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悪態吐く、旅は続く。 2024.04.03 湘南ベルマーレvs東京ヴェルディ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ


■試合の振り返り

 四月の冷たい雨が降る水曜日の夜、平塚でキックオフ。湘南は土曜日にアウェイにてセレッソ大阪戦を戦って中3日、対するヴェルディは金曜日にホームで京都サンガ戦を戦って中4日で迎えるミッドウィークの第6節。
 ともにスターティングメンバーを前節から複数名入れ替え。湘南は大岩、杉岡、茨田、鈴木章斗が外れ、岡本、奥野、畑、福田がスターターに入る。ヴェルディは松橋、翁長、山田剛綺が外れ、稲見、木村、山田楓喜がメンバー入りした。なお木村、山田楓喜は京都戦を契約の都合(京都からのレンタル移籍のため)で出場していない。

 試合の序盤にペースを握ったのは湘南。DFラインに入った鈴木雄斗、田中聡を起点にパスを繋ぎ、ヴェルディゴールへ迫る。すると15分、平岡の素晴らしいスルーパスに抜け出したルキアンが、GKマテウスとの1vs1を制してゴールへ流し込み湘南が先制。その後はヴェルディもビルドアップから湘南陣内に侵入するが、決定的なシュートは打てず。1-0と湘南リードで前半を折り返す。
 前半終了間際の接触で負傷した森田は、ハーフタイムで山見と交代。左サイドの見木が中央に入り、山見は左サイドでの出場。

 後半立ち上がりでもチャンスを作ったのは湘南。49分、ハーフウェーライン付近でのフリーキック、浮き球をルキアンが逸らして岡本がワンタッチで低いクロス。福田が右足で合わせるが枠を外れてしまう。53分は福田がヴェルディのパスをカット。ルキアンを経由して左サイドを抜け出した平岡に繋ぐと、左足でファーサイドへクロスを上げ走り込んだのは池田。しかしシュートはヴェルディ守備陣のブロックにあいゴールならず。
 湘南がペースを握りながらも追加点を奪えずにいると、ヴェルディが反撃に出る。75分、湘南陣内浅めの位置からのフリーキック。密集地を越えて左サイドのボックス脇にボールを届けると、受け取ったのは途中出場の山見。いくつか切り返して相手を揺さぶってから右足でクロス、中で待っていた谷口でヘディングで合わせて同点ゴールを挙げた。
 そして86分、湘南陣内に押し込んだヴェルディはカウンターに出ようとした湘南のボールを奪うと、左サイド深くに走った山見と齋藤のパス交換で湘南守備陣を突破。カットインした山見が右足を振り抜くと、ボールはサイドネットに突き刺さった。ヴェルディが試合終了間際に逆転する。

 試合はそのまま1-2で終了。ヴェルディが16年ぶりにJ1で勝利を挙げた。


■何を目指したスタメンなのか?

 キックオフ2時間前にスターティングメンバーを見た際、どういった並びで試合に臨むのかわからず、筆者を含めたサポーターは混乱していた。蓋を開けてみれば田中聡と鈴木雄斗をDFラインに置く見慣れた5-3-2システムではあったのだが、この試合で目指していたゲームプランは過去5試合とは違っていたように思う。

 前節セレッソ戦のレビューにて「湘南が上手く試合を運べている展開=狙った形でボールを奪っている」という筆者の個人的な理解を記したが、この試合で湘南が目指していたのはボールを保持する形で相手を上回ることと思われる。つまり相手からボールを奪うことに力点を置くのではなく、自分たちがボールを握ることに力を入れるプランを策定していたのではないだろうか。プランが先にあって選手を当てはめたというよりは、週末の広島戦まで考慮した上でヴェルディ戦に起用できる選手をピックアップした結果、この選手たちであればボール保持に力を入れて戦った方が勝率が高い、とスタッフ陣は判断したのだろう。
 具体的に言えばベテランCBの中3日回避(大岩)や発表のない負傷やコンディション不良など(舘や大野、髙橋?)を考慮した上で、DFラインに起用できそうだったのが田中と鈴木雄斗だったのかもしれない。またプレッシングを基調としたサッカーは選手への負担が大きいためキックオフ時点でクオリティ低下が予想されたのもあり、ボール保持の時間を長くしてスタミナ面を補う狙いもあったのだろう。

 その狙いはピッチの上でも伺えた。前半の立ち上がり、自陣深くでボールを持った湘南。田中はタッチライン際まで開いて高い位置を取り、ミンテと雄斗もペナルティエリア幅まで距離をとって立ち位置を決めた。同じシステムで臨んだ浦和戦や福岡戦では見られなかった動きである。

 ヴェルディのプレッシングは2トップに右SH山田が加わる形が多く、この試合でもDFライン3枚に対して2FW+1SHで人数を合わせようとしていた。また山田の列を上げることで、ボールを奪った際によりゴールに近く危険な位置に配置しておく意図もあるのだろう。
 しかし田中が高い位置を取ったことで山田は列を上げてマークを外すわけにはいかず、2トップだけでプレスを行うことに。その結果ボムグンと奥野を含めた4枚vs2トップの数的有利な状況が完成。ここから奥野経由で相手守備陣を崩す…というシーンはなかったが、フリーのボムグンが送ったフィードを福田が頭で落とし、平岡のスルーパスをルキアンが決めて先制ゴールを奪った。準備してきた形から早い時間に先制点を挙げるという、この上ない展開で試合に入ることができていたのである。

