしまうのは、あまりに影響が大きかったんだ。そこで、2つの異なる政策を設けた。1つは、公衆衛生のコストを決める政策で、もう1つは、学校教育(public education, ※公教育)のコストを決める。衛生や教育を買ったり消費したりすることで、プレイヤーは得点していくが、そのトラックの動きについてはあまり満足いってなかった。

人口が確立されたことで、新しいことに挑戦した。繁栄という概念を導入したんだ。人口に等しい数の衛生/教育を消費することで、プレイヤーは自分の繁栄を上げることとなる。そして、繁栄が上がれば上がるほど、プレイヤーはより多くの得点を得ることとなる。これを実装する最善の方法は、これまたトラックを用いることだけれども、トラックが同じ場所に全てのリソースを結びつけていき、テーマ的に非常に理に適っていた。最も重要なのは、トラックがプレイヤーに対して進行度合いを示してくれることだった。プレイヤーは(最初にわずかな勝利点を得つつ)ゆっくりとスタートし、ゲームが進行するにつれてどんどんと勝利点を得ていく。テストプレイのフィードバックは、非常に好意的なものだった。だから、メカニズムは維持しつつ、プレイヤーが繁栄を上げるために高級品を消費することができるようにした。唯一付け加えたことは、各ラウンドの最後に、繁栄が1つ下がるということだった。このことで、プレイヤーが絶えず基本的なニーズを提供しようとするのを後押しすることになるので、テーマ的に理に適っていたが、ゲームプレイの観点から、プレイヤーが獲得していた勝利点の割合のバランスを取ることにも役立った。また、前もって計画を立てたり、1ラウンド内で2倍以上に繁栄を上げようとしたりするプレイヤーに報酬を与えることにもなる。

人口の追加によって、税制のほうも単純化された。それ以前は、労働者階級と資本家階級のプレイヤーが、自身が所有する全てのワーカーの数を数えて、それぞれに対して一定量のリソースを消費しなければならなかった。またしても、望んでいた以上の計算量(※という問題)に取り組むことになった。人口を用いることで、通常は3から8までの小さめの数につながり、計算がかなり単純になった。資本家階級に関しては、現在の税制政策とラウンド内で稼いだお金の量に基づいてプレイヤーが支払う必要があるものを決定するテーブルを用意した(それに、学術的な原則にも基づいている。)。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

こういった変更によって、このゲームは素晴らしい形となって、ほとんどの要素がうまくプレイされたようにみえるところに落ち着いた。これは、1つのことを意味していた。つまり、4番目の役割であるところの国家に注目する時だった! 2人プレイ、3人プレイであっても、国家が担う多くのことが自動的にされるので、今回、作業は少し難しくなった。そして、①(テーマ性があって学術的な原則にも基づいている)役割にとって理に適っている、②少人数プレイでは必要不可欠ではない、③最も重要なのは、既に整えた繊細なバランスを壊すことがないといった条件を満たすような、付け加える可能性のある要素とは何があり得るんだろうか。

Varnavas:再び、現実世界における国家の役割とは何か、それをどのようにしてゲームに加えていくかについてブレインストーミングと議論を始めた。その結果、4つのことが明確になった。

  • 国家は、自身の正統性(Legitimacy)を高めようとするものである。つまり、ほかの3つの階級は、国家のアクションを承認して、統治者として受け入れることを意味していた。

  • 国家は、困窮している他のプレイヤーを扶助するために給付金や補助金を与える。

  • 国家は、地震、パンデミック、戦争、失業等の政府が日常的に取り組む重要な問題だけでなく、階級間の争いについても対処する。

  • 国家は、デフォルトとなるのを避ける。

このうち最初の2つを組み合わせて、正統性トラックと呼ばれるものを作った。国家には、ボード上に3つのトラックが設けられ、各トラックは各階級に対応する。国家がそれらの階級の1つを助けることをした際には、それに対応するトラックを1つ進める。トラックが進めば進むほど、国家が得られる得点はより多くなる。だが、このメカニズムは、3つの階級全てについて公平に取り扱う保証をする必要があった。そのために、国家は、最も進んでない2つのトラックに基づいて、ラウンド終了時に得点を得ることとなる。1つの階級だけを後押ししても何ら意味をなさない。国家は、ゲーム内の全ての人たちに対して支援をする必要がある。

既に3つの階級には、給付金、補助金、その他の形の政府の支援が示されたデックがあるので、プレイした時に国家の正統性が上がることを示すシンボルを加えた。もし、2人プレイや3人プレイでゲームをしているのであれば、こういったシンボルは無視してもらう。けれども、もし、国家がゲーム中にいたのであれば、カードをプレイして国家から利益を受けることは、国家の役割となるプレイヤーを支援することも意味した。その上、もう1つの要素を付け加えた。ラウンド終了時に、最も進行していない2つのトラックから得点計算をした後に、それぞれのトラック上の正統性スコアは、半分になる。こうすることで、プレイヤーは絶えず正当性を上げようとするだけでなく、ゲーム中に取り入れることさえしなかった様々な理由で、時が経つにつれて人々は政府を失望する傾向にあるということから、テーマ的にもうまく合致したものとなる。

Vangelis:上記のリストの3つ目の点は、イベントカードを導入することでゲーム内に反映した。これらのカードは、国家が対処する必要がある重要な問題を示している。イベントカードは、国家のプレイヤーが行うべきアクション(通常は、その問題に対処するためにリソースやお金を与えることとなる。)を掲げているが、アクションを取る方法について二、三個の選択肢も提供している。例えば、地震が起こるとしよう。国家は、食料や衛生を労働者階級と中産階級のどちらに与えるだろうか。選択によって、国家は対応する報酬(通常は、正統性が増加する。)を得る。けれども、ラウンドが進行するにつれて、何らのアクションがとられなかったのであれば、国家は人々の期待に応えることができなかったので、国家のプレイヤーに対して正統性に係るペナルティがある。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

Varnavas:とはいえ、国家によってもたらされるこういった支援は、コストがかかる。国家は無限のお金を持っているわけではない。そして、もし、お金が尽きたら、国家の義務(例えば、公共部門への賃金支払)を果たすことができなくなり、デフォルトに陥らざるを得ない。このことは、既にゲーム内に盛り込んでいた要素だが、プレイヤーが国家を運営していくとなると、そのリスクは高まる。もし、国家がデフォルトに陥ったら、3つの階級全ての正統性が、再び半分となる。このことは、プレイヤーの得点にとっては非常に悪いこととなる。

Vangelis:テストプレイは国家を含めて行われ、付け加えた要素はうまく機能していた。あちこちで何個かの点に微修正を加えたが、主要なコンセプトは維持された。最も重要なことは、最新の役割(※国家)は本当に興味深くプレイできて、各ゲーム内で非常に重要な決断が多くなされた。けれども、何よりも素晴らしかったのは、4つの役割全てが異なってプレイされていたことで、私たちは非常に喜ばしかった。得点計算にもそれを見て取ることができる。労働者階級も中産階級は、開始直後から得点を得るところ、最初はゆっくりでゲームが進むにつれてだんだんと増えていく。資本家階級は、最初は、非常に少ない得点で各ラウンドが終了するが、ゲーム終了に近づくと爆発的に得点が増える。他方、国家は、各ラウンドの比較的安定して得点が得られる傾向がある。

最後に残った課題は、全てのバランスが取れていることを確認することだった。簡単な話だよな?

デベロップと更なる微修正

2020年の終わりには、ゲームデザインの大部分を終えていて、残っていた作業は更なるデベロップだった。つまり、大規模なテストプレイとバランス調整となる。通常、その時までにデザインのプロセスに関与していなかった人が、新鮮な視点を提供する新しい目をもって、この作業を行う。私たちの場合には、この種の作業を経験したことがある私の仲の良い友人であるAnastasios Grigoriadisに行ってもらった。それから数か月間は大量の時間を費やし、何度も何度も何度もこのゲームをプレイした。あちこちのカードを微修正し、あり得る最高の体験を探し求めた。彼は、私やVarnavasが慣れきってしまっていたが、確実に変更が必要となることを指摘するのが得意だった。

デザインの終了間際に行ったことの1つは、できる限り、賃金における数値を丸める(round up)ことだった。当初、賃金には、24、28、18等のように様々な価値があった。生産の時にそれらの数値を足し合わせると、計算に少し時間がかかった。この時間を最小限にするために、ほぼ全ての価値を5刻みに変更した。その結果は、大好評だったよ。そしたら、かなり計算が楽になって、覚えておくのも簡単になった。似たようなことを"外国市場への売却"アクションと輸出カードに施した。かつては、それらに関して、各商品/サービスの価値が記載されたカードがあった。資本家階級や中産階級がリソースを売りたかったらいつでも、カード上に記載された数と各リソースを掛け算していた。このことは、またもや、プレイヤーに大量の計算を求めることとなっていたし、賃金の計算よりも一層時間がかかるものだった。実際に、プレイヤーが携帯電話を取り出して電卓として使ったケースもあった。

これに対処するために、輸出カードの機能を変更した。各リソースが何個でも売れるのではなくて、輸出カード上に、各リソースについて2個といった特定の"セット"を設けて、その価値が5刻みになるよう丸める作業を忘れずにした。例えば、プレイヤーは、10個の衛生を所持していた場合には、3個の衛生を20で売却できるし、7個の衛生を50で売却できるし、どちらの取引もすることさえできる。この変更は、プレイヤーにとっても大きな利点(a huge boon)となるもので、みんなの人生をより快適にするものだった!

クレジット: Vangelis Bagiartakis

税制も、さらに合理化されたものだった。その時までは、資本家階級と中産階級が支払う必要のある税金を計算する際に、公衆衛生と教育のコストを決定する2つの社会保障制度の政策を既に考慮に入れていた。しかし、それでもなお私たちが望んでいたものよりも少し複雑だった。よりシンプルでこなれたシステムであればかなり快適になると思っていた。

租税乗数(Tax multiplier)を思いついたのは、その時だった。これは、主に税制によって決定される価値を伴った数値だが、社会保障制度も考慮に入れたものだった。ボード上のどこかでこの価値を確認して、これら3つの政策の1つが変更されたらいつでも、その価値を変更する。そして、税金を支払う時になったら、その数とプレイヤーの企業を掛け算するだけだ。その結果として算出された量は、従来のものにかなり近いものとなったが、計算をかなり簡単なものにすることができた。

最後に行った大きな変更は、資本家階級の得点方法だった。私たちが使っていたメカニズムは非常に筋が通ったものだったが、問題があった。資本家階級のプレイヤーは、最初の数ラウンドはほぼ何も得点せず、三、四ラウンドで少し増えて、(ゲーム終了時の得点も含めて)最終ラウンドで大量の得点が得られる。異なる得点率であることは、必ずしも悪いものではないが、資本家階級で初めてプレイしたプレイヤーは、他のプレイヤーがスコアトラックを前進させるのに自分は取り残されてしまうので、ゲームの最初の数ラウンドで非常に失望を感じているのを見続けた。資本家階級のプレイヤーは、間違ったことをしたがそれが何なのか理解できないような奇妙な感じを覚えていた。他方、他のプレイヤーにとっては、ゲーム全体でリードしていたのに、結局、資本家階級のプレイヤーが最終的に大量の得点を獲得して、勝利を手にするのを見てがっかりさせることとなった。

これに対処する必要があると感じていた。そこで、資本家階級について新たな得点方法を検討した。目標は、より多くの利益に対してより多くの得点をもたらすことだが、(他のプレイヤーと比較して)以前ほどあまり違いが出ないようにすることだった。また、私たちが気づいたもう1つの問題として、資本家階級の得点には本来備わっているべき進歩がないということだった。(繁栄や正統性トラックを増加させることで)他の階級がしていたことは、永続的な効果をもたらすものだった。ゲームが進むにつれて、どんどん得点が上がっていく。資本家階級は、最後に莫大な利益が得られるまでは、各ラウンドでわずかに増加する得点を得る。しかし、その得点数は、本来的に前のラウンドの得点数で左右されるものではない。最終ラウンドで下手なプレイを打って、結果的に、(ゲーム中で既にやってきたことと不釣り合いとなる得点によって)非常に少ない点数になるという可能性が常にがあった。

しばらく考えた後で、富トラックを思い付いた。ラウンドの最後に利益だけを数える代わりに、資本の総合計額を数えることとした。こうすることで、望んでいた進歩がもたらされた。従前のラウンドで多くのお金を稼いだが、直近のラウンドではほとんど稼げなかった場合には、それでも、他の階級での動きのように得点を得ることができる。その上、トラックとマーカーを用いて、与えられた額と得点を示すことによって、望んでいた割合を得るためにそういった必要とされる価値を調整することができた。多くのテストプレイと微修正の後で、満足できるポイントに到達した。資本家階級は、それでも、他の役割と比べて異なる割合で勝利点を得ていた(それに、まだ新規プレイヤーは少し戸惑っていた。)が、以前ほどではなかった。

クレジット: Vangelis Bagiartakis

Varnavas:この間、より一層、学術的な環境にいる人たちにこのゲームを見せる機会が得られた。特に、このゲームが完成形に近づいたことで、彼らは簡単に私たちの展望をわかってくれて、目標についても理解してくれた。そして、あらゆることについて適切に適用されているか確認してくれた。私たちの興奮に対し、彼らはこのゲームの出来栄えに満足してくれて、ほとんど全ての人が、このゲームが学生にとって有意義なツールになると賛同してくれた。

キャンペーンと最後の変更点

デベロップには数か月かかって、ゲームプレイを仕上げつつ、私はこのゲームのKickstarterのキャンペーンも手掛けていた。良かった点は、Tabletopia(※ユーザが仮想の卓上でボードゲームをプレイできるオンラインプラットフォーム)上に既にゲーム全体をアップしていて、テストプレイの必要性のために稼働させていたので、簡単に公開することができてより更に多くのフィードバックを得られたことだった。まさにこれを実行したさ!

ゲームのルールブックをアップロードして、Tabletopiaのリンクを公開した。支援者はこのゲームがどんなテーマかがわかるようになり、気にいるようなゲームかを判断できるようになった。実際にそうなったんだよね! 結果として、多くのフィードバックを得られた。これらは私たちにとって超重要なことだった。同じ時期に、多くのYouTuberがプロトタイプを得てゲームをプレイして、キャンペーンのためにプレビュービデオを作成してくれた。(このゲームがとても楽しいものであったということは除いて)受け取ったフィードバックの中で最もよくあったものは、このゲームが非常に時間がかかるというものだった。このゲームをデザインしている間に気づいていたことだったが、しばらくすると当然のように思ってしまっていた。さらに、デザインの終わりに行っていたテストプレイヤーのほとんどは、経験豊かなプレイヤーだった。そのため、初めてプレイする人と比較して、プレイ時間が大幅に減っていた。しかし、この点に関する多くのコメントを目にした今では、それを検討して何かできることはないか探求することとした。

Vangelis:その頃、このゲームは5ラウンド制で、各ラウンドには6手番があった。当初、ラウンドを5から4に減らすことを検討した。数回テストプレイをして、その結果は期待できるものだった。しかしながら、このゲームのいくつかの側面が、私たちが望んでいたほど発揮されないことが明らかだった。例えば、1ラウンド少ないことで、政策を変更する機会が少なくなり、その変更に伴う効果を見る機会が少なくなった。また、このゲームの経済は、部分的に、合計で5ラウンドあることが前提となって構築されていた。1ラウンド削るということは、多くの要素が影響を受けることとなり、他のものよりも大きな影響を受けるものもあった。

別の解決策を提案されたのはその時だった。1ラウンドを削る代わりに、各ラウンドの手番数を1つ削るのはどうか? 手番数の合計はほとんど同じだが(24手番ではなく25手番となる。)、否定的な要素は見当たらない。それを試してみて、非常にうまくプレイできた。しかし、役割の中に、他の役割よりも大きな影響を受けているものがあることに気付いた。例えば、国家は、かなり強くなっていた。プレイヤーは、ある程度まで改善されたように思われて、以前よりもプレッシャーを大きく感じた。しかし、他の役割についてみると、明らかに弱くなっていた。具体的には、最も打撃を受けた役割は労働者階級だった。その理由を理解しようとして、カード全てと勝利点の獲得方法をを深く探求した。よりテンポの速いゲーム(そして、ゲーム中の合計アクション数が少なくなったゲーム)に対応するためには、いくつかのカード効果の力を強める必要があることがわかった。テストを何回か行って、その結果、正しい方向性であることを示すことができた。

これがゲーム内における最後の大きな変更だった。あちこちに数個以上手を加えた後、望んでいた状態にたどり着いた。このゲームはうまく遊ばれて、合理化されていて、バランスも取れていて、良いフィードバックを得ていた。つまり、ついに目標に到達したってことだ!

クレジット: Vangelis Bagiartakis

Varnavas:私たちがこのゲームに注いだ2年以上もの間、ほかの多くのことも起こったけれども、これらがおそらく最も重要な点だった。このプロジェクトは、大変な挑戦だった。当初、ある程度まではそれに気づかなかったが、なんとかしてうまくやり遂げたと思うね。このゲームは、現在、支援者に届くところで、やがて地元のお店にも入手可能となる。みんなが私たちの長い旅路を面白いなと思ってくれることを願うし、このゲームを試す機会があったら、みんなの考えを聞けるのを楽しみにしているよ。

ここまで読んでくれてありがとう! このデザインプロセスに関して質問があれば、喜んでコメント欄でお答えするさ!

VangelisとVarnavas

以上

※デザイナー・ダイアリーとしては、ほかに以下のものがある。

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