ショートショート人狼・感想編

どうもこんばんは。杜塚/オオツカです。
先日のショートショート人狼、参加者のみなさんお疲れさまでした。
当日は欠席だったので、全作品の感想をつらつら書いていこうと思います。
「感想編」は文字通り感想を、「解答編」では作者当てとその理由を書いていくよ。各感想の字数は1ツイート準拠。
最初はふつうにツイッターでやろうとしたんですが52連投はテロなのでやめました。

あと、ネタバレ回避のために自分自身のものにも感想を付けてます。「解答編」にはそのような配慮がないので、作者当てをやってない人がもしいたら「解答編」読まないようにするとよい。

それでは行きましょう。




溶けた体温/白装束
寂しさや孤独を否定も肯定もしない、淡々とした語り口が好きです。私の声は、その実男には一切聞こえないのでしょう。その意味で、両者は繋がっていないし、でもどこかでは繋がっている。結論に明確な意味を持たせず、読み手にふわっとボールを投げる感じもいいなあ。不思議な余韻が残ります。



百舌鳥の早贄
森、暗がり、夜、百舌鳥、靴の音。不穏な空気がじんわり充満していくところで、視点がさっと切り替わるのがよいです。隠微なものに対して惹かれる心持ちを隠さず、欲求自体の是非を一切問題としない語りには、薄暗く視界の悪いムードとは別に、ある種の突き抜けた感覚があると思う。



今日のニュースです。11月●日未明…/眠い人
文章はややこなれていない印象があるものの、ショートショートらしい仕掛けをきちんと組み込んだチャレンジングな作品という感じ。 読み返すことで全貌が把握できるつくりになっているところがとても好きです。文章の仕掛けについては、時制を整理するとよりインパクトが強くなると思います。



木憶/秋生落
秋という季節の豊かな色彩を反映させた描写、記憶を辿りながら現在に近付いていく構成、最後のまとめ方、そして文章が「どう見えるか」を意識したレイアウトの作り方、全ての点で完成度が高いと思います。最後は色々な解釈があるな、と思いながら読後しばらく考えていました。



ひとひら/ほだか はるき
文章の余白がそのまま会話の余白、間合いとなっていて、読み手に登場人物の呼吸と距離感を感じさせる作りになっているところが上手いと思います。一つだけある音の描写、「車輪に紅葉が潰される音」がとても効果的で、無音の閉じた世界、隔絶された時間を感じさせるのがとても切ない。



美味しいカレーの作り方/森 このみ
由緒正しいショートショートの作法に則った作品。多弁で過剰さを感じさせる2人の語りがオチを効果的なものにしていると感じます。アイデア自体はしばしば見られるものであることが、文章の切れ味とまとめ方の上手さをかえって際立たせているようにも思える。予測可能回避不能という感じで好き。



11月/6900seeyou
読み進めていて、「神」ってそっちかよ……と思わず脱力する。するところから、最後は腕力で無理やり壮大なところに落としていく、というこのフランケンシュタイン感。よいと思います。まとまらない語りは考えようによってはサリンジャーっぽ……くはないな別に。やはりガチャは悪い文明!!



11人ぐらいいる!/オハギモト フユキ
わちゃわちゃ感がとても楽しい作品。最初はシリアスに始まり、徐々に様子がおかしくなって全裸が出てきて、状況が更に転換した後に最後のオチがある、という起承転結がはっきりしているのがとてもよいです。最後まで読むと、途中のグダグダにも明確な意味があるのが分かる、という構成が巧み。



ゴコクホージョー
すごく実際にありそうな話で、ふたりが会話しているところが目に浮かぶ、シンプルで読みやすい文体がよいです。実体験ベースのお話なのかもしれない。文章を書く基本的な力の高さを感じさせて、最後までするすると読めるんだけど、それだけにオチにもう1回くらいひねりがあると更に良くなるような気もします。



11月/久堂ひばり
体温低めのラブレター。そんな感じの小品でした。一つのストーリーというより、これ自体が(現在、過去を問わず)誰かに宛てられた手紙のように思える。語り手の、少し気取った言葉を選ぼうとしている感じ、背伸びをしようとしている感じと気怠げな感じの対比がうまく文章に表れているところがよいのです。


十一月の幸福論/音倉愛那
起承転結と現在ー過去ー未来ー現在を対応させる、という非常にかっちりした構成の作品。意図するところはとてもよく伝わります。ただ、ちょっと構成を守る意識が強すぎて窮屈に感じられるところもあるなあ、という印象。文の運びに感じる硬軟の使い分け、特に擬音語や擬態語の使い方は好き。



ここから/書き人知らず
題材の扱い方、文体から感じられる優しさと柔らかさがとても魅力的な作品。こういう感じの話はシニカルな展開になることも少なくない気がしますがそれはせず、あくまでも柔らかさと祝福に焦点が当てられているのもよいと思います。A子のパートが特に好き。



獅子の流星/或る風土記研究者
唯一のファンタジーもの。それに相応しい、堂々とした文体がとてもよい。こんなに固有名詞が多い文章を流れるように書き下してゆくのはかなりのものだと思います。ただ、テーマと思われる二面性や両義性は明確に伝わるけれど、これほど文章の完成度が高いと最後に全体をまとめるもう一文がほしい……ちょっと贅沢なリクエストですが。