田中の位置取りによってヴェルディのプレスを牽制した。

 その後はヴェルディも森田や稲見、見木が縦にスライドして2トップに加勢、ボムグンは得点シーンほど時間をもらえることは無くなった。しかしスライドによって生まれるズレやスペースを利用してヴェルディ陣内への侵入に成功。繰り返し相手ゴールに迫るシーンを作った。

 しかしながらヴェルディも昨シーズンはボール保持でも相手を上回ってきたチームであり、前半のうちに湘南守備陣の穴を見つけていた。周囲の状況から的確なパスを出せる谷口を起点にして、池田の背後のスペースを染野が利用。20分には谷口がドリブルで湘南の選手を引きつけ、降りてきた染野にパスを通してチャンスを作る。26分にも似たような形で雄斗が引っ張られてできたミンテとのギャップに染野が走り込む。試合を通じて降りる染野を捕まえきれず、起点となる谷口からパスを通されてしまっていたのが押し込まれた原因だろう。幅を取った深澤によって湘南は選手間の距離が開いてしまっていたこともまた理由のひとつである。

谷口から染野に通されてしまう図

 だが湘南は空いたスペースとそこへ至る道を塞ぐ術を持っていなかった。福田は前半のうちにイエローカードをもらってしまったのもあり谷口へ強く当たれなくなってしまっていたし、池田は連戦の影響か自身の背後を消しきれない直線的なアプローチが目立っていた。あるいはいつもであればアンカーの田中がパスの受け手を捕まえている認識だったのかもしれないが、この日のアンカーは奥野。フィジカルで無理が効くタイプではないため、雨天というコンディションを含めても厳しいものがあった。その田中も前半でイエローをもらっていたし、なんならいつ退場になってもおかしくないプレーぶりだったためよりファールが増えそうな中盤への配置変更も現実的でない。ベンチにいる茨田と奥野の2ボランチにするくらいが打てる手としての限界だったか(だが2ボランチで後ろが重たくなるのも…)。

 結果として谷口は圧力を感じることなく前向きにプレーでき、タイミングを合わせて降りてくる染野へ的確にパスを通すことができた。後半に入るとヴェルディは谷口をビルドアップの出口として設定していたようにも見え、湘南としてはボールの配球役か受け手役を抑えたかったところだが、イエローカードの枚数&選手層的に対応策がなかった、という状況である。


 そしてハーフタイムで森田が負傷交代となったのも、ヴェルディの意思決定を加速させた。染野が見つけたスペースは左サイドにあり、ちょうどその左サイドからカットインで決定的な仕事ができるウインガーである山見がベンチに控える。前半のうちに谷口・深澤・染野の3人が見つけた空間を山見が最大限活用し、1ゴール1アシストという輝かしい記録を残した。


■価値のない敗戦か?

 平日の夜、雨天の中声援を送り続けたサポーターにとっては最悪の試合結果であるし、厳しい声をかける気持ちも十分に理解できる。それに値するだけの内容だったとも言えるだろう。

 しかし、選手・監督・スタッフ陣が目指したのはこれまでの課題を克服しての勝利だった。つまりボールを保持して自分たちで試合をコントロールした上で、勝利を目指すプランで試合に臨んでいたと筆者は考える。もちろん結果は最悪であるし、姿勢がよければ批判されるべきではないというつもりもない。だが準備してきた形のボール保持から得点も挙げ、前半の試合内容から見ても一定の成果は挙げられたと考えても良いはずだ。ベンチを含めチームの最大出力を出せる時間が70分前後、というのは残念だが。
 今シーズンはチーム数が増えたため、今節のようなミッドウィーク開催が複数回ある。したがって疲労が溜まった中での試合が見込まれるわけで、ある程度自分たちで90分間の試合展開をコントロールできないと厳しくなるのは想像に容易い。それを見据えてチャレンジしたのであれば、何が出来てどこに課題があったのか、をすくいあげられれば、この敗戦にも価値が出る。
 また順調に追加点も挙げて試合に勝利することができていたら、課題とされていたボール保持に取り組んで勝利を挙げた、というチームの自信に繋がる。実際にはそれは儚い夢と終わったわけだが、チームを成長させるための試合とするのは理解できる。

 この試合でそのチャレンジをする必要があったのか、別の方法でボール保持を目指せたのではないか、保持ではなく別のゲームプランの方が適切だったのでは、という議論は当然成立する。それは◯◯を起用すべきでなかった、▲▲を起用すべきだった、という話ではなく、「この試合を湘南はどのように戦うべきだったのか?」という議論である。いつもと同じように?それとも今後を見据えて? どの選手を起用すべきだったのか、監督の責任があるのかどうかは、その後の話になるはずだ。


年度始めの最初の週、次の試合まであと3日がんばりましょう。それでは。 


試合結果
J1リーグ第6節
湘南ベルマーレ 1-2 東京ヴェルディ

湘南  :ルキアン(15')
東京V:谷口(75')、山見(86')

主審 高崎 航地

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