見出し画像

雨の匂い。


 朝目覚ましなしに8時前に起きた。2度目しても良かったのだけど、泊まっているホステルの目の前に湖があったのを思い出し散歩でもちょっとしようかなと思った。
ベルリンを後にして1年前まで住んでいたデンマークに来て2泊目が過ぎた。寝る前と起きた時に毎日自分はもうここに住んでいるひとではない、日本に帰るのだという実感が湧いてきている。寂しくないといえば嘘になるが、寂しいと認めてしまうと前に進みたくなくなりそうなので、今はちょっとだけ気持ちに蓋をしてみる。


ホステルの部屋は狭くカーテンが閉じられていて外の様子がわからかったが外に降りると雨が降った様子がある。
急に入り込んできた匂いに懐かしさを感じた。

雨の匂い。
なんだがすごく懐かしい気持ちに包まれた。
でもどこからきた懐かしさなのかがわからない。デンマークの冬の匂いなのかもしれない。でも日本の雨の匂いとも似ているような気もした。
ただ無性に懐かしさが体に走った。

ベルリンも雨が多い街だったのにしばらくこの匂いを感じなかった気がするのはなんでなのかと考えたりする。


少し歩いてみた。
雨は止んでいるものの、暗い。
気温はそれほど低くないものの冬を感じた。暗い長い冬が目の前まできているのだ。
コーヒーを飲みたくて、近くの知っているカフェまで歩いてみた。
自転車がよく通る。8時半。デンマークの通勤ラッシュは電車じゃなくて自転車で起きる。


カフェに着くと、まだ8時半だというのに賑わっていた。外の暗さとお店の中から感じる結露の湿気と反して人々からはエネルギーを感じる。

テイクアウトしていく人たちも多いが、カップルや友達同士らしき人たちも結構多い。朝から元気に笑いながら話している。
はっとなった。「あれ?ベルリンでこんなに笑っている人朝から見かけるもんだっけ?」

どうしても思い出せない。そもそも自分がこんな朝早くにカフェに行ったことがないのかもしれない。よく行ってたカフェは10時から開店で、一人で作業している人の方が多かったように思える。大体今日は月曜日だ。


みんなが暗さになんてへこたれないぞとあえて人と集い話をしてエネルギーを生み出しているように感じた。


1年住んでいたデンマーク。街が小さいのもあって大体のものがどこにあるのか地図を見なくともわかるのに、こうして半年ぶりに来ると新しい一面をみれるのだと思うと急に面白くなった。いや、ベルリンに1年住んだからこそ、より2都市の個性が鮮明にわかるようになったのかもしれない。

帰国2日前にこんな発見があるとは。
少し前に海外に住むことは毎日フィールドワークすることだなと思ったことを思い出した。
その国や都市の当たり前は何で、何を買い、どこへ行き、どう生活するのかをじっくりみてその真似をすることで、その土地の人に馴染んでいく。ひとりひとりの行動は違うのだけど、全体として「文化」がどの土地にもある。

死ぬまでにあと2カ国ぐらいは住んでみたいな

急にそんなことを思った。その土地の人なりの考えや習慣があってその上で行われていることを知ることは世界を開いてくれる。


と、同時にやはり寂しさが込み上げてくる。やはり自分はこの土地が好きだなと思えば思うほど恋しくなってしまう。

「大丈夫、いつか私はここに戻ってこれる」と言い聞かせる。
簡単じゃないことはわかっているけれど。言い聞かせることしか自分にはできない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?