【鑑賞】ノマドランド/ファーザー・クリスマス/君たちはどう生きるか


【鑑賞】ノマドランド ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

夫を喪い、家と職を捨て、ノマド(流浪の民)となった齢60の元代用教員(フランシス・マクドーマンド)。痩せた大地広がる寒々とした田舎町でその日暮らしのノマド生活を送りながら、しかしノマドの厳しい生活が送る冷たい風こそ虚無的な彼女の求めているものなのかもしれない。人はやがて遅かれ早かれ永遠の眠りにつく。それまでに後悔のない人生を送れるか、自分に言い聞かせるように過ごす高齢者のノマドたち。排泄の処理から夜間の防寒対策までキャンプ生活の浪漫たるや欠片もない。途中、定住の選択肢を与えられるがそれを拒み、死んだ夫とのノスタルジーに浸るでもなく、彼女のノマド生活は続く。室内での暖かい暖炉より路上の小さな焚火を選んだ彼女の先は決して楽ではないように映るが、しかし、そこはマクドーマンド、彼女の佇まいは躍動的だ。ボロい彼女のヴァンもあと数年は動くだろう



鑑賞】 ファーザー・クリスマス
クン ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
27分の短編アニメーション。子供の頃に見て以来、二十数年ぶりの再視聴。サンタが夏のバカンス先を考える際にヨーロッパや北米だけが頭にあって、アジアやアフリカが行き先の選択肢に含まれていないことに時代性を感じる。
橇をキャンピングカー仕様に改造したり、フランスのレストランで食い過ぎて腹を下したり、ラスベガスのカジノで豪遊したりした、バカンスを振り返るアニメーションは相変わらず楽しい。当然ながらサンタは富裕層に含まれる。クリスマスシーズンが近くなると世界中から紙の便りが届き、一通一通開封してプレゼントのオーダーをとる佇まいにはリアリティがある。子供も大人も楽しめる



【鑑賞】君たちはどう生きるか ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

これでどうやら10周目。しかし、今回も上映中は飛ぶように時間が過ぎていき、全く飽きるということがない。今作をどうすれば最大に面白がれるか、に焦点を置いて自分の肉体をチューニングしてきた悪癖か。最初は冗長と感じた序盤が完璧に思え、二番煎じと揶揄されがちな既視感のある絵コンテ、作画も独自性が感じられるようになってきた。度数の高い今作に悪酔いしなくなったせいで、無限に見れてしまう。しかし、では映画の本質、核心に鑑賞を重ねるに従い、迫れているかというと、そんなことはない。むしろ、「君たちはどう生きるか」というタイトルはあくまで単なる本の題名に過ぎないと考え、不可視なものとして、そのタイトルに込められたメッセージ、主題等は考えないようにしてきた。逆説的にこの映画への解像度が増すことになったかもしれないが、宮崎駿からは1番嫌われるタチの悪い客かもしれない。そんなことはどうでもいい。
イギリスのダークファンタジー小説とクリエイター本人のフィルモグラフィーを礎石に築き上げた今作は、少年が気の毒な目に遭いながら、成長していく、ディケンズの『デイヴィッド・コパーフィールド』ものとして、過剰な母性信仰を全面的に押し出し、主人公の甘ったれた弱さを肯定するゲーテ『ファウスト』、ダンテ『神曲』的、甘ったれ自己形成アニメーションとして、古典的な香りを充満させる不思議の国のアリス形式の冒険譚として、無限に面白みを提供してくれる。マヒトとサギ男のシュールなコメディシーンも秀逸。鑑賞するたび、声を出すわけではないが笑う。
その面白みの源泉はどこから来ているのかと言うと、これまでハヤオの映画には「ナウシカとアスベル」、「シータとパズー」、「アシタカとサン」、「マルコとフィオ」など数多のソウルメイト、格好良く強いバディ達が僕らの前を通り過ぎていったわけだが、彼らはもう居なくて2023年現在、ジブリの新作をスクリーンに観に行って、残っているのは無愛想でやさぐれたボンボンと、パパゲーノみたいな醜男を腹に忍ばせた青鷺しかもう出て来てくれなくなったから、その寂しさ、無力感を感じるから彼らの掛け合いに暗い笑いが洩れてしまうのだと感じた。

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