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今日が昨日で明日が今日で

ハイヒールを履くといい女になれた気がする。

なれた気がするのではなく、本当に
いい女になれるのが7cmヒールの魔法。

そしてわたしはその魔法が切れた。

階段を降りながら、コンビニで買った
パックのりんごジュースを飲もうとして
足を踏み外した。

毎日通勤前に最寄り駅にあるコンビニで
買っている88円のりんごジュース。

左肩にスカイブルーのカバンを掛け、
左手にりんごジュースをもち、
右手でストローを刺すのが日課。

それなのに今日はなぜか
右手にりんごジュースをもち、
左手でストローを刺そうとして転げ落ちた。

幸い左側に手すりがあったため
ストローを投げ捨て、手すりをつかみ、
3段目で止まれた。不幸中の幸いというやつか。

と、思ったのも束の間

ヒールが根本から折れた。

あぁ。今日は仕事の打ち合わせがあるのに。
いい女ヒールで、勝ち気に颯爽と職場に
登場する予定だったのに。

仕方ない。
職場でリラックス用に履くクロックスが
たまたま手元にあったので、ヒールを
ビニール袋に入れ、クロックスに履き替えた。

歩きやすさと引き換えに自尊心を
持っていかれたような気分になる。
いや、元々自尊心などかりそめのもので
そんなに高くはない。

スニーカーもフラットシューズも
靴箱には入っている。
しかし、仕事のときは必ずハイヒールを
履くようにしている。
自尊心が低く、誰かの意見にすぐ流される。
それでもってプライドは高い。
嫌なやつ。それがわたし。

そんな風に卑下している自分が大嫌いだが、
いまさら性格はかわらない。

だから外見だけでもプライドにあった
格好をするようにしている。

これがわたしには効果的だった。

ふたりきりで飲みに行こうと誘ってくる
気分の悪い上司にきっぱり断りを
いれることができるようになったし、
役職がついて出世もした。

帰り道は折れたヒールをお直しにだして
わたしの自尊心も回復してもらおう。

日々を退屈に思うときには
いつもと違う行動をしてみると
景色が変わるのかもしれない。

わたしは初めて駅の階段の
手すり裏を見ることができた。


#創作大賞2022

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