おふとん独占禁止法/月 古二
まずタイトルがいい。タイトル決めた時点で七割勝ちだと思う。どこかとぼけた、間合いを敢えて外すような文章に乗せて事態がしめやかに進行し、最後に綺麗なオチが付く。ショートショートの楽しさをしっかり表現した作品だと思います。純粋に面白い。MOFuみたいな小ネタのセンスも鋭いです。



今年の秋/西垣 作
これもショートショートっぽさをしっかり意識して作られた作品だと思います。52,938日≒145年、ということでこの国の「国民」とは一体どういう存在なのか、そもそもこの国とは、みたいな謎が最後に残る余韻もいいなあ。その辺りの謎の一端を解き明かすワンフレーズがあってもよいかもしれない。



ひと目で尋常でない秋と見抜いたよ/永遠のごちうさ難民
ひたすら飯テロされて、オチはまだかと待ち続けていたらそれもなく、結果高純度の飯テロだけをノーガードで食らってしまう、という掟破りの作品。出てくる料理がとにかく全部美味しそうでやばい。それだけと言えばそれだけなんですが、ただただ上手そうな料理の描写にやられる。これはお手上げでしょう。夜中に読むのはよくない。



生きてる味噌はいつ死ぬのか
総合的には全作品中の一席。よく分からない発想のスタート地点、仕込まれたネタの豊富さ、真顔でかますツッコミ不在の全力ボケ、そして最後は謎に力強いメッセージと共に宇宙に至る。何もかもが完璧すぎでは。「ひとりの非常に背の低い青年」とか最高だと思います。
これは多くの人に読まれるべき。



そう思うのなら、そう言えばいい/すばる
人狼をテーマとした作品は意外にもこれだけ。練られた構成の中で、上手く使われたタイトルのフレーズが光ります。人狼ゲームにおける「狂人」とはどんな存在なのか、に対する完全な解答のひとつでしょう。母娘はきっと復讐者になる、それゆえ「解放された? そう思うのなら、そう言えばいい」。この終わり方が美しい。



終末ライター
縷々繰り出されるしょうもないやりとりと、そのテンポの良さがたのしい作品。地の文のツッコミの角度がとても好きだし、下ネタを下品にならずに面白く料理するのもいい。こういうのはセンスがないとできない、と思います。やたら軽く、ややとっ散らかった文体もこの作品のムードとよく合ってますね。



くだらない賛辞/四路 道九里
二席。前半の淫靡な水音響く光のない空気から、一転して実にくだらないオチに。この転換が素晴らしい。描写の緻密さが、この落差と発想のくだらなさを効果的に見せていると思います。
ショートショートの肝はパラダイムシフトだと思いますが、それを今回最も上手く実現しているのはこの作品でしょう。



マーチ/ロシナンテやしろ
一度読み通して「……?」となり、二度読んで「……?!」となり、タイトルを見て「……!!」となる、というわけで見事に作者の掌の上で踊らされたやつです。今回のテーマをこう料理するのか、という驚きがあります。特に何かが起こるわけではない話なだけに、その分切れ味の鋭さが印象に残りました。



白と黒の間
とてもロマンティックな作品。二人の間にある感性のズレが、逆に二人の関係のこれからを祝福しているかのように思えます。その見せ方、様々な色を文章に取り入れたことで読み手に与える色彩感覚の豊かさがたいへん素敵。読み終えた後、じんわりと心が温かくなるような感触があります。
とてもよい。



魔法少女ノーベンバー
勢いとリビドーに溢れた今回最大の問題作。特にオチもないので、本当にこれがやりたかっただけなんだろうなー、というのがよく分かります。これを書くにあたって一切の躊躇が感じられないというところが恐ろしく、そして眩しい……。マトモな作品とは言いがたいですが、もうこれはこれでよいのだ。がんばれ! 魔法少女ノーベンバー!



六曜日/あゆみ
振り返ってみれば、五十年も一瞬のよう。そういう感傷と、そこから繋がるおかしみと、愛情の深さをさらりと表現しているのがとても好きなところです。二人の口調が似ていて、少々後半が読み解きづらくなっているところが玉に瑕なんだけれども、きっとそもそもこの二人は似た者同士なんでしょう。そういう余韻がよい。



novem.ber.venom/俳諧老人
星新一大先生が今存命ならきっとこのネタは使うだろうなあ、と思わせるような着眼点、「起死回生の策」の発想がまず優れていると思います。余韻を残さずすとんと切る終わらせ方もこの話にはよく合っている感じ。「最高限度の健康的かつ文化的な生活」というフレーズから感じるシニカルなセンスも好きです。



親父狩り/息子
なんだろうこのセンス。謎です。最後のオチにも独特の感性を感じる。そして「www」や「、、、」を使いつつも、基本的には文章を書くことに慣れている感じがある。なんとも言えない感触のある作品で、これと言って何かが起きる話ではないのに不思議と最後の一言の余韻が長く残る感じでした。



こんな感じです。解答編に続くよ。

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