【鑑賞】第七の封印/野いちご/不良少女モニカ

【鑑賞】第七の封印 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

久々ベルイマン。疫病蔓延から魔女狩りが勃発している最中の中世ヨーロッパ。エルサレム遠征で身体も魂も酷使された元十字軍の兵士(マックス・フォン・シドー)と死神(ベント・エケロート)が浜辺でチェスを指し始める序幕から最後、死神が鎌を片手に兵士達とその妻、恋人を死へと連れ去っていくシーンまで絵画的豊穣と聖書からインスパイアを受け、映画で二次創作を実践したベルイマン的厳格さ、彼の世界がすでに完成している。商業的ラブコメ『夏の夜は三度微笑む』がパルム・ドールで詩的ユーモア賞を受賞すると「低予算だったら」を条件に好きなものを作って良いと会社から言われて、ベルイマンが真っ先に作った今作。兵士と死神のシークエンスが与える「陰」と旅芸人夫婦(ニルス・ポッペ、ビビ・アンデショーン)のシークエンスが纏っている「陽」の黒白のコントラストは美しく描かれ切っており、監督が意図したであろう効用は最大限に発揮されている。絶望的なご時世を背景に作られている作品だからこそユーモアと温かさ、グンナール・フィッシェーの撮影が際立つ。演劇的大仰だが質素。ベルイマンの趣味の良さとスウェーデンの実力ある役者たちによって完璧な作品に仕上げられている。正直、今の社会状況に驚くほど重なって、自分の琴線に驚くほど触れた、刺さったのが意外だった。数年前に見て以来の再視聴だったがその時より現代は悪化している。もしくは自分の心が荒んだのか。「子羊が第七の封印を解いたとき、およそ半時間のあいだ、天に静けさがあった。7つのラッパを持った7人の御使いがラッパを吹く用意をした」視覚的鮮度がいまだにフレッシュなのは魔法だ。傑作。


【鑑賞】 野いちご ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

スウェーデンでの公開から3年後に亡くなった『霊魂の不滅』の監督、ヴィクトル・シェストレムを主人公に据えたドイツ表現主義的映像の色濃い作品。ベルイマンとシェストレム。安直な喩えだが、黒澤と小津みたいな関係か。特に今作は映像面で黒澤の『羅生門』との類似性を感じた。医学教授としての長年の功績を讃えられ、授賞式に向かうまでのロードムービー。道中、断続的に繰り出される夢のシークエンスが美しい。表現とはこれぐらい朴訥なほうがかえって心に来るものがある。「野いちご」をきっかけに甦る過去の色恋。実弟に略奪された初恋。妻の不倫。現在は夫と別居中で道すがら義父のパートナーを務めるマリアン(イングリット・チューリン)の恢復の物語でもある。夫に中絶するよう迫られた(出産を拒絶された)腹の子を産むことを決意する。教授は自らの死期を悟り、自分が棺に収められ、馬車で運ばれる光景が夢にまで出てくる。終わりを迎える命とこれから生まれてくる命。ヴィクトル・シェストレムの顔をいくら見ても見飽きない、とベルイマンはかつて言った。確かにこの役に彼以上の適任は思いつかない。『第七の封印』で主役を務めたマックス・フォン・シドーが今作ではガソリンスタンドの店主の端役をやってたのは今回初めて知った。再視聴のはずなのに。


【鑑賞】 不良少女モニカ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

1952年作品。『バルタザールどこへ行く』や『中国女』でヒロイン(ヒロイン?中国女という映画でヒロインが?)役のアンヌ・ヴィアゼムスキーが上梓した『少女』という『バルタザール』撮影中の監督ロベール・ブレッソンとの交流を綴った、ルポ的私小説を読んでからは、作品の見方がある意味で変わった。変わったというより安心を与えられた感じだ。『バルタザール』みたいな静かな作品でさえ、監督のブレッソンは40歳近く年下のアンヌを撮影中は同じ宿の隣の部屋で寝泊まりさせ、スタッフはおろか男優とすらお近づきになるのすら「汚れる」として厭がり、始終自分の隣に付き添わせた。ベルイマンも案の定といったら失礼だが、モニカ役のハリエットアンデションとは撮影当時、恋人の関係にあった。そのベルイマンの目線を通じて、彼女を見るからであろう、アンデションの快活な魅力によって映像に引き寄せられる。イングリット・チューリン、ビルギッタ・ペテルソン、ビビ・アンデション、イングリット・バーグマン、リヴ・ウルマン等ベルイマンが美しく切り取った女優を挙げ出したらキリがない。作品の内容は、裕福でない青年と少女がロマンチックでもなんでもない飲み屋で出逢い、暇つぶしに色恋にふけながら、どこか遠くを見ながら倦んでいるうちにやがて現実を直視せざるを得なくなる。このときのハリエットは『鏡の中にある如く』の頃よりすこしふくよかな体格であると思う。肉欲的なイメージを直接ぶつけてくる感じだ。しかし、海の描写、太陽に照らされる男と女の映し方は見事ととしか言いようがない。ミアハンセンラヴもそうだし、ロメールもそうだし、ヨーロッパ映画と言えばバカンスだよね。自然豊か、燦々と照りつける海と白い小麦肌の若い男女にカメラ回してるだけで、予算掛けずにここまでいい映画になるんだもんなあ。やっぱヨーロッパ人の被写体は正義。

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