見出し画像

「平場の月」を読んだ

年末から年明けにかけて、朝倉 かすみ「平場の月」という小説を読んだ。

たまたま本屋さんにあって、知らない作家さんだったのだけど何となく恋愛小説が読みたい気分だったのかな。そんな感じで手に取った。

50歳の男女の恋愛小説で、洗練とかお洒落とかそういうのとは対極の、郊外の街が舞台の言ってみれば狭い世界での人間関係(朝霞市が舞台のようです)。この物語の登場人物と同世代で、同じように中学時代から同じ土地に暮らしていて独身の自分には共感できる点や考えさせられる点がいくつもあった。

とある50歳男性が中学時代に告白してふられた女子に、胃の検査で行った病院の売店でたまたま出会って、じわっと恋愛関係になるが、彼女の方は病気で…というストーリー。

文体や話し言葉は独特のものだが、中学時代に男女が苗字を呼び捨てで呼び合うあの感じでそのまま大人になった人たちのやり取りと思うとリアリティがあるようにも思えた。ユニクロや無印とか、池袋の西武やメトロポリタンとか、なじみのある固有名詞も出てくる。

病気の話なんだけど、お涙頂戴のドラマティックな演出もなく、淡々と日常が進んでいくところがかえって辛い。

登場人物は、主人公の青砥も、病を抱えながら生きている須藤も、須藤の妹も、ほかの人も誰一人好きにはなれないんだけど、(というところでこの小説に対する評価は一段階下がるのだけど)言葉の言い回しが面白いこととか人生についていろいろと考えさせられるところは良かった。

現実問題、青砥のようにナチュラルに女子をおまえって呼んでしまう男子、中学時代でも大人になってからも苦手すぎる。でも読者にそう思わせるところはこの作者さんが上手いのかもしれない。

この小説で特に思ったのは、50代になると「自分の人生の締めくくり」を考えなきゃならんのだな、ということ。まだ早いという気もしなくもないが、同世代を見ていると急に体調や老親の話が増える。50代に入ると「人生の終わりの始まり」って文庫の解説の中江有里が書いていたけど、ほんとそうなのだ。それを実感する。友人が最近癌になったという知らせを聞いたのもあるかも。

須藤(というこの小説の女主人公)も病気によって尚更考えなければならなかったんだろうけど、健康だとしても特に独り者の自分としては、「自分の人生の締めくくりをどうしたものか」というのをもう忘れてはいられないな、ということを年が明けたばかりのタイミングにこの小説を読み終わって思ったのだった。

初noteで新年なのに暗い話だなあ。映像だとここまで感情移入せず娯楽として消化できるのだが、小説は小説で入り込めて良いなと思った次第。でも50代の恋愛がうらやましいとかは全然思わなかった。自分にとっては恋愛はもうファンタジーで自分の世界には存在しない出来事なのだ。その話はまた機会があったら書きます。

そういえばこの文庫の帯に「映画化決定」と書かれていて検索したのだがまだキャストは決まっていないようだった。50歳前後で誰が良いかなー、と考えるのはなかなか面白い。須藤のキャラクターを誰が演じるのか、麻生久美子とかどうかと思ったけどまだ若いわな。原田知世は可憐すぎるかな。


という読書感想文をお正月に書いて放置してたので公開しとく。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?