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4才と遊べるボードゲーム「リスのタルトやさん」を作った記録

娘(4)と遊べる "ボードゲームらしい" ボードゲームが欲しい…!

というわけで、作りました。

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リスのタルトやさん / ゲームマーケット2019春で発売


・当時4さい
・年明けからボードゲームを遊び始める

父(著者)
・30さい
・去年からボードゲームを作り始める

これはその制作記録です。

コンセプト

自分の中で、ボードゲームらしいボードゲームとしてまず思い浮かんだのは、ワーカープレイスメントでした。ワーカープレイスメントとは、各プレイヤーがワーカーと呼ばれる駒を複数所持し、順番にその駒を、複数あるアクションエリアのひとつに配置していくことで、何かを獲得したり、行動したりして、ゲームが進行していくタイプのゲームです。置ける駒の数に制限があったり、置いた駒の数で獲得できるリソースの量が変わったりするというルールが入っているのが一般的で、これによって、ただ駒を置くだけなのに、「どこに置くか」「何個置くか」といった悩みが生まれます。また、他のプレイヤーとのアクションエリアの取り合いというインタラクションも自然と生まれます。

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代表的な作品は「ストーンエイジ」や「アグリコラ」です。初めてこれらのゲームをプレイした時は、駒を置くだけなのにこんなにもドラマが生まれるものかと感動したものです。この面白さを子供と共有したかったのですが、未就学児がプレイするにはルールが複雑で、プレイ時間も長いものばかりでした。これはもう、自分で作るしかないと思ったのです。

ワーカープレイスメントは UI として優れている面があります。それは、「やることが全て駒を置くという行為に集約されている」という点です。結局のところ、自分の番が来たら、置ける場所に駒を置けば良いのです。これは単純明快です。あとは、置ける候補の中かからどこに置くか、という選択が生じるだけです。このシンプルさは、子供が遊べるゲームを作る上で、すごくポテンシャルがあると感じていました。

そういうわけで、「4才から遊べるワーカープレイスメント」を今回のコンセプトにすることにしました。

4才の能力

このゲームを作ろうとしていた頃、娘がよく遊んでいたゲームは「レシピ」「ネコとネズミの大レース」「ナンジャモンジャ」などでした。行動を観察するに、以下のような概念は問題なく理解できるようでした。

・勝ち負けの概念(勝敗)
・ひとりずつ順番に行動をする(手番)
・提示された目標に向かって要素を集める(セットコレクション)
・ダイスを振った結果によって行動する(数える)
・提示された選択肢からひとつ選ぶ(選択)
・条件によって行動を変える(条件分岐)

一方、以下のようなものは難しそうでした。

・複数の目標のうちどれかを目指す(計画)
・足し算や引き算をしなければならない要素(計算)
・最善手を考えて行動する(リスクとリターン)

これを踏まえて、次の三つを達成するよう、ルールを考えていくことにしました。

1. とことん視覚的に分かるようにする
2. とことん計算をなくす
3. 子供でも勝てるようにする

視覚的に分かるようにする

全体として、「視覚的に分かる」ものは理解しやすいようでした。例えば、「何かを集める」という場合でも、自分が持っているカードに書いてあるフルーツを集める、というように、目の前に明確に目標が見えていれば、特に説明なく理解できます。しかし、麻雀の役のように、自分の頭の中で、集めるものをイメージしなければならないとなると、途端に分からなくなってしまいます。勝利までの道のりが、目で見えるようにすることが大事だと感じました。

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そこで、ゲームの全ての要素が、視覚的にわかりやすい形になるように組み立てました。このゲームは、抽象的な言い方をすれば、ワーカーを動かしてリソースを獲得し、リソースを勝利点に変換するゲームです。これに、次のようなスキンをあてはめました。

・ワーカー → リス
・リソース → フルーツ
・勝利点 → タルト

こうすると、リスを動かしてフルーツを獲得し、フルーツを使ってタルトを焼くゲームと言い換えることができます。この時点で、全て子供が理解できる要素で骨格が出来ていますし、流れも自然です。

