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ネコ造形作家の私が、初めてトイプードル=ワンちゃんフィギュアを作りました。

私はネコ専門の造形作家です。しかし今回、ある縁があり初めてワンちゃんを作ることになりました。その経緯をお話しいたします。

喜んでいただけるなら

私の会社時代の仲間から「長年かわいがっていたワンちゃんを亡くされた方がいるので、そのワンちゃんを作ってもらえないか」という相談を受けました。

私の感覚では、犬と猫は大違いです。実際に骨格も動きも違うので、今まで自分の中に「ネコの感じ」という感覚はあっても、「犬の感じ」を持ったことがありません。そのため「自分に作れるのか」という迷いはあり、とても躊躇しました。

しかしその一方「自分の造形で喜んでいただける方がいるなら何でもやってみよう」という思いから、ワンちゃんの制作に初めてチャレンジしました。トイプードルです。

犬は直線的、ネコは曲線的

そこでまず犬の勉強です。ネット検索で、犬と猫の違いや特徴を調べ、また小学生用の本なども購入して勉強しました。

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【写真上:犬の体の研究で購入した本】

おおざっぱに言うと、犬はもともと平地で暮らし、群れで狩りをしていたとのこと。獲物を追いながら時間をかけて捕らえるので、走ることを優先してスパイク状に常にツメが出た足であり、また走ることがメインなので足は基本的に前後にのみ動く骨格とのこと。

一方ネコは、もともと樹の上などで暮らすことが多く、群れでなく単体で行動するので、獲物に音を気付かれずに近づくためツメの出し入れができ、そして1対1で早めに獲物の首にかみつくため、相手に抱きつく動きが必要で、そのために鎖骨があり(犬にはない)腕の可動範囲が大きいとのことでした。(ちなみにネコ科では唯一チーターだけは、走ることが優先になりツメがしまえないとのこと)。

へー、なるほど。と思いながら、今まで感覚的に持っていましたが、改めて「ネコは柔らかく曲線的」なことに対し「犬はダイナミックで直線的な動き」であることを理解しました。そして造形でもそのニュアンスを意識するように取り組みました。

感覚が全然違う

実際の造形プロセスは、今までのネコ作りと同じです。原型 →シリコーン型   →レジン →彩色 という流れです。
しかし「作る感覚」は全く違うものです。また、これも知らなかったのですが、トリミングというのでしょうか、人で言うところの散髪。このトリミングの仕方によって、かなりの幅で外見が変わります。今回のモデルになるワンちゃんも資料写真をたくさん送ってもらいましたが、それぞれでかなり見え方の幅があり、どの見え方がそのワンちゃんらしいのかが、なかなか判別できませんでした。

しかし何度も何度も資料写真をみたり、飼い主さんと何度も話し、また街を歩くときや動画でもいつもトイプードルのことを考えて見ているうちに、だんだんと「犬らしさ」「トイプードルらしさ」「その固有のワンちゃんの性格」などが、うっすらわかるような感覚も出てきました。

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【写真上:粘土原型までできたところ】

【上・動画1:作りはじめから原型完成まで。ダイジェスト】

原型ができると、造形上は完了で、後はいかにクオリティよくレジンにし、そして彩色するかです。なお、なぜシリコーン型を作る手間をかけてもレジンにするかというと、原型を作る樹脂粘土は盛り足しや研削はしやすいかわりにけっこうもろく、細かい部分などは像を倒すだけでも欠けてしまうくらい弱い素材です。

一方レジンは、私の場合ポリウレタン樹脂ですが、かなり硬い素材で、たぶん床に落としても割れはしないのではないか(やったことはないけど)というくらい強い素材です。

さらに型があるので、ある程度の個数は複製できるということも特徴です。そんな理由でレジンを最終の素材にしています。

【上・動画2:型づくりのシリコーンを注ぐまで。ダイジェスト】

【上・動画3:シリコーンを分割して原型を取り出し、型の完成まで。ダイジェスト】

【上・動画4:レジン注型から、研磨して仕上げるまで。ダイジェスト】

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【写真上:レジンモデルの完成】

最大の難関。「巻き毛」表現

今回の制作で、最も目途の立っていないプロセスが彩色です。トイプードルは毛がウエーブする巻き毛が特徴です。今まで巻き毛のネコは作ったことがなく、ようやく彩色で自分なりの手法を確立しかけている今、「巻き毛表現」という大きな壁が立ちはだかりました。

もちろん。一発本番は危険なので、テストをします。第一段階は平面上=紙に描いてみます。次はレジン造形に実際に試します。このテストができることも、型からの複製であるメリットの1つです。

巻き毛は素直にクルクル描き

現在、私が編み出した彩色の手法は、ベースにアクリル絵具を塗り、かなり近い色味にした後、毛並みの表現としては色鉛筆で(感覚的には毛を1本づつ)描きこみ重ねていくイメージです。しかしこの方法は直毛が前提なので同じ方法ではうまくいきません。

そこで今回の巻き毛表現は、いくつかのテストの結果、単純ですが色鉛筆を「クルクルクル」と幼児の落書きのようにまんべんなく埋めてゆくような方法。そしてそれを繰り返し重ねて毛並みの奥行きを作っていくことで、なんとか良いセンになってきました。

ただし強めの巻き毛は「体」の表現で、「頭部」はもう少し毛が長く、ウエーブした毛並みとして描き分けました。

【上・動画5:彩色から完成まで。ダイジェスト】

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【写真上:完成】

合計約70時間の制作

完成したワンちゃんは、記録用の撮影をして、さっそく依頼者さんへ送りました。そしてとても喜んでいただけて、私も挑戦して良かったと思っています。


今回、もうひとつトライしたことがあります。それは制作にどのくらいの時間がかかっているのかを、おおまかに記録してみました。するとおよそ合計70時間くらいのようです。これは純粋に作っている時間と、テストや、プロセスごとの記録撮影の時間なども入れています。

長いのか短いのか、まだよくわかりません。ただこの6年間の造形活動で制作手法は洗練され効率的にり無駄はだいぶ減りました。また、そもそも私は何時間かかろうと作っている時間が楽しいので、まったく苦にならないし、むしろずっとやっていたいくらいです。その結果が約70時間でした。

さて今後、ワンちゃんも作っていけるかは、まだわかりませんが、しかしそれも視野に入れて活動していこうとは思っています。


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