次に、「ゴールや判断材料が全て目に見えている」ことを意識しました。例えば、獲得可能なフルーツは、全て「物理的にそこにある」ようにすることで、「そこにリスを置けば、それが貰えるんだな」ということが感覚的に理解できるようにしました。そのため、袋からフルーツ駒を取り出し、木のタイルの上に置く(木に実っているように見える)ことにしました。

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また、タルトを焼くのに必要なフルーツは全てタルトのタイルそのものに描かれています。自分の手元にあるフルーツと照合して、すぐに足りているか、足りていないかが分かるようにしました。焼けるタルトは常に場にオープンになっているので、それを見ながら、どのフルーツを集めようか、と考えることが出来ます。

計算をなくす

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4才はまだ足し算と引き算が出来ませんから、全て「数を数える」だけでなんとかなるルールだけで構成しました。一番分かりやすいのは、勝利条件を「タルトを3枚焼いたら勝ち」としたことです。一般的にリソースを勝利点に変換するタイプのゲームでは、変換元のリソースに応じて、点数が異なります。例えばイチゴを沢山使ったタルトは点数が高い、みたいなことです。そうするとリソースに価値の差が生まれ、ゲームにも深みが出るのですが、自分が今何点なのか?を計算する必要が出てきてしまいます。そこで、思い切ってそこを省き、視覚的にも明示的に分か李やすい、「タルトの枚数」のみを使うことにしました。

ワーカープレイスメントの深みを増す要素として、拡大再生産やフードサプライも一般的なのですが、どれも計算が必要な上、プレイ時間が長くなるので入れないことにしました。

一方で、計算をせずとも、深みを増すための要素をいくつか考えて入れました。

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まずは、ワーカーを、大きいリスと、小さいリスの2種類用意したことです。大きいリスは木の全てのフルーツを貰え、小さいリスは1個だけのフルーツを貰えます。ワーカープレイスメントゲーとしては、「まずどこに置くか」という悩みを生みたかったので、「1人2回置くチャンスがある」というのは必須でした。しかし、2つのワーカーがどちらも「全部取れる」だと、フルーツが取れすぎてしまうし、「1個だけ取れる」だと、(あまり他人の邪魔にならないので)他の人とのインタラクションが薄くなってしまいます。そこで、この2種類をミックスすることで、良い感じのバランスになりました。大きいリスは全部、小さいリスは1個、というのは、視覚的にも分かりやすく、親子感が出て雰囲気も良くなりました。

次に、フルーツを最低2個実るようにしたことです。1個ずつだと、バラけ方の振れ幅が狭く、「欲しい」「欲しくない」の幅があまり出ません。「どこを取りに行くか」は一番悩んで欲しいところなので、バリエーションが必要でした。また、「取られなかったところはフルーツが追加されていく」というのも同じ理由です。価値が低かった場所はだんだんお得になるようにして、新陳代謝を促すというのもあります。これは、アグリコラで取られなかったリソースが増えるのを見た時の驚きと感動から入れました。

最後に、タルトを焼くにはタルト生地が1つ必要、としたことです。この要素が無かった時は、タルトを自由に焼け過ぎる感がありました。そこのストッパーとしての意味と、狙いがバラけた時でも、必ず狙いが被る要素を入れることで、最低限のインタラクションを保証する意味合いがありました。これはその後、子供と実際にプレイして分かったことですが、生地はゲーム中3枚集めれば十分なので、「先に集めとくか」「いや、後で集めれば良いか」といった、薄い計画性を考えさせる要素としても機能しているようです。

子供でも勝てるようにする

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子供と大人が何度も一緒に遊ぶことを想定して作っていたので、これは絶対でした。つまり、考えどころや判断する要素はあるけれども、運の要素を強くする、ということです。実力に寄せると、スキル差が出て子供は勝てなくなってしまいます。最善手を考えて行動する、というような力は未熟であり、しかも、そういうのを無視して、「自分が好きだから」というような理由で自分の手を決めることがあります(例えばイチゴが好きだからイチゴを取る)。そういったプレイも許容する緩さが必要でした。

このゲームでは、何のフルーツが出るかと、何のタルトが出るかがランダムで、狙ったものが作れるかは、結局のところ、そこの引きに掛かっています。そういうわけで、相当変なプレイをしなければ、子供でも、大人より先にタルトが焼けて、達成感を味わえる、というシチュエーションがあり得ます。(実際、子供に何度も負けました)

しかしながら、木に実るフルーツのバリエーションや、親子リスなど、プレイヤーが選択して決めてる感を損なわないようにする要素を入れているので、何じゃこの運ゲー!と言われたことは今のところありません。程よいバランスになっているのではないかと思います。

妻からは「手を抜かなくて良いから面白い」との評を得ています。

手に取ってもらうために

そんなこんなで、良いゲームが出来たんです。自分で言うのもアレですが、子供とゲームする機会があるのであれば本当にオススメです。

しかし、ボードゲームはルールが出来ただけでは完成ではありません。このゲームを求めているであろう人々にしっかりと届くように、その他の部分もこだわりました。

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リスとフルーツは絶対に木製品にしようと思っていました。同じものでも、紙で作られたバージョンと木で作られたバージョンがあったら、やはり木の方を買いたくなるのが人の性です。ボードゲームの駒のデザインの文脈を踏襲しつつ、可愛らしく想像力を掻き立てられるようなシルエットを意識して作りました。思わず触りたくなるような仕上がりになったと思います。木製品は、このゲームのためだけに中国の工場に依頼して生産しました。子供でも扱いやすいよう、大きめにしてあります。木製品の方が耐久性も高くなります。

タルトのタイルは、実際にタルトの形になるよう、型抜きを依頼して作ってもらいました。手元に来た時に嬉しい、を意識しました。

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コンポーネントの抽象度が少し高いので、世界観や賑やかさ、楽しさといった雰囲気を補うため、パッケージはイラストにしました。絵本のように、気に入って何度も遊んでもらいたいという願いを込めて「絵本の表紙のようなイラスト」というオーダーをして、いずみだひろこさんにお願いしたところ、素晴らしいものを仕上げて下さいました。

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これは色々なところで言ってるのですが、ここまで来てもボードゲームは完成ではありません。製品としては50%ぐらいしか出来てないと言っても過言ではありません。一番大事なのは説明書なんです。買ってくださった方が説明書を読んで、こちらが想定したゲームを再現できないと、他がどれだけ良くても0点です。しかも今回は、子供もプレイヤーとして想定していたので、「全て平仮名とカタカナで記述する」「イラストを可能な限り入れる」ことを必須としました。かなり難易度が高かったですが、とても品質の高い説明書になっていると思います。

ゲームマーケットで発売…そしてその後

こうして出来た「リスのタルトやさん」は、ゲームマーケット2019春で発売しました。家族連れの方が、多く手に取って下さったのが嬉しかったです。ゲムマ後にSNSを見ていると、ファミリー向けのゲーム会や、家族で夜寝る前にプレイされるなど、楽しんで遊ばれている様子が伝わってきて、安心しました。さらに、「子供からリクエストされる」とか「毎晩やってる」などの感想も上がってきました。「子供がもう一度遊びたがる」というのは、言葉で言われるどんな「面白い」よりも絶大なる信頼が寄せられる「面白い」の証です。本当に嬉しかったです。

テストプレイにたくさん付き合ってくれた娘も、たまに「リスやろ〜」と言って遊んでくれます(そして娘が勝つ)。

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現在は、Amazonヨドバシカメラすごろくや、などで販売しています。このゲームを気に入ってくれる、一人でも多くの人に届けば嬉しいです。なお娘からは、定期的に「お父さん、リス売れてる〜?」と純粋な眼差しで質問されるので、自信を持って「売れてるよ!」と言える日が来ることを願ってます。